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ep11.邂逅3

 ギンリとロモスに気取けどられないように、狭間の砦のコアルームへと戻ってくると、早速ワタシはシェールの何とも言えない顔を横目にしつつ、コアの機能を使った通信回線を開く。



「おかえりなさいませ、クアラさま。無事のお戻り祝着至極にございます」



「ああ、うん」



 ワタシの想像に間違いがないなら、恐らくは検索にヤツが引っ掛かってくる筈だ。なおざりになるシェールへの返答さえも今は煩わしい。

 発信選択先を検索させてマールの名前を調べ、見つけ次第に選んで回線を開くように促す。

 というか、この通信機能はコアを持っている者にのみ適応されるんだが、少なくとも呼び出せる時点でマールという存在が意味する事がおおよそ理解できる。いや、正確には事実を把握できる、という意味であって、彼の意図するところは理解出来ていない。



「聞かせてもらおうじゃないか……」



「……ぇ?」



 小さく疑問の声を挙げるシェールの可憐さは、いささかも陰りを見せない。懸念していた不埒な妄想が現実になることはなかったようだ。そこにほんの少しの安堵を感じながら、ワタシはコアが映し出す映像に意識を集めた。



『コアからの呼び出しなんていつ以来だろうか。その上、美しいお嬢さん方からだなんて光栄に過ぎる話だね』



 コアが表していた、ただ暗いだけの画像にノイズが走ったかと思えば、そこに現れたのは見慣れたピエロなどではなく、金髪碧眼のやたらと気障ったらしい美男子イケメンだった。耳朶みみたぶあたりできれいに切りそろえられ、サラサラとなびく髪の毛をさり気なく指で弾く姿は様になっているが、同時に途方もない脱力感をワタシに与えてくれた。



「私の名はクアラ。突然の連絡失礼するが、ピエロ姿のマールという男との関係について答えてもらいたい」



 とりあえず要件を手短に伝える。もしもあのマールと無関係なら単なる徒労だ。ただ、唯一アイツと同じ名前というだけでも話す価値はあるかもしれない。



『ああ、やっぱり彼絡みか。……ということは新人さんだね。彼と僕とは名前が同じだけさ』



 ねぶるような瞳がモニターを介してワタシを蹂躙する。脳天から走る痺れにも似た鳥肌が指先にかけて走り抜けた。この男は全てを狙ってこの名を騙っていたのだろうと気付かされたからだ。

 ワタシは内心で小さくない舌打ちを繰り返した。焦らず慎重にを心掛けてはいたものの、早速こんな簡単な罠に引っ掛かっている時点で先が思いやられる。



 この男は待っていたのだ。私のような力の弱い状態のコアマスターを釣り上げるために、迷宮案内人のような役割を持つマールの名前をかたり、彼に教えを受けて何も考えずにコンタクトを取ってくるのを。



『クアラ、といったかな?君たちの場所は……ダーバインの北……イェスタフあたりか』



 コアの検索機能を使っているんだろう。と言うか、そんなことができるのか。早速ワタシもコイツの位置を通信先の検索結果から見てみると、位置表示に関する表記を見つけて選択した。すると、相変わらずこの世界を切り取ったような精巧な地図が表示され、金髪のマールの位置が赤い光点として明滅している画面が表示された。



「そういうお前は……随分遠いな」



 金髪のマールに軽く笑い返してやると、それまで見せていた不敵な笑いが失せた。どこか軽薄に感じられた態度も消え失せて、残ったのは完全に無表情で何も写していない空虚な瞳を持った人形のような男の姿だった。不意に口だけが動いているような仕草で言葉を返す。



『そうか、覚醒者でもあるのか。油断は禁物だな』



 覚醒?どういう事か分からないが、ヤツの注意を喚起出来たようだ。他のダンジョンマスターがどういった繋がりを持つのが一般的なのかは分からないが、ダンジョンマスターとして生み出されたときから感じる飢えを満たす欲求は、変わらずワタシを苛み続けている。ということは、他のダンジョンコアを奪うこともまた、ごくごく当たり前のように行われていたとしてもおかしな話ではない。

 となれば、ヤツが行っているのは言うなれば【初心者狩り】だ。

 常態的に初心者を狩ってきたヤツが手を出しづらくなる何かが、【覚醒者】という言葉に込められているような気がした。



「どうかしたのか?マール」



 あえて挑発するように、ワタシはヤツの名前を強調した。すると、それまで無表情だった顔に赤みがさし、何も写していなかった瞳が怒りなのか、憤りのような感情を写して言葉へと変えた。



『ちっ!もう用はないんだろう?切らせてもらうぞ』



 金髪のマールはそう言い放つと、ワタシの返事を待つことなく通信を一方的に切った。よほど気に触ったのだろうが、少なくともこれで余計な諍いを回避できた……筈だ。



「……クアラ様、先程の方は?」



 心配させてしまったのか、シェールがかなり怪訝な表情でワタシに伺いを立てた。下らないことでシェールにも不快な思いをさせてしまったようだ。



「うん、勘違いだったんだけど、どうやら敵の一人みたいだね」



「不遜な男でしたね。クアラ様にあのような……」



 シェールがブツブツと金髪マールへ毒づいているのを横目に、ワタシは密かに反省していた。湧き上がる衝動とゼニーへの渇望は見事な共演をはたし、ワタシの理性を少しばかり違ったベクトルへと誘導したようだ。



 ――そうか、焦っていたんだ。



 この世界に復讐をするために、手当り次第に噛み付こうとしていたんだ、ワタシは。

 ダンジョン協会という名のコアやダンジョンが存在しているのでは?というワタシの推測は少々見当違いだったようだ。本当の意味では確定したわけではないけど、今のところはその確証が、ピエロのマールやダンジョン協会の関係者を見つけない限りはわからない。



(とりあえず、このダンジョンをどうにかしないと駄目だね)



 この数週間で結構な額が生成されている、当初の目標もこれだけあればどうにかなるだろう。ワタシは未だブツブツと文句を言っているシェールの怖すぎる妄想を止めると、早速情報交換とダンジョン生成について話を進めるのだった。


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