活動開始。
先輩と電話をした次の日の放課後、巧はまたもや職員室にいた。今度は一人ではなくてねこざねさんもいる。
「えーと、それでお助け部に入りたいと?」
お助け部顧問の金子先生はいう。ショートカットに白衣といういつものスタイルである。
「はい」真面目に巧は返事をする。金子先生の目は真剣だ。
「いいよっ!」金子先生は真剣な顔のままひょうきんな声で答えた。
「ありがとうございます。」と隣に立っているねこざねさんが礼をした。巧もそれに習う。
「はい、じゃあこれが入部届ね、お母さんにハンコもらって明日提出して。」
お助け部の部室は文藝部とは違い、新しい部室棟にある。最近校舎の隣に建てられたその四角い建築物にまだ巧は入った事がない。
外見は白いのっぺりとした二階建てのプレハブ小屋だ。校舎そのものと比べればあんまりお金はかかってないだろう。
「ねこざねさんは普段はどのくらいお助け部にいるんですか。」部室に向かう階段を上りながら巧は何気ない質問をする。
「普段は毎日いますよ。」さらっとねこざねさんは嫌な事をいう。毎日かよぉ。巧はうんざりしたがあまり悪いことは考えないようにして階段を上る。
ねこざねさんについていくと、
「ほら、ここですよ。」
茶色い枠の磨りガラスが付いているドアの前に着いた。その磨りガラスのところに画用紙が貼ってあり、【お助け部】とクレヨンで描いてある。
そのほっこりした文字に巧は思わず頬が緩んだ。ねこざねさんは胸ポケットから小さな鍵を取り出してドアを開ける。
部室に入ると中央に学校机が二つくっついて並んでいた。椅子もセットで並んでいる。
広さはそれほどでもなく6畳ぐらい。はしっこの床には小さい本棚があり、本がいっぱいに入っている。
ねこざねさんは学校机にドスンとバッグを置いて腰かける。勉強家だから重いんでしょう。巧のバッグもそこそこ重いが教科書ではなく文庫本で重いだけである。
なんとなくねこざねさんの隣に腰かける。
するとねこざねさんがまたうんざりする言葉を発した。
「待ちます。」きりっと前を向いている。
「ええ?」巧は急な展開は苦手である。前の会話から予測できないので聞き逃す事が多い。
「待ちます。」
「待つだけですか。」やっと会話に追いついた。
「ええ、依頼人が来るまでは暇なんです。まだ放課後は始まったばっかりです。気長に待ちましょう。」
「オーケー、部長。」
「はっ?!部長って、ててて照れますっ!」ねこざねさんが赤くなってパーを前に押し出して振る。
「いや、部長なんじゃなかったっけ。」
「そそ、そうですけど、そんなこと言われるのはは初めてです、今までずっと一人でしたから。なんか恥ずかしいです。本当に自分が部長にふさわしい人間なのか自信ないです。」
「いやいや、ねこざねさんは優秀な人だと思うよ。頭もいいし。」
「褒めてもなんも出ませんからっ!」以外とと大きな声だった。多分だが腹式呼吸できてるんじゃないか。
次に何を言おうか考えてたところ、ねこざねさんが手刀を切ってスカートのポケットを探る。どうやら携帯に着信がきたようだ。巧には着信音が聞こえなかった。
「もしもし〜」だいぶリラックスした声で電話に出ているのを見ると、どうやら知り合いらしい。
しばらく話すとねこざねさんは携帯を閉じた。
「どうしましたか」巧は話の内容が聞こえなかった。むしろ聞かないのがマナーのような気もするが、隠す様子もなかったので確認する。
「巧さん、仕事です。」はきはきとねこざねさんはいう。こちらの方を向くときにトレードマークのポニーテールが揺れる。
「やっとか」
「ええ、腕がなります」ガタッとねこざねさんは立ち上がりる。
「生徒会のお手伝いの依頼です。今から生徒会室に行きましょう。バッグはここに置いていいです、重いでしょうから」
巧も立ち上がって伸びをする。やっと仕事だ。小説のネタになるようなことあるかな。新しいことをする時の高揚感がこみ上げてくる。ねこざねさんが部室の電気を消して、外に出るように促す。戸締りをすると鍵をポケットに入れて準備完了。
「行きましょう。」そう言ったねこざねさんは普段のホンワカした感じは消え去って、きりりとしたオーラを放っていた。