狩猟(裏)
幕間はあと一話の予定です。
ブラッドくんが焼いたレバーを美味しそうに平らげるのを横目に見つつ、私もパラッと塩を降ったレバーを一口。
「うっま」
おー。予想以上の美味しさに口からついつい感嘆の声が漏れる。叔父さんの集めてた漫画のワンシーンに狩猟した鹿のレバーを食べるシーンがあったから一度は食べてみたかったんたけど、これは予想以上においしい。
向こうでは内臓食いは司祭位得たせいでできなかったから、結構感動。
とれたてのレバーって全然臭み無いのね。これはさっちゃんにも食べさせてあげたい。
今度狩りに誘ってみよう。女の子には鉄分必須だしね。
うん。さっきまで魔法で冷やしてた鹿肉も十分熱がとれたしそろそろ枝肉に加工していこう。
せっかく二頭狩れたから、どうせなら帰りに茜さんに顔見せておこうかな?肉は喜ばれると思うし。
魔法で洗ったフライパン(魔鉄製)とコンロを【ストレージ】に仕舞いながらそう考えていると、私を待っている間まったりとくつろいでいたブラッドが、突然顔をあげて小さくうなり声を上げた。
それを見て、私は目深にフードを被りコートの襟を立てて口元を覆う。今日はハンタールックで出掛けてきて、どうも正解のようだ。
短くブラッドに口笛を吹くと、私の意図を察してブラッドくんは静かに立ち上がり木立の中へと消えていく。
それを見送ってから【ストレージ】を開き、空っぽのバックパックを取り出して私の横に置く。ついでに剣鉈も出しておこう。どうせ肉の加工をしなきゃいけないし。
あとは、耳に【身体強化】をかけて聴力の底上げをしておくことにしよう。
―――五…いや、六かな。
気付いてないふりをして、肉の仕分けに移る。
そして、私が一頭目の解体を終えた時に彼らは私の目の前に姿を見せた。
「こんにちは~」
そう言って挨拶してきたのは現れた四人組の先頭にいた、いかにも人の良さそうなあんちゃん。
「どうも」
短く挨拶をしながら、彼らの装備を確認。銃持ちは一人だけ。他は刺股や手製と思われる槍と長物で統一されている。
なかなかにゾンビの対策としては利にかなった装備だね。
そんなことを考えていると、現れた四人組が驚いた様に目を丸くしていた。
「何か用?」
「え?ああ、女の人だったんだ」
ああ、そこね。確かに肌の露出も指先と目元程度だし、見ただけではわかんないか。
「何してるの?」
「鹿がとれたから、解体してる」
そう言って、彼らへの興味を無くしたように手元の鹿肉へと剣鉈を振るう。え?ゾンビ切ってたやつじゃんって?魔法で浄化したら全部消えるからへーきへーき。
「ふーん。そういえば、最近肉とか食べてないなぁ。ねね、良かったら分けてくれないかな?」
「は?」
私は、その男からの厚かましい提案に対して、まるで気分を害した風に聞こえるよう声を出して、一旦剣鉈を振り下ろす手を止めた。
「……取引ではなく、分けろ。と?」
「あ、ああ!ゴメンゴメン!言い方が悪かったよ!ねぇ、キミソロでしょ?僕らのコミュニティに合流しない?肉を持ち込めば、オッケーされると思うんだけど?」
ちょいドスを聞かせた声を出すと、男は慌てたようにそう提案してくる。
それに対してあえてレスポンスを返さないでいると、何かを勘違いしたのだろう。後ろに居た銃持ちも微笑を浮かべて話に参加してくる。
「おねーさん、心配しなくていいぜ?俺らは物資調達で出てきてるだけでちゃんと拠点には女のメンバーもいるからよ!」
だいたいこの後の展開は読めるけど、まだ出てこないから、とりあえず話は続けてみるか。
「メリットがない」
「は?」
「だから、私にとってメリットがないっつてるの。それに、別にソロでもないよ。女オンリーのコミュに所属してるってだけ」
私がそう言った瞬間に、銃持ちの男の目に宿ったドロリとした光を見逃さない。
―――わかってたけど、私の敵か。
私は剣鉈を振り上げるフリをして――そのまますっぽ抜けたと見えるように、後ろ手に剣鉈を投擲する。
「ぐぎゃ」
すると、後ろからそんな間抜けた断末魔が聞こえてきた。
「ありゃ。不幸な事故が起きたね~」
そう言いながら後ろを振り返ると、そこには剣鉈を顔面から生やした男が倒れている。
目元を笑みで歪めながら、四人組に視線を戻せば彼らが先程まで顔に浮かべていた人の良さそうな笑みが消えている。
「改めて聞いてやる。何か、用?」
「チッ!」
そう聞きながら笑みを深めると、ばれてた事を察したのか四人組が各々手に持った武器をこちらへと向ける。
んー。赤点。
まぁ、こっから先は言葉は不要ってことで。
魔力を回して限定的だった【身体強化】を全身に巡らせて銃持ちの後ろへと一足で移動。
そのまま銃身をへし折ってからそいつの頭を掴み軽く捻りながら引っ張る。
とたんに静かな森に響く鈍くて湿った音。何が起こったのか理解していない男達の中から、次に選ぶのは槍を持った二人の男。
袖口から滑り落ちるように出てきた棒手裏剣を特に構えることもなく投擲。あ。力入りすぎて頭が破裂した。
「いやぁ、失敗失敗。」
「……は?」
お仲間の四人が瞬く間に倒されて呆けている話しかけてきた刺股持ちを足払いして、地面に組伏せる。
あ。遠ざかっていっていた足音の方向から断末魔が聞こえてきた。ブラッドもやるねぇ。
感嘆の口笛を吹きながらも【ストレージ】を開けて≪慈悲の針≫とおくすりを取り出す。逃げようともがく男を押さえながらカートリッジに薬を装填。薬の入った慈悲の針をその首筋へと突き立てた。
しばらくガタガタと震えていた男の体から、フッと力が抜ける。
うん。効いたみたいだね。
おっと、ブラッドくんも戻ってきた。うん。そんなのいらないから、その辺にポイしなさい。
―――いつか話したかもしれないが、今私の使った≪慈悲の針≫これは、医療道具としての側面もあるが、暗器である。
なんでそんな物騒な代物に『慈悲』なんて名付けられてるかって?
当然だろう。これは、悪人に現世で地獄の苦しみを与え、罪を強制的に告解させる事で、穢れた魂を浄化して神の御許へと送るために慈悲を与える道具なのだから。
ジョーを殺されて以降、私は賊に対して割りとなんでもやった。
しかし、あちらの世界で処刑・拷問・暗殺は裁きと浄化の神を奉ずるひとつの教団しか、それ行う権限を神から許されていなかった。だから、その権利を求めて私はその教団の司祭位を得たのだ。
そして、私が司祭位を授けられた時に仕事道具として賜ったのがこの≪慈悲の針≫だ。
本来なら地獄(正確には違うけど)で受ける責め苦を全て現世で体験させて、その魂の内に抱えた罪を残らず告解させて、最後には慈悲をもって神の御許へと責任をもって送る――それが、他者の生を踏みにじった者へ神の与える唯一の慈悲である。
爪先で力の抜けた男をひっくり返せばどこか恍惚としながらも、視線をただ虚ろにさ迷わせるだけとなった男の顔が見える。
「さて、あなたには今から全部話してもらうよ?」
今針を通して打ち込んだのは、かなり強力で依存性も強いこっちで言う麻薬の一種だ。
これを打たれたら最後。胸の中には幸福感が溢れて正常な判断が一切できなくなる。
そして、質問をされると答えずには居られなくなる代物。
まぁ、自白剤の一種と思ってくれていい。
そして、男に聞いていく。
属するコミュニティの内情を。私になぜ近付いたのかを。
全て聞き終わった私は、男に"針"で毒液を注入して『神の御許へ』向かわせる頃にはすっかり空は茜色に染まっていた。
私とブラッドは、共に黄昏の輝きに照らされながらお話で聞き出せた彼らの拠点へと歩いていく。
「さあ、賊討伐の始まりだ」
―――結局。予定以上に狩りに手間取ったうえ、被害女性たちを『グラウンドホテル』へと届けたせいで。
その日私とブラッドが拠点へとたどり着いたのは完全に夜の帳が落ちきった後となってしまい、その間ずっと起きて待っていたさっちゃんからのお説教を受けることになったのでした。
10/26(土)投稿。
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