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黒き魂を持つ者たち  作者: ルーラー
序章 少年はまだユメの中
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第十二話 死神と迎える昼休み

 四時間目の授業が終わり、先生が教室から出ていく。

 僕はそれをちょっとだけ見送ってから、弁当と竹刀袋を持って席を立った。

 向かうは高等部の屋上。いつも昼食をとっているのは中等部のほうでだから、ちょっと緊張してもいたり。

 で、なんで慣れない高等部の屋上に、わざわざ顔を出さなければならなくなったのかというと。


「あ、和樹さん。もうお昼休みになったんですか? いや~、ここ、ぽかぽかしてて気持ちいいですねえ~」


 校長室を出たあと、まどかが、ここで待機すると言っていたからなわけで。

 しかし……確かに、こっちの屋上もぽかぽか具合では負けていないな。

 今度優菜たちに、たまにはこっちで食べようって提案してみるか? こっちなら、僕の教室からは一階分登るだけで来れるし。

 でも、それはあくまでも今度の話だ。


「気持ちいいのはけっこうだけどな、まどか。僕たち、今日はパソ研の部室に集まることになってるんだ」


「なるほど、それで私のことも呼びに来てくださったわけですね?」


「ああ。秋葉とも会わせておいたほうがいいかなって思ってさ」


「秋葉さん、ですか?」


「僕の後輩だよ。中等部の三年生。あ、でも見た目はお前よりも少しだけ大人っぽいかも。というかさ、お前、一体いくつなんだよ?」


「む、和樹さん。女性に年齢を尋ねるのは紳士しんしじゃありませんよ?」


「別に紳士になりたいとか、思ってないし」


「紳士になっておいたほうが、色々と得だと思いますよ? 女の子にだってモテるでしょうし」


 そんなくだらない会話にシフトし始めたところで、僕は再び階段のほうへと向いた。


「さ、行くぞ」


「あ、流しましたね?」


 いや、だって、心の底からどうでもよかったんだもん。

 ……と、そうだ。


「まどか、ちょっといいか?」


「いきなり改まって、どうしました?」


 階下に人の気配を感じながら、僕は小さな声で彼女に一言。


「パソ研の部室に入るまでは、ずっと黙っていてくれ」


「は、はい? またどうして?」


「いいから。ほら、行くぞ」


「はあ……。まあ、かまいませんけれど」


 怪訝けげんそうな表情はしているものの、とりあえず従ってはくれるようなのでひと安心。

 そして、自分の教室の前に差しかかったところで、クラスメイトの女子――田村さんに声をかけられた。


「あ、瀬川くん。今日も妹さんたちとお昼?」


「うん。ひとりで食べるのも寂しいからね」


 そう返した瞬間、僕の隣で驚きの声があがる。


「はい!?」


 それに不審そうな表情を向ける田村さん。


「えっと、どうしたの? その。なんか、ものすごい驚いてるみたいだけど……」


 まあ、目を見開いて僕を凝視してるからなあ、まどか。

 そりゃ、田村さんからしてみれば、なにごとかってなもんだろう。

 いや、まどかのこの反応は、一応、予想できてもいたんだけどさ……。


「なんか、ものすごい珍生物ちんせいぶつを見たって顔してるよね? 彼女」


 うん、たぶん、それ正解。

 『仮面を被った瀬川和樹』という、一種の珍生物を見たんだと思う。

 でも、そこまで大きなリアクションしなくてもいいじゃないかよ……。


「あー、うん……。まあ、彼女にも色々あるんだよ、きっと。それで、田村さんもお昼?」


「まあね。今日は購買。出遅れちゃったから、ちょっと急がないと」


「そっか、じゃあね。頑張って」


「うん。……あ、瀬川くんも今度一緒にどう? 購買」


 僕は弁当派だから、購買を利用することなんて絶対にないんだけれど。

 でも、はっきりとそう言って角が立ったりしたら嫌なので、こう返す。


「そうだね。機会があったら、ぜひ」


 もちろん、そんな機会なんて絶対に訪れないわけなんだけど。

 それに気づいているのかいないのか、田村さんは笑顔を浮かべ、


「おおっ! ほんと!? じゃあ、そのうちにね! 楽しみにしてるよっ!」


 そう言って、階段のほうへと駆けていった。

 そして案の定、彼女の姿が見えなくなったところで、まどかがもの問いたげな視線を向けてくる。

 けど僕は、自分の口許に指を一本立てて、


「なにか言いたいことがあるんだろうけど、それはパソ研の部室に入るまで待っててね、神原さん」


 『作った僕』の口調で、やんわりと釘を刺す。

 おそらくは、まどかのせいなのだろう。さっきから、やたらと周囲の視線を感じるのだ。こんな状況で『仮面』を外すなんて、とてもじゃないけどできっこない。

 ……まあ、河合先生の前では、勢いで『いつもの僕』を見せたわけだけど、それはそれ、これはこれだ。

 だって、他の生徒たちが先生と同じように『いつもの僕』を受け入れてくれる保証なんて、ひとつもないんだから。


 言うまでもないことだけど、パソ研の部室に辿りつくまでの間、まどかには不気味なものを見るような目を向けられ続けた。

 『『神原さん』って……。一体、どうしちゃったんですか、和樹さん……』とかつぶやいてもいたけど……まあ、これは、無理のないことなんだろう。


 ◆  ◆  ◆


「あ、来た来た兄さん」


「和樹、今日はちゃんと待ってたぞ」


「瀬川和樹さん、いらっしゃい。神原まどかさんもいらっしゃい」


 パソ研の部室に入ると、優菜と光一、司が口々に出迎えてくれた。

 しかも今日は、それで全員ではなく。


「昨日ぶりです、瀬川先輩! 今朝は鳴時くんと一緒に行けなくてすみませんでした!」


 そう謝りながら頭を下げてきたのは、まどかとはこれが初遭遇そうぐうとなる僕の後輩、美園秋葉。


「まさかそこまで大事にはならないだろうと思って、今日は陸上部の朝練を優先しちゃったんですけど……ごめんなさい! やっぱり朝練休んで先輩の家に行くべきでした!」


 あー、参ったな、こりゃ……。

 きっと秋葉は、優菜たちから今朝の話を聞いて、『人命よりも部活を優先しちゃうなんて、私のバカバカバカ!』って後悔してるんだろうけど、でも、そのことで秋葉が申し訳なく思う必要なんて、当然、これっぽっちもないわけで。

 でも、だからって『部活優先でいいんだよ』なんて言うのは……こう、なんていうか、逆効果になりそうな気もした。『今朝のことは秋葉には関係ない』って、そんなふうに受け取られてしまうんじゃないかって。

 だから、僕は短い時間でひたすら思考を重ね。


「まあ、そう気にするな。僕としては、秋葉には自分のやりたいことをやっててほしいんだから」


 だから、朝練とって正解だったんだよ、と。

 僕は言外げんがいにそう伝えた。

 うん、仲間外れにしたいわけじゃないというのは、これでちゃんとわかってもらえるはず。


「そ、そうですよね。……わかりました! これからしばらく、朝は先輩の家に行くことにします! 朝練は休んで!」


「あれえ!?」


 なんか、微妙に伝わってなかった!

 いや、『仲間外れにしたいわけじゃない』は伝わったようだけど、どうして朝練よりも僕のことを優先するかなあ!?

 『秋葉のやりたいことをやっててほしいんだ』って、僕はちゃんと口にしたのに!


「『あれえ!?』って、なにかおかしかったですか? 先輩」


「う、う~ん、いやまあ、人数多いほうが助かるのは事実だし、別にいいっちゃあいいんだけどさあ。……でも、なぜだろう。どうしても納得いかない感が……」


「そうですか? 私は、私のやりたいことをやることにしただけなんですが」


 ああ、なるほど。

 納得いかない感の原因はそこにあったのか。

 価値観っていうか、優先順位っていうか、そういうのの違いが話に食い違いを生じさせてた、と。


「わかった。納得。秋葉の中では、朝練よりも親友の兄の命のほうが大事ってことなんだな」


「そりゃそうですよ! というか先輩、私をどれだけ薄情な人間だと思ってたんですか!?」


「あー、いや、うん……。なんか、変な思い違いしてた。……ごめん」


「あ、いえ。別にそんな謝ってもらうようなことでは……」


 うん、そうだよな。

 普通に考えれば、朝練と人命なら、人命を取るよな。

 まどかといい灼騎士バーン・ナイトといい、僕を殺そうとしてきたときの物腰がかなり気楽なものだったから、なんか、そのあたりの感覚が麻痺しちゃってたよ……。

 そんなことを考えながら、僕は白い長机につく。

 すると、


「あの、和樹さん。さっきのことなんですが、そろそろいいでしょうか?」


 生真面目に手なんか挙げながら、まどかがそう問いかけてきた。

 さっきのというと……ああ、『仮面をつけているときの瀬川和樹』のことか。


「ああ、あれはだな――」


 と、そこで秋葉の「あの、気にはなってたんですが……その方は?」という不思議そうな声に遮られた。

 僕は言葉を一度飲み込み、秋葉に向く。


「こいつが例の死神だよ。僕の命を狙ってやってきたっていう奴。神原まどかっていって――」


「そういえば和樹さん! さっき、私のこと『神原さん』とか呼んでましたよね!? あれ、一体どうしちゃったんですか!? 軽く鳥肌立ったんですけど!」


 鳥肌立ったとかひでえ!

 けれど優菜が同意するようにうなずいて。


「あ、『クラスメイト相手の対応』をしてる兄さんを見たんだ。あれは兄さんの『素』を知ってると、ちょっと気持ち悪く思えるよね……」


「はい。ちょっとどころか、かなり……」


「おい、優菜! それにまどかも! それはちょっと言いすぎなんじゃないか!?」


「事実だから」


「事実ですので」


 こ、この二人は、変なところでいい連携みせやがって……!


「あ、あの、先輩! なんで先輩の命を狙っている死神と、そんな仲よさげに話してるんですか!? いえ、それどころか名前を呼び捨てにまでして……!」


「あ、それはだな、秋葉。ちょっと事情ってものが――」


「わかりやすく説明すると……うん、美園秋葉さんに恋のライバル出現」


「全然わかりやすくないぞ、司! あと、僕の言葉を遮るのは――」


「いや、和樹。司の言ってることは、あながち間違いでもない気がするぜ?」


「光一、お前もか!! というか、さっきから、みんなして僕の言葉を遮ってるのはわざとなのか!? なあ、わざとなのか!?」


 ついつい声を荒げてしまう僕。

 それに皆は、一瞬だけ顔を見合わせて。


「いやあ、俺たち全員を上手くさばこうとしてた和樹が面白くて、つい」


「光一に同じく……って言いたいところだけど、私は一度も遮ってないからね? 兄さん」


「瀬川和樹さん、ナイスリアクション」


「ごめんなさい、瀬川先輩。悪気はなかったんです……」


「そんなことより『神原さん』ですよ! なんですか、その他人行儀な呼び方! 『パソ研の部室に入るまで待っててね』と言われたときも、なんかこう、ぞぞっとしましたし!」


 ああもう、こいつらは……!

 一体、誰から順に相手していけばいいのやら!

 あとまどか、お前は僕にとって他人以外のなにものでもない。他人行儀な呼び方をするのは、むしろ自然なんだってことを忘れるな。

 いやまあ、『ぞぞっとした』というのは僕にもよく理解できるけど。


「それで瀬川先輩、事情っていうのはなんなんでしょうか? まさかとは思いますが、味方になってくれたとか? あと、鳴時くんの言っていた『恋のライバル』っていうのも、気になるところです」


「ああ、うん。それがな、秋葉。実は――」


「そんなことより、あの気持ち悪い喋り方はなんだったんですか!? ここに着いたら教えてくれる的なことをおっしゃってましたよね!? ね!?」


 ~~~っ! ああもうっ!!


「――シャラップ!!」


「ひゃっ!?」


「ひうっ!?」


 ちょっとキレた。

 いかに温厚おんこうな僕といえど、今回ばかりはちょっとキレた。

 相手は女の子二人だけど、そんなの知ったことか。

 二人がビクッと硬直したところで、僕はすかさずまくし立てる!


「交通整理ぃ! 一度、会話の交通整理するぞ! 司!!」


「……了解」


「答えるまでに微妙な間があったな、おい」


「……そんなことない。せっかくだからもうちょっと見ていたかった、なんて思ってない」


「おいこら、てめえ」


「瀬川和樹さん、キャラが変わってる」


 キャラも変わるわ、まったく。

 ちなみにこの『会話の交通整理』は、僕たち四人だけで話しているときにもときどき行われていたりする。

 それぞれが思い思いに口を開きすぎて、会話がまったく成立しないということが、ままあるのだ。


「じゃあ、神原まどかさん。まずは、ぼくの正面の席について」


「え? あ、はい」


 おずおずと椅子を引いて腰かけるまどか。

 まあ、正面とはいっても長机だから、司とはかなり距離があるんだけれど。


「えっと……座りました」


「じゃあ、交通整理開始。神原まどかさんから瀬川和樹さんへの質問、神原まどかさんの自己紹介及びそれに対する質問、そのあとは雑談。――こんな感じでいい? 瀬川和樹さん」


「ああ、それでいこう。僕の『対応の違い』の話は、できるだけ早くしておきたかったし」


 しかし、さすがは司。手馴れている。

 あの淡々とした口調がまた、心を妙に落ち着かせてくれるんだよなあ。


「……で、さっきのことだよな? まどか」


「はい。一体なんだったんですか? さっきのあの気持ち悪い口調と他人行儀な呼び方は」


 気持ち悪いって言うなよ……。

 でも、自分でもその自覚はあるので、反論はしない。というか、できない。


 そして僕は、弁当をつつきながらまどかに説明していくことにした。

 自分のことを悪く見せないために作りあげた、僕の『仮面』のことを。

 他人を傷つけないよう、また、傷つけられないよう、僕は普段、自分の『素』を押し隠して生きているんだっていうことを――。

いかがでしたでしょうか?

今回は、前半のパートが長くなりすぎてしまい、『モブよりも優菜たちをメインに描くべきだろう』と丸々書き直しておりました。

結果としてお届けするのが遅くなってしまい、そこに関しては本当に申し訳ない限りです。

でも、クオリティは上がっているはずなので、許していただければ、と。

さて、今回は完膚なきまでのギャグ回、コメディ回です。

なので、難しいことを考えずに笑っていただけたのなら幸いです。

死神の一件がひと段落つくまでは、こういうノリができなかったんですよね(苦笑)。

では、また次回。

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