9.(sideクラウド)
ぼくは、クラウド・ハリス。
ギルド職員。18歳。
もうずっと、ひとりの人に恋をしている。
リディアさんは職場の先輩。
猫の獣人。23歳。
柔らかそうな栗色の髪に榛色の瞳。
ぷっくり赤い唇と小ぶりな鼻。
それらがバランスよく配置された顔は人形のように整っていて一見近寄りがたいけど、スッキリさっぱり朗らかな性格で皆から慕われている。
たまにすっとぼけた事を言ってみんなを困惑させているが、あれはたぶん前世持ちのせい。
ぼくがギルド職員になったのは、リディアさんとお近づきになりたいという不純な動機からだ。どうにかこうにか接点を持ちたくて必死だった。
13の時、リディアさんに助けてもらった。
彼女はぼくの恩人。
当時のぼくは体内を巡る魔導菅のつまりが原因で人型をうまく保てないでいた。
獣人、人、魔物、動物。
それらは似て非なるもので、獣人が獣そのものになることはない。それが定説。
だからトカゲの姿になってしまうぼくは異端で、嘲りの象徴で、惨めな思いを幾度も経験した。
その日もトカゲになってしまったぼくは、馬鹿にする奴らに捕まり運ばれポイっとどこかへ捨てられた。
ここがどこなのか分からずウロウロし、やがて夜の冷え込みに動けなくなって道端に蹲っていた。
そこを救ってくれたのがリディアさんだ。
ちょっと嫌そうにしながらも、オオトカゲなぼくを家に連れ帰り世話をしてくれた。
リディアさんは、ぼくの番だ。
一目でわかった。
芳しい匂いにフワフワした。
でもリディアさんは、まったく全然1ミリも気づいていなかった。そもそもぼくが獣人だってことも分かってなかった。
まぁそうだよね、完全にトカゲだったし。
手ずから食事を与え身を清めてくれ一緒に眠る。やってることは求愛行動なのに本人はただペットの世話をしているつもりだったと思う。
はじめは義務的だった行動に、少しずつ愛情を感じるようになると心が踊った。
ぼくのしっぽがビタンビタンと床を打つのをなんだかとても楽しそうに見ていた。
優しい手で頭をなでてもらうのが好きだった。
何もしていなくても「いい子だね」と誉めてくれる。温かく満たされて、もう少しこのままでいたいと思った。
でも共に暮らすうち、彼女が胸に溜め込んでいる苦しみや痛みを知る。
眠りながら泣く彼女に寄り添うしかできない。苦しそうに食事をする背中にかける言葉がない。どうしてぼくの手はトカゲなんだろう。慰めたいのに奇妙な鳴き声しか出ない。震える肩を抱きしめてあげられない。
あの人が欲しい。自分のものにして全てのものから守って甘やかしてどこにもやらない。泣くのも笑うのもぼくの隣で。
ぼくはある朝、人に戻る決意をし窓から抜け出した。
竜人族が番に捧げる、胸の鱗をそっと残して。




