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世紀末都市伝説『緑の男』

幕間最後の一本は、茜さん視点となります。

「――(シャア)ッ!」


 試合用の槍を裂帛(れっぱく)の気合と共に真琴(まこっちゃん)が相手の喉元を狙って突き出す。

 でも、それに相対している痩身の女性は、手にした塩ビパイプでそれを軽々といなした。


「ほいよ」


 そして、気の抜けるような掛け声と共に手首を捻るとまこっちゃんの手にした槍が軽々と宙に舞う。そのまま、体をまこっちゃんの懐にいれるとパイプを支点にしてまこっちゃんを投げ飛ばした。


「うきゃあ!?」


 いやぁ。うちもあれやられたけど、本当に訳がわからん。投げ飛ばした本人曰く『武器と体の重心さえ分かれば意外と出来るよ』とのことだが、割りとガチでやってる試合の最中にどうやってそれを判断してるのか…。


「ほい、チェック」

「あ…。参りました…」


 仰向けに倒されたまこっちゃんの喉元にパイプを突き付けた所で、試合終了。結果としては『グランドホテル』の選抜メンバー対トオコ――改めトオルさんとの手合せはこちらの完全敗北という形で幕を閉じた。


「おつかれ~」


 うちがそう声をかけると、トオルはニッと口角をつり上げる。


 以前一緒に行動した時。拒絶するように顔を隠していた彼女は東美(とうみ) 透子(とおこ)という名前では無かった。

 三日前に突然三人の女性を引き連れてうちらを訪ねてきた彼女から、すっげー軽い調子でその事を明かされた。

 彼女の本名は(とおる)というらしい。

 下の名前しか教えてくれないが、本人曰く苗字で呼ばれることが無さすぎて呼ばれても反応できないから、名前だけを明かしたとのことだ。


 彼女の探していた従妹――東美 (さち)とも縁戚関係ではなくて、たまたま救出して以降一緒に暮らしているという間柄らしい。

 うちらと出会った『サンタルチア女学院』にはあの日、彼女の私物回収に来ていただけなんだと。


 嘘を吐いていた事に対して、それを明かされた時はそりゃ、思う所が無かった訳じゃない。

 特に蛍は結構荒れてた。私の心配はなんだったのかってね。結局新しく銃(今回は猟銃だった)を融通してもらって許してたけど。……幼なじみだけにそのチョロさには驚くよ。

 だけど、これからも『ご近所付き合い』をするためにも身分を偽る事を辞めて、こちらに歩み寄ってきた彼女を拒絶できるほど、うちらが受けた恩は小さくなかった。


 最たるはもちろん『サンタルチア』で助けられた事。

 そして、彼女の手によってそこが解放された事が大きい。一人で敷地内のゾンビを一掃したと事も無げに言われた時はアゴが落ちるかと思ったよ。しかも、物資に現状困っていないからと言って、敷地内のそれらを手付かずで残したと言うもんだから、さすがに開いた口がふさがらなかった。

 トオルは『私は結構余裕あるからねー。みんなで回収した方がいいんじゃない?それに、一人だと持ち帰れないし』と実にあっけらかんと言っていたけどね。


 合流も再度持ちかけてみたけど、戦地に身を置いていて壮絶な体験をしたってのは本当らしく、そのせいで人間不振をこじらしていると、トオルは語った。

 その時に彼女の瞳に見えた、まるでコールタールを煮詰めたようにドロドロとした感情は、彼女の語る『壮絶な体験』を推し量るに余りあるモノだった。


 今現在は、保護した幸さんたっての願いもあって二人で生活しながらリハビリの最中との事なので、それ以上の勧誘は打ち止めている。


 そんなこんなでトオルと『ご近所付き合い』が始まったわけだが、彼女はまた今日も女性を数人連れて現れた。しかも、肉を持って。

 前に保護を求めた分と、今回新たに保護してもらう迷惑料との事だが、純粋にありがたい。

 人員が増えることも、肉を久しぶりに食えることも。


 そんでトオルの姿を見たまこっちゃんが試合をしてほしいって頼み込んだ結果。彼女との試合になったわけだが…。


「うう…。ここまで力量に差があるなんて…」


 試合を申し込んだ当の本人は、体育座りをして落ち込んでいる最中と来たもんだ。

 まぁ、あそこまで一方的な展開になるとはうちも思ってなかった。


 正直、まこっちゃんは持った方で、うちや楓。桂華は武器を振り下ろしたと思ったら天井眺めてたからな。たぶん、術理としては"合気"に近いんだろうけど訳がわからん。


「まあ、落ち込まないで真琴さん。あ、そう言えば飴あるけど、食べる?」

「わぁい!!」


 まこっちゃん……。さっきまでメソメソしてたのに一瞬で笑顔になってまぁ…。


 呆れを含んだ溜め息を吐いていると、トオルはこちらへと歩いてきて、うちにも飴を差し出す。

 あー……そういえば、聞きたいこともあったわ。


「あんがと。ねぇトオル」

「んー?なに?」


 自らも飴を取り出しながら、彼女は首をかしげる。


「いやぁ『学校』の奴らから昨日聞いた話なんだけどな。この三日で二つほどコミュが潰れてるらしいのよ」

「あれま。それは、物騒な話だね」

「まぁ、そうなんだけどな。で、ここからが本題なんだが。その壊滅したコミュな、いわゆる『流入組』って言って、最近になってこの街に来た奴らなのよ。しかも、来た当初からヤンチャ(・・・・)しててさ。うちにも何回かちょっかいかけてきた奴らなのよ」


 うちは、女性しか構成メンバーがいないせいで、結構な頻度で狙われる。だいたいが【技術班】の作った防衛設備で撃退される訳なんだが…。まぁ、今は関係ないな。


「ふーん。ま、モラルが世紀末に染まった奴らが消える分には問題ないんじゃない?」

「……まぁ、うちもそこは同意見なんだけどね。で、その壊滅させたヤツらしいのが目撃されたんだけど……」


 ここで一旦言葉を切って、トオルの瞳をじっと見るが、彼女は首をかしげるばかり。


「いやね、その下手人として見られてるのが全身を緑のコート(・・・・・)に包んでて、顔も見えない(・・・・・・)ヤツらしいのよ」

「……へぇ?」


 うちがそう言うと、トオルは挑発的な目でうちを見つめ返して口角を歪める。

 ……おおぅ。背筋が嫌な感じにゾクゾクする。


「なんだか知り合いの気がして聞いてみたんだけど…。なんか知らない?」

「さぁ?私は何も知らないかな(・・・・・・)


 そう言ったきり、楽しそうにニマニマ笑うばかりで彼女は何も言わずうちを見つめている。

 しばらくの間、そうやって互いに見つめあっていたが、根負けしたうちは大きく溜め息を吐いた。


「わかった。そういうことにしとく」

「そういうことにしといて」


 まぁ、うちらに敵対しない姿勢は明確にしてるし、そもそも潰された所から女性を連れてきている以上、トオルに目を付けられたのはそういう(・・・・)所だったのだろうし。


 下手につついて『ご近所付き合い』を途絶えさせるメリットも無いことだし、それ以上の追求はしないことにする。

 仮に敵対したら、たぶんこいつ容赦しないタイプだと思うし。


「……いやな世界になっちまった」


 でも、それに慣れてしまった。いや慣れなければ生き残れなかったのだから、うちには何も言えない。

 むしろ、こうやって追求はしたものの、トオルに感謝までしているぐらいだしね。


 ポツリと口から漏れたうちのボヤきに、彼女は何も反応を返さない。

 たぶん、こいつも『壮絶な体験』やこの世界に変わったせいで色々と抱えてるんだろう。


「……なんか問題起きたときは、遠慮せず頼れよな」

「ん。覚えとく」


 不貞腐れたように呟いたうちの言葉に、苦笑しつつもそう答えた彼女のどちらが本性なのだろうか。


 頭のなかにふと浮かんだそんな疑問を振り払うように、うちはもう一度大きな溜め息を漏らした。



 それから数日後。

 女性を襲っていたコミュがいくつも壊滅した結果。この世紀末に『緑の男』という都市伝説が生まれたのだが。それはまた、別のはなし。

10/26(土)投稿。

拙作をお読みいただきありがとうございます。

もしお気に召しましたら、ブクマや評価。感想などよろしくおねがいいたします。


都市伝説『緑の男(グリーンマン)

舞台となる街で、生存者の間でいつからか囁かれはじめていた都市伝説。

女性をモノの様に扱うコミュニティがあればそこに緑のコートで全身をおおった謎の男が現れて、彼らを一人残らず狩って回るのだとか。

更に、彼によって狩られた男性のペ○スは残らず破壊されているとの話で、一説によると同性愛者に付け狙われて殺された男性の怨霊がその正体だとか……。


尚。これを知った緑の男(ほんにん)

「いや、潰してねえし!?」

と狼狽えたとか。


そろそろ一日ニ話投稿がきつい!


(追記)間違えて三章一話を消してしまったので、投稿が遅れます…申し訳ありません…。

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