ep12.蠢動
「なるほど、ってことは本当にこのあたりに人が来ることは珍しいのが現状なんだ」
ひとまず金髪のことは置いておいて、砦を出る前にお願いしていた情報についてシェールから報告を聞いた感想はこうだ。どうやらこの辺りは本当にギンリやロモスくらいしか通る人は居ないようで、山の幸もふもとに群生するジャボロブの影響ですんなりと立ち入ることも出来ず、砦の状態からも分かるようにかなり長い期間放置されてきた、という話だった。
そこでワタシはシェールの情報収集方法に大きな疑問を抱いた。
――どうやってそんなタイムリーな噂を集めたのか?
これまではもともと備えていた知識だったから、という前提条件で十分理解できる知識を披露していた(と思う)シェールだが、今回の情報は時間的に極めて新しいものだ。そんな情報を砦のモンスターたちを指揮しながらどうやって行っていたのか?
「シェール。その話は誰から聞いたの?」
「はい、精霊ジンに手伝ってもらいました」
「へ、へえそうなんだ。知識と見聞を備えた非物理高次元体の中でも、おっそろしく気位が高くて人間ごときでは姿はおろか存在が大きすぎて感知できないって聞いたことがある、あの風の精霊ジンかあ!」
シェールがあまりにもあっさりと教えてくれるからアレだったんだけど、その異常さを解説気味に突っ込んでいたらますます意味が分からなくなってきた。指先からシルフなんだろうとは思うんだけど、小さくて半透明の羽の生えた妖精のような存在がまとわりつくようにシェールの周りへと広がっていく。そよそよとなびく風にあおられてゆらめく白に近い金髪がキラキラと精霊の放つ魔力に充てられて輝いていく。その姿は来ているドレスの素材にも魔力を通しているからか、全身にまとわりつくシルフやウンディーネ、ウィルオーウィスプたちの競演が小さなパレードのような様相を呈していた。
わー、、綺麗だなあ。
……なんて惚けている場合じゃないや。ワタシの過去も大概だけど、シェールも相当な存在なんだってことがようやく分かってきた。この子ハイエルフって言ってたけど限りなくエンシェントに類する存在なんじゃないだろうか。
「シェールは他にどんな精霊と交信ができるの?」
「水、風、光の精霊とは親密な関係と言えますが、土、闇、火などの精霊とはあまり交信が活発とは言えません」
特に闇や火は存在として交信が行えないに等しい制約を受けているそうだ。六属性すべてに適正がありながら、どれも極めることのできなかったワタシにとっては羨ましい話だ。ワタシは精々下位属性から中位属性の精霊と交信するのがやっとだった。ほかにも種族特性といえるモノはあったけど。
……これは、ますます目的への道が目指しやすくなったと言えるかもしれない。内心の野望に薄暗い炎をともしながら、これからの展望に思いをはせる。
いずれにしても当初の目的である店舗経営のための人員、店舗制作の人員、またそれを循環させるための人員を生成して集落から始め、いわば開拓地を建設していくことから手を付けなければならない。
さっそくワタシはそのために選び出していた人員を生成リストから選択し、購入する。ゼニーの所持数を意味する数値が明らかに目減りし、2近くまで増えていたゼニーが1を切った。
やがてさほど大きくもないコアルームに三体の光源が浮かび上がり、存在のコアとなる部位から中心に失われた光と引き換えのようにそれぞれの体が具現化されていく。足の指先から毛の一本一本、はては構成される衣類の繊維に至るまでワタシという因子が組み込まれて完成する生成のモンスターたち三人が具現化し、一斉に片膝をつき頭を垂れて忠誠の言葉を述べた。
「忠誠を」
「偉大なるマスターに忠誠を捧げます」
「ここに忠誠を捧げる」
ゴワゴワとした赤褐色の髪の毛が無造作に広がり、髭とくっついているためにどこからが髭でどこからが髪の毛なのかわからない。背はそれほど大きくなくワタシと変わらないくらいだが、その腕は丸太のように屈強な戦士を思わせ、横幅はワタシの三倍はある。穴倉の生活が基本のためか色素の薄い茶色の瞳が愛らしいが、顔をはじめとした全身の皮膚はさながら鉄のような浅黒さだ。
「ドワーフの鉱夫、ヴェモル、です」
たどたどしいながらも紳士な印象を抱かせる言葉が、ぽつぽつと彼の口から流れた。非常に頑強な種族として知られるドワーフだが、彼はその中ではどの位の能力の持ち主なんだろうか?
「人でもなく、魔でもない者、ロキシアと申します」
続いて挨拶を語るのは、黒というよりは灰色にも見える髪を肩まで伸ばした妙齢の美女だ。吸い込まれそうなブルーサファイアの瞳は憂いを帯びていて、伏し目がちな仕草は多くの男たちを虜にしてしまう事だろう。さながら椿のような美しさでありながら質素な服装が身を包んでいるあたり、手が届きそうな高嶺の花のような印象を他人に与えている。
彼女はいわゆるヴァンピール、人とバンパイアのハーフだ。
最後の一人は完全に戦士だ。
どこからどう見ても戦士であり、その存在の全てで戦いを意味する。
「名はジード、ワモイの戦士だ」
見た目はほとんど人なのだが、少々強めの癖がある髪の毛や、耳がやや特徴的なとがり方をしていたり、服装が相当に奇抜な民族服であることがワモイの特徴だ。分類でいえばバーバリアンに属している亜人種で、戦士魔法と呼ばれる中でもかなり特徴的な魔法を使う。転生前にかなり苦労させられた種族だ。胴体の大きさに比べて手足が長く、さながらネコ科の動物を思わせる体躯のバランスが美しい。
柔軟性に優れた強靭な肉体はもちろんだけど、視覚や聴覚なども獣染みた六感を備えていて、生まれながらの狩人であり戦士の一族なのだ。……ただ、衣服が特徴的すぎるのであとで着替えが必要だろう。
「うん、みんなよろしく」
「よろしくお願いします」
ワタシに続いてシェールも挨拶を交わすと、さっそくワタシは彼らに目的と役割を与えていくことにした。
「さて、さっそくだけど君たちには働いてもらうよ!まずはジードだけど、君はワタシの護衛兼、狩猟だ」
「はっ」
返事とともにシェールとは反対方向でワタシの傍らに控えるジード。金マールの件もあるから戦力の拡充も進めながら色々と対策は練っていかないと、その一歩としてジードには頑張ってもらうつもりだ。……着替えてから。
「次にヴェモルだけど、君には店舗の設営と家屋の設置を行ってもらうよ。土精魔法でしっかり良いものつくってね」
「承った」
パシッと手のひらにこぶしを打ち付けながらやる気を漲らせるヴェモル。おお、頼もしい!と思っていたらとなりのシェールが小さい声で「かわいい、かわいい……」と萌えている。モーナの時も思っていたんだがシェールの感性ってなんかおかしくない?アレってかわいい部類に含まれるの??
シェールの感受性については明後日の方向に置いておいて、最後にロキシアの役割を指示する。
「最後にロキシア、君はお店を経営してもらうよ?近隣で採れる素材の買取や販売を行ってもらうから、相場の習得や商売のイロハを覚えてね」
「かしこまりました、マスター」
一瞬だけ驚いていたようだけど、相場とかの知識についてはシェールから指導してもらえば、かなり近隣の相場を考慮した価格設定がおこなえると思う。あらかじめロモスさんから聞いておいたからワタシもある程度は分かるけど、どうせなら集められるだけ情報をあつめられるシェールを使わない手はない。
それにしても、シェールが居れば諜報活動なんてお手の物だし世界征服も案外簡単に出来るかもしれない。本当に良い拾い物をしたとほくそえみながら、ワタシはとりあえず冒険者としても活動していくことを視野に入れているから、ジードとコンビという事にして森林伐採やモンスター素材の収集なんかを平行してやりつつ、戦力の拡充はその都度得られるゼニーで生成かな、と考えを進めていく。
表に出せないゴブリンワーカーは山間部の開発と地下施設の建築に回して、ピエロマールのご指導で生成したモンスターは地下に放つか売り払うことにしようと思ったところで一区切りつけた。
ギンリとロモスが再び訪れるであろう一か月後までには、それなりの形が砦を中心に出来上がっていることを目標に据えて、まずはジードの服をどうするか?という問題に頭を悩ませることにした。




