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苺とブドウ  作者: 黒雪
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1 散歩日和な昼下がり

プロローグ的な。




ある晴れた昼下がり。

暑くも無く、寒くも無く、言うなれば絶好の散歩日和。

市場へは続かない大森林の道なき道を、颯爽と歩く者がひとり。




いつものように王様が鬱蒼と茂りまくる森を散策し始めると、遠く宮殿の方から何やら複数の声が聞こえて来る。

王様は、普段からそうしているように誰にも何も言わずコッソリ宮殿から抜け出してきたので、「まったく。毎日騒々しい事だ」と、他人事のように言いつつも、最大全速で宮殿から遠ざかる事にした。


「さがせさがせ!殿を逃がすでないぞ!!」

「今日こそは政務を(云々かんぬん)……!」


等と聞こえてくるので、尚更歩みは速くなるというものだ。


本気の逃走モードになった王様に誰も追いつける訳は無く、結局普段同様に追っ手をまいた王様は、趣味である森林散策を再開した。

誰にも邪魔されずに好き勝手出来るのはいいことだなぁ、等と思いながら。


とある事情でレプティリアの王位を継いで以来、こうして王様は毎日のように宮殿を抜け出しては森の中へ逃亡する事を日課としていた。

初めのうちこそ周囲への嫌がらせ同然に始めた事だったが、今では食後にこうして体を動かさないとなんとも一日調子が悪いので、半ば強迫観念にかられて散歩と称する逃亡を繰り返しているのである。


強迫観念にかられている時点でそれは最早趣味とは言いがたい。

……のではあるが、王様はたいそうプライドがお高くていらっしゃるので、決してそれを認めようとはしない、いわゆる天邪鬼さんだった。


ちょっとした悪戯から始めた事も、初志貫徹、それがどれ程重荷になろうとも、途中で投げ出す訳にはいかないのだ。

……などと、尤もらしくもない破綻した言い訳をして、王様は今日もご機嫌麗しく、鬱蒼と茂る森へと分け入るのであった。

さながらゲリラのように。(不審者とも言う)



どれほど歩いただろうか、恐らく人が踏み入った事の無いような奥地までやって来て、漸く王様は一休みする事にした。

こんな時だけ、従者の一人も連れてくれば良かっただろうか?等と思ってしまう。

必死に追いすがる従者すらも煙に巻いてすたこら逃亡を計ったのは他でもない自分だという事を忘れて。


「まったく。使えない従者だ。このような時に、主の下におらぬとは……」


従者さえいればやおらこの薄暗い木陰に絨毯が引かれ、豪奢なテーブルと椅子が置かれ、そこには煌びやかなティーセットと淹れたての芳しい香を放つ紅茶が並び、そして従者の手には、大きな盆に乗った美味しそうなケーキがこれでもかとズラズラ並び、選び放題のおかわりし放題の……


と、そこで妄想するのをやめた。

虚しいし、腹が減るだけだ。


……おかしいな、ついさっきゴハン食べたばっかりなのだがな?などと思いながら、思考の大半を奪うケーキの幻想を、口元に光る涎と共に振り払う。

たったひとりの従者にそこまで完璧なセッティングが出来るかどうかについては王様の知った事ではないので当然考えない。

煙に巻かれたのに罵られる従者はいい迷惑である。


それにしても、やはり少し喉が渇いた、何か飲みたい。

そんな事をぼんやり考えていると、ふとある事を思い出した。


たしか数年前、この辺りを散策していた時に、あけびの木を見つけたようなそうでなかったような……どうだったっけ?

そうそう、そうだ、実がなる頃にまた来よう、などと思っていたが、すっかり忘れて現在に至るのだった。

まさしく丁度あけびが食べ頃な時期ではないか?食べて下さいと相手は待っているのだ、これを食べずして何とする、男がすたるというものだ。


……まあ別にそこまででも無い気が凄くするんだがな、とは思いつつも、古い記憶を必死こいて呼び覚まし、あけびの群生地を探し始める王様。


すぐ傍らを、清水がさらさら小川を作って流れていた。

あけびより水を飲め、という天の声が聞こえたような気がしなくもないが、当然王様がそんな声を聞く耳を持っている訳など無いのだった。




むーんらいとのべるずに投稿したお話に少し関係する部分があるので転載決定。自サイトへの初掲載2009年10月5日、脱稿2010年1月21日。

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