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閑話 アンリエスト襲撃

更新遅れて申し訳ありません


来週中にはもう一話更新できたらと考えております

 ◆◆◆



 へムガール帝国 帝都クヌトラ

 ナトーヤ教総本山 カナルトトキア大聖堂 皆本敏也


 

 「四十無の野郎が国を空けたまま東方へ長期間出向いているかもしれない……だと?」


 突然飛び込んできた思いもよらぬその知らせに、敏也は思わず声を張り上げた。


 「は、はい。我が国出入りの商人がアンリエストで兵士たちがそのようなことを話し合っていたのを偶然耳にしたとのことです」


 「それは間違いない情報なのか?」


 「アンリエスト側の防諜体制が厳しく、それ以上の裏取りは出来ませんでした。しかし、ミナト王に面会を求めたにもかかわらずダルムス大公国の大使の対応をしたのは王妃カタリナであったとか……」


 「なるほど。ガセネタかと思いきや、満更根拠なしという訳でもないわけか……」 


 敏也はその場で深く考え込んだ。


 「湊自らが東方に出向かなければならない案件となると……もしかして、相手は大華国の残党か?」


 湊の異世界行きを地球で見ていた敏也は、当然ながら円卓である湊がこちらの世界に渡らなければならなかったその理由を知っている。


 一つはあの男以外に開いてしまった巨大次元裂を閉じることが出来ず、更にそれを閉じる際にはこちら側からからしか行えないから。


 もう一つは、次元裂を閉じるにあたって、こちらの世界での迫害から逃れるため空間裂を通じて地球側に逃れてきた亜人たちに平和的に元の世界に戻って貰うための条件として、彼らの安心して暮らせる国を作るという約束が交わされたことで、それを実行できるだけの能力を持った強力なリーダーが必要だったため。


 そして最後に、こちらの世界に逃げ込んだと思われる大華国の残党を追うためである。


 敏也がこちらに渡ってくる前に、既に湊たちがその大華残党を潰しているという可能性もなくはないのだが、そもそもかの国の人間がこちらの世界に絶対的な優位を確保できる現代兵器を持ち込んでいるとなれば、その野心を押し隠して大人しくしていることなど絶対にありえない。にもかかわらず、少なくともこの西方諸国においてはそのような勢力が大暴れしたなどという話は聞いたことがない。

 つまり、大華国の残党が逃げ込んだこちらの世界の地域は少なくともこの西方諸国ではないということになる。


 大華の残党は旧式とはいえ空母を含む軍艦数隻を持ち出した形跡があるらしいので、それらの艦船に乗って彼らがたどり着いた場所が別大陸、もしくはどこかの島という可能性もないわけではない。

 しかし、もし彼らがこの同じ大陸上のどこかにいるということであれば、西という線は消える以上、それはここよりも東の大陸中央、もしくは更にその東にあるとされる東方地域のいずれかということになる。


 そしてもう一つ。

 これはあくまでも噂話程度の不確定な情報に過ぎないのだが、現在東方地域において急速に勢力を拡大している軍事国家が存在しているらしい。


 そこへ今回の湊の不可解な動きの情報である。


 それを踏まえて考えると、これは大華国関連である可能性が極めて高い。


 そうなると、湊が長期間国を空けているという話の信憑性は高まるどころか、敏也の中では最早確信に近くなってくる。


 「問題はまだ俺の力が万全ではないことだが……」


 こちらの世界に渡って来て、ナトーヤ神の力を受け入れてからそれなりの期間が過ぎたが、受け入れたその力があまりにも強すぎて、残念ながら今の敏也ではまだ完全に掌握するまでには至っていない。


 現在の段階で出せるのは、全力のおよそ8割程度といったところだろうか。


 しかしそんな事実上の飛車角落ち状態の自分でさえ、仮に帝国最強の円卓の一角であった祖父、皆本清十郎と戦ったとしたら手も足も出させることなく圧倒することができるはずだ。

 ナトーヤ神の力とはそれほどまでに圧倒的だった。


 ただでさえ最強の神の力を持つナトーヤが、更にかつて円卓レベルの能力者が数人がかりでも倒せなかったアリアレインと同じ神竜族の力を取り込んだのだ。

 正に無敵の力である。


 この力が万全に扱えるようにさえなれば、あの祖父を手玉に取った四十無湊にだって間違いなく勝利できる。

 おそらく今の状態でも互角以上には戦えるはずだ。

 である以上、100%の状態になればもはや負ける要素などどこにも見当たらない。 


 それはもう、希望や願望ではなく、完全なる確信である。


 そして今、アンリエストの地に湊が不在であるという知らせが彼の耳に届いた。


 その報告が確かであるとするならば、今のアンリエストには敏也を止められるだけの戦力は存在していないということになる。


 問題は本当に湊が国を空けているのか? という点であるが、湊に面会を求めたダルムス大使への対応をしたのが皇妃だったという話や、東方へ出向いたその理由が大華国残党への対処の可能性があるという根拠が重なることで、ある程度の信憑性は確保されていると言っていいかもしれない。


 となれば、これは憎っくき湊に一泡吹かせてやる千載一遇のチャンスといえる。


 「のんきに自分が国を空けている間にアンリエストを攻め落とされたと知ったら、湊の野郎、さぞかし悔しがるに違いない」 


 その光景を想像するだけでもくくくと喉から笑いが込み上げてくる。


 「それにアンリエストといえばエルフや獣人などの亜人たちだ。信者たちに命じれば初物だろうが人妻だろうが好きなだけ女を差し出させることはできるが、少し前までこの国にもたくさんいたという亜人奴隷たちに限っては、いつの間にかアンリエストに保護されちまっていてどこにもいやしない。今はまだ対決の時じゃねぇのは分かるが、亜人が味わえないんじゃ一体何のために異世界くんだりまでやって来たのかわからねぇってもんだ。だが……」


 敏也の顔に邪悪な笑みが広がる。


 「湊の奴がいねぇ今ならその限りじゃねぇよなぁ!」


 その場のノリと思いつきで思わず口にしてみたものの、実際のところこれはかなり良いアイデアのような気がしてきた。


 「それに湊の嫁だといかう王妃のカタリナって女は、こちらの世界でも滅亡寸前の古人種っていうレアモノの血を引いているんだよな? 亜人どもを奪ってくるついでにそいつも攫ってきて、奴隷として壊れるまで徹底的に可愛がってやってから絶望に染まったその首を湊に送り付けてやるのがいいか。ああ、それはいいな。凄くいい。気分がアガってきたぜぇ」


 勢いのままに立ち上がると、近くにいる傍仕えを呼び出す。


 「トシヤ様、いかがなさいましたか?」


 「今すぐに動かせる使徒は誰だ?」


 「すぐにという話ですと、9位のコーラル・ニア・ダルノ卿になります」


 「コーラルというとあれか? トンガールとかいう国で起こった反乱をたった一人で都市ごと叩き潰してきたって奴だよな?」


 「はい。仰る通りです」


 正直、神の使徒としての力を示すためとはいえ、反乱を鎮圧するのに都市ごと全滅させてしまうのはやりすぎではないかという気もする。

 その点から考えても相当に壊れた人格の持ち主のようである。

 しかし、よくよく思い返してみると、敏也()に逆らう者たちに対しての見せしめのようなものだと考えれば、再発を防ぐための手段としては殊更悪いものではないのかもしれない。


 別に自分が痛みや苦しみを味わう訳ではない。

 所詮は他人事なので、ぶっちゃけ反乱軍の被る被害の話などどうでもいい話だった。


 それに、それくらい壊れている奴の方が、今回の目的にはちょうどいいかもしれない。


 「……いいだろう、今すぐコーラルをここに呼び出せ! アンリエストへカチコミだ! それに、女奴隷の確保のついでと言ったら変な話だが、湊の野郎に囚われている使徒も解放してやることが出来れば一石二鳥にも三鳥にもなる。うん。我ながら本当に天才的な案だぜ」


 思わず自画自賛してしまう。

 襲撃の目的に囚われの使徒の解放も加えてしまうなんて、我ながらなんと無駄のない策であろうか。


 「敵に囚われて使徒が全員揃わないなんて、俺の神としての沽券にかかわるからな」


 ナトーヤ神は自分の能力によって自分に忠実な12人の使徒を設定することが出来る。


 使徒に選ばれた者は、神たるナトーヤに絶対服従を強制されることと寿命の残りが5年間になってしまう(※1)という欠点と引き換えに、絶大な能力を身に付けることが出来る。


 一方でナトーヤ側には契約できる人数に上限がある以外には何のデメリットもない。


 つまりナトーヤ神は、己の固有能力とは別に自分が絶対命令権を持つ強力で忠実な配下を、12名限定とはいえ無条件で手に入れることが出来るということだ。

 さすがというべきか、神を称するだけはある素晴らしい力である。


 しかし、この契約にはたった一つだけ重大な欠点が存在している。


 この能力の授受は契約する両者の合意によって成立するものである以上、能力を授ける側のナトーヤ神であったとしても一度契約を結んでしまうと勝手にそれを破棄することが出来ないのだ。


 唯一の例外は、主従いずれかが死んだ場合のみである。


 ナトーヤ神と契約を結んだことで使徒が得る能力というのは、若干だが本人の資質と能力に由来した傾向にはあるものの、最終的にはランダムに選定される。

 要するに、事実上の能力ガチャであるということだ。


 才能や見込みのある者たちの中から使徒を選別するので当たりを引く確率自体は高いものの、中には外れをひいてしまうこともある。


 Sランク、最低でもAランクを期待されるような英才が、蓋を開けてみればCランクを引いてしまうような事態も十分にあり得るのだ。


 しかし、そのような事態に陥っても、現実として使徒の枠はたったの12個しかない。その上他ならぬナトーヤ自身がそのCランク使徒を解任することが出来ないのである。


 12個ある枠全てが外れガチャを引いてしまった場合などは、最早目も当てられない。


 では、いざ使徒に選んではみたもののやっぱりこいつを使徒から外したいという状況になった時、ナトーヤ神は過去それにどう対処してきたのかというと、答えは単純明快。


 解任したい使徒をナトーヤ自身の手で殺してその枠を解放していたのだ。


 使徒はナトーヤ神の命令には絶対服従である。

 つまり、ナトーヤ神がその者の殺害を決定した場合、使徒の側にそれに抗う手段は何一つ存在していないことになる。

 

 これは、正に使徒契約の抜け穴を巧妙に利用した画期的な解決方法といえる。


 傍から見れば非情に思えるかもしれないが、先に述べた通り使徒の枠はたったの12個しか存在しない。

 使徒とはこの世界における神の代理人なのである。

 無能な者を抱え込み続ける余裕などどこにも存在していないのだ。


 それに一度使徒に任ぜられれば、神の代理人として通常では考えられないほどの絶大な暴力と権力を手にすることが出来る。

 その権勢は貴族は当然として、場合によってはへムガールの皇帝すら大きく凌駕することもあるのだ。


 それだけのモノが与えられながら、実力の足りない者や忠誠心の薄い者が排除されたとして、そこにどのような問題が発生するだろうか? 


 あるわけがないのである。


 とまあ、そんな感じで役に立たない使徒はとっとと処分してしまい、そこで改めてガチャを行って有望な配下の誕生を促した方が良いケースもあるのだが、これにはこれで問題点がないわけではないのだ。


 一つは、ガチャをやり直したところで、ガチャ前の能力者よりも有望な能力の持ち主が現れるとは限らないということだ。

 特に今の使徒たちはナトーヤが吟味に吟味を重ねてようやく集めた12人であり、集まった人材の質は過去を見渡しても類を見ないほどに高いらしい。そのため仮にガチャを何度やり直したとしてもそれ以上に良い駒が出てくる期待値は極めて低い。


 しかし、仮に多少の質の劣化があったとしても、使徒12名が揃わない状態に比べればはるかにマシである。

 であるのに…………


 「くそっ! 湊の野郎、倒した使徒をあえて殺さず生け捕りにしやがった。契約破棄できないおかげでこちらは使徒ガチャをやり直すことすらできねぇ。あの野郎、間違いなく使徒の契約システムを知っててわざとやってやがる」


 ナトーヤ神の言うところの「使徒契約」

 これは実際のところ、帝国の能力者でいうところの「眷属化」と言い方が異なるだけで実は全く同一のシステムなのである。

 

 この眷属化は、14円卓+数名という極めて数が少ない覚醒に至った能力者たちの中でも更にごく一部の能力者にしか発現しないレア中のレア能力である。


 総勢60万を超える能力者を抱えるあの帝国ですら、片手の数で足りる人数しか確認されていない力だと言えばその希少さが分かるだろうか。


 とはいえ、元円卓直系の孫とはいえただの一学生でしかなかった敏也が知っているような眷属化の法則を、現役の円卓である湊が知らないはずがないのだ。


 敏也が思わず声を張り上げてしまったように、湊があえて倒した使徒を殺さず生け捕りにしているその行為は、明らかに確信犯だ。

 ナトーヤが使徒に出来る人数の上限が12名だということを承知の上で、使徒ガチャのやり直しを出来ないようにこちら側の主戦力を削り取りにかかってきているのだと考えて間違いないだろう。


 効果的なのは認めるが、実に嫌らしい一手である。


 そのような事情もあり、敏也が現在動員可能な使徒は総勢9名しかいない。

 敏也がナトーヤの力を受け継いだ時点で既にその状態だったのだからどうすることもできない。


 「ちっ! どこまでも忌々しい」


 舌打ちとともに悪態が口をついて出てくるが、ここで今敏也が湊に対してどれほど吠えようが配下の使徒たちが敵の手に囚われている事実は変わらない。


 逆に考えれば、生け捕りにされているということは、解放さえしてしまえば強力な戦力が戻ってくるということであり、僅かな可能性にかけて無駄なガチャを何度も繰り返す手間が省けるということでもある。

 そう考えれば、必ずしも悪いことばかりではない。


 「まあ、アンリエストを壊滅させて使徒を解放しちまえばそれでオールオッケーなんだけどな。そのについでに王妃と亜人の女どもを攫ってくれば更に良しってーワケだ。あのヤローのモノなんか何もかも全部めちゃくちゃにしてやるぜ! 精々事が終わってから吠え面かくがいいさ!」


 そう言い放つと、彼の哄笑が部屋中に響き渡る。


 こうして敏也は第9使徒コーラル・ニア・ダルノを率いて湊の留守を襲うためにアンリエストへ向かうこととなった。




 ◆◆◆




 奥羽国へ出立する前、湊は自分の留守をアリアレインに頼んだ訳だが、それはあくまでも保険であり、彼自身はナトーヤ勢力が動く可能性は極めて低いという予測を立てていた。


 一方で、ナトーヤ教会側ではナトーヤ神の現身の召喚という湊の知りえないスペシャルなイベントが進行していた。

 更に言うのなら、召喚された側である当の皆本敏也という男は、湊自身と極めて強い因縁を持つ相手でもあった。


 教会側でイベントが発生したタイミング、その結果召喚された被召喚者の出自、さらにはその者の保有する歪んだ人格という要素が重なり、更にそこへどす黒い悪意が複雑に絡まり合って化学変化を起こした結果、湊の頭脳でも予測不可能な敏也によるアンリエスト襲撃という新たなイベントが発生することになってしまった。


 『ナトーヤ神の現身によるアンリエスト襲撃』というこの歴史的事件の結果は、後に周辺国に多大な影響を及ぼすことになるのだが、今の時点でそれを知る者は誰一人として存在しなかった。




 ◆◆◆




※1 能力者になったことで寿命の残りが5年になってしまうのは、使徒に限らず全能力者共通に課せられた呪いである。天然の能力者であろうが人為的な能力者であろうがそこは変わらない。

 唯一それを打破できるのが湊の開発した解呪魔法で、それ自体は湊しか使うことが出来ないが、湊がこちらの世界に渡ってしまうと、湊がいなくなった後に生まれる能力者たちの呪いを解除できる者がいなくなってしまう。

 この問題を解決するため、湊は帝国最高の付与能力者である園田千春と協力してこの寿命問題に限定した解呪アイテムを3個だけ製作した。

 ちなみにこの5年寿命問題があることによって、能力者として覚醒したのにもかかわらずそれを国に届け出ずに秘匿して一般人に扮して無双するという行為自体が出来なくなっている。

 また、帝国においてはこの届け出は義務となっていて申請逃れは重罪となっている。

 他国の能力者についてはその限りではないのだが、やらなければせっかく能力者として覚醒しても5年後には確実に死ぬだけである。このシステムのおかげで帝国は他国の能力者をほぼ把握している。

 帝国が把握している能力者が地球上全てでないのは、帝国と依然として戦争状態にある合州国、大華国、隣国、また、戦争状態にこそないものの頻繁にミサイルを飛ばして帝国を挑発するもう一つの隣国などに代表される帝国に敵対的な国々については、そもそも国交そのものがないので能力者の呪いの解除は受け付けていないことに起因する。

 ただし、それらの国の能力者の情報は帝国諜報部によって事実上丸裸にされているのだが、当の敵対国はその事実には気が付いていない、もしくは、薄々その事実に気づいてはいてもそのことから目を背けている状態である。

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