表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
苺とブドウ  作者: 黒雪
6/31

6 宰相は見た




以前より奇行だら……げふんげふん、少々変わった事をなさるお方だったが、あの時ほど呆れた事は無かったであろう。


宰相のミゲレンの言である。

連日、昼食をとるといずこへか姿を消し、政務の一切を放り出したまま酷い時は数日帰って来ないこともある中、珍しく日も高々と輝くうちに宮殿へ戻って来た王は、とんでもなく焦げ臭い消炭を伴っていた。

見れば消炭は生物で、しかも、恐ろしく焦げていると言うにも関わらず、どうした訳かしっかりと息があった。


まさか非常食代わりに持ち帰ったのか……?と疑うも、王はミゲレンの姿を認めると、焦げた生物の治療を申し付けて執務室へ篭ってしまった。

こんがり食べ頃を頂こうというわけではないのか、と何処かでホッとしたが、すぐに、何故こんな突飛な真似を?という疑問が涌いて出た。


そして、ミゲレンの疑問は間を置かず驚愕へと取って代わる事になる。

黒焦げの生物を治癒の魔法で癒していて漸く気付く、ずっと感じていた違和感。


これは何だ?

……レプティリアの民では無い。

では何か?

……これは……、これは人間なのでは。

いやしかし、これが人間であるわけが……


あれだけの状態で、しかしその生物は生きながらえていた。

治癒の魔法によるのは恐らく体力の回復程度だろうか。

全身を清めてみれば、既に肌は再生を果たしていた。

人間が、これほどの生命力を備えているとは聞いていない。

どのような生物であれ、生きているのが奇跡としか言いようが無いのだ。

どういった経緯で王がこの生物を見つけ、拾って来たのか、ミゲレンには推す術も無いが、二つだけ解る事がある。


この生物は、レプティリアの民では無いという事。

そして、この生物は結界を何らかの形で通り抜け、この森へ入ってきたという事。


王は何を思ってこのような者を連れ帰ったのか。

そんな事を思っていた矢先、元・消炭が、生物学上、人間の、それも随分と幼い、まさかの「雌」、であると解ってしまった。


「王ー!?それは、なりませぬぞー!!!」


……と、驚愕のあまり叫んでしまった事は、その場にいた側仕えと治癒に当たった魔導師には、かたくかたく口止めしてある。

さすがに、「今まで后を迎える話の一つも出ていなかった王が、何をトチ狂ったか、人間の、しかも少女などに手を出そうとしているのでは、と思ってしまった」、などとは口が裂けても言えない。

更に言うならば、「王はロリコ(自粛)!?と驚愕したのが、長い人生の中で最も強烈でダメージ大きかった」、とも言えない。


幸い、今に至るまで、この事は誰の口からも漏れてはいないらしく、王の耳には届いていないようだ……良かった良かった。

まあ、何にせよ、王が問題を持ち帰った事は明白だが、人間と思しき生物が意識を取り戻せば、聞き出せる事は多くあるだろう。


驚異的な回復力を見せる人間が意識を失ったままでいるとも思えないので、謎が解けるのもさほど時間はかからないだろうと高をくくっていた。

そのような事があった後の領主会議を兼ねた晩餐に同伴した折、王にどういうつもりなのかと詳しく説明を要求すると、


「土産に良いと思ったのだ」


という、予想の斜め上を行く答えを返され、ミゲレンは言葉を失った。

少なくとも何か含む所があって連れ帰った訳では無いらしい、という事を、なんとか理解するうちに猛烈な苛立ちに襲われる。


「おでかけといったらお土産、これが鉄則というものらしいぞ」


などと誇らしげな王を、本気で蹴り飛ばしたくなった瞬間だった。

もっとも、領主会議も終盤に差し掛かり、雑談モードに入った折に、王につき従い歩くふりをしつつ、それとなく王のアキレス腱を蹴飛ばしてやったので、ほんの少しばかり胸がスッとした事は内緒だ。






大蛇の王をレプティリアの長に迎えて数十年。

ミゲレンが思う以上に、蛇の王は恐ろしく能天気で考え無しである。

それを改めて思い知った出来事であった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ