夜桜with金子先生
「失礼します。夜桜です、金子先生いらっしゃいますか。」
本当に高校生かと疑うほどの美女が職員室に入ってきた。夜桜かおるだ。
金子瞳は作業中のパソコンを閉じて来い来いとジェスチャーをする。
「金子先生、こんにちは」彼女の教え子のかおるは魅力のある、女子としてはやや低い声で挨拶をした。
「こんにちは、どうしたのこんな時間に」
そうなのである。今はほとんどの生徒が帰った午後5時。まあ学校の先生はほとんどまだ残っているが生徒が職員室に来るのは珍しい。
「金子先生に相談があってきました。」きりっとした目で夜桜が見つめて来る。そのただならぬ雰囲気に緩んでいた彼女の気が一気に引き締まる。何かあったのか。
「面談室で話そうか?」
「それで頼みます。」と夜桜が言った。それにしても彼女に敬語は似合わない。美しくて聡明な子だ。そしてその誇り高い振る舞いが教師である彼女にそう思わせた。
「おし」瞳は立ち上がって彼女についていくように促した。
面談室はとっても狭い。2畳ぐらいだ。でも生徒と二人きりで話すのに最適な環境だと思う。机に対面して座る。
「えーと、夜桜。相談とは何かな」瞳は目の前の大人びた女子に聞く。
「うーんと」そう言って夜桜は考え込むように上を向く。長い髪が肩をさらさらと流れて白い首筋が見えるようになる。
若いって羨ましいなと不覚にも思ってしまった。いや彼女は若いってだけじゃなくて才能もあるんだろう。
教師は生徒を妬んではいけない。生徒の才能を磨いて輝かせる。それが教師の務めである。しかし夜桜かおる、彼女を見るとさすがに教師の瞳でさえ少し羨んでしまうほどの人格を持っている。
成績は当然のように学年一位を入学してから取り続けている。素行も問題なし。そしてその美貌。ごく普通の人生を歩んできた瞳には眩しすぎるぐらいだ。
でも、まったく手のかからない生徒だからと言って安心してはいけない。教師は生徒の心までも注意を向けなくてはならない。
瞳が初めて彼女に声をかけたのは2年前。案の定、思春期の少女らしく悩みを抱えていた。
『先生、どうすればいいんでしょう』
当時の夜桜の悩ましげな表情を思い出す。その頃も随分大人びていたが今は本当にもう大人の女性と言ってもいいぐらいだ。
目の前の彼女は言葉の続きを探している。
生徒の成長を見るのが本当に楽しい。そして少し切なくなる。教師というのは他の職業よりも時間の流れを強く感じる職業であろう。成長し、そして、3年ごとに移り変わっていく生徒を見てずくずくそう思う。
低めの声で彼女はふさわしい言葉を見つけ、紡いでいく。
「相談と言っても私のことじゃないんですよね。」
「うんうん」瞳は頷く。初めて受けた時もそうだったと思い出す。ああ、懐かしいなぁ。
「私が卒業したら彼女はどうすれば良いのかなと思って」
彼女というのは猫実未来のことだろう。
「私は大丈夫だと思ってるよ。」瞳はそう言って微笑んだ。




