【???? 混濁する意識の中で】
――僕のことを、好きだと言ってくれた人がいた。
いつも僕の隣にいて、僕に笑顔をくれていた少女。
でも、僕が判断を間違えたせいで。
彼女の命は、この世から永遠に失われてしまった――。
僕が、殺したのだ。
僕の手が血に濡れたわけじゃないけど、それでも、僕が彼女を殺したのだ。
『違う』と言ってくれる人は、きっといるに違いない。
お前が悪いわけじゃないと、そう言ってくれる人は、たくさんいるに違いない。
でも、責められないからこそ、辛かった。
恨まれないからこそ、苦しかった。
あれは一種の事故なのだと、お前が彼女を死に追いやったわけじゃないと、そう言ってもらうたびに。
自分の醜さ、浅ましさを、突きつけられているようで。
だって、本当は望んでいるから。
その言葉を。
庇ってくれる人を。
慰めてくれる人の存在を。
僕は、我知らず望んでしまっているから。
僕は、結局。
僕にとっての優しい『否定』の言葉を。
自分で自分を貶めることで。
周囲の人間から、引きずり出そうとしているのだ。
それを自覚するのが、嫌だった。
その言葉に心が安らいでしまうのが、嫌だった。
そんな優しい人たちに囲まれているという事実が、嫌だった。
失った少女の名は、秋葉といった。
彼女を殺した人間の名は、和樹といった。
でもそれは、果たして本当にそうなのだろうか……?
――違う……。
――それは、違う……。
……秋葉?
……和樹?
……誰だ?
それは、誰だ……?
だって『僕』は、『和樹』なんて名前の人間じゃあない。
僕は……、『僕』の、名前は――
「――ド。早く起きないと朝食の時間に間にあわなくなるわよ? ルアルド」
『僕』の名前を呼ぶ声が聞こえる。
綺麗で穏やかなその声が、僕の耳を優しくくすぐる。
そう、『僕』は『ルアルド』。
ルアルド・デベロップだ。
大切な妹を死に追いやった、ルアルド・デベロップという名の人間だ。
ここは船の船室。
僕と彼女が乗った、定期船にある一室。
そう、僕と彼女は、旅に出ていた。
僕は、周囲の優しさから――いや、初恋の人と兄貴から、逃げるように。
彼女は、亡き父親を生き返らせる方法を見つけだすために。
「ルアルド? もう、先に行っちゃうわよ?」
「ん、う……」
もぞり、と動く。
「ほら、いい加減に起きなさい?」
どこか笑みを含んだ声。
それに僕は短く返した。
「……起きてる」
「それなら、ほら、目を開けなさい。身体も起こして、シーツも畳んで」
「朝の弱い僕に、なんて難易度の高い任務を……」
そうつぶやきながら、目を開いた。
そうして彼女――イリスの姿を直視する。
彼女は、僕と同じ十代後半の少女だ。
金色のポニーテールに、身体の線がよくわかるピッチリとした黒いワンピース。
赤い瞳は宝石のようで、彼女の『可愛い』と『綺麗』が見事に同居した顔を鮮やかに彩っている。
「……ぐう」
と、そこまで思考を進めたところで、僕は襲いくる眠気に再び目を閉じた。
駄目だ。もう、眠くて眠くて仕方がない……。
「も、もう。ルアルドったら……」
――ごめん、もうちょっとしたらちゃんと起きて、食堂に顔出すからさ。
イリスは先に行って、食べててよ。
そう、口を動かさずに思いながら。
僕は、もう一度まどろみの中へと落ちていったのだった――。
物語もひと段落して、あとがき復活です。
今回はやたら短かったですが、いかがでしたでしょうか?
この回は『序章』終了後の『序章外伝』に関わってくるので、『序章』には直接関係なかったのですが、なんとしてもここで入れておきたかったのですよね。
あと、今回は『スペリオル外伝~酒場にて 彼女の始まりの物語~』とリンクしているのですが、危うく矛盾が起きそうになって冷や汗タラリ(笑)。
ともあれ、『序章』ではもうしばらく『今後のためのエピソード』をいくつかやっていく予定でいますが、それにも引き続きお付き合いいただけると幸いです。
では、また次回。




