第五章 大雅国攻略戦 ② 王都攻略-2
二日連続で投稿します。
べ、別に、今まではパソコンのメモ帳機能で書いてからこちらにコピペして投稿していたのを、前回からなろうの下書き機能を利用して書くように変更したところ、書き終わって保存だけして投稿したつもりになっていてそのまま放置されていたなんてことはなかったんだからね! ほ、本当だよ?
…………すいません、嘘つきました。
今回最新話を投稿しようとして、前回の話がまだ投稿されていないことに気が付きました(汗
読者様に混乱がないよう一日置いて次話を投稿します。
◆◆◆
大雅国王都・央京 紫霊城謁見の間 大雅国軍元帥 夏文邦
「どうして我が王都が敵に攻め込まれているのだ? 我が軍は勝利を続けているのではなかったのか? 文明の遅れたこの星で我が軍は最強ではなかったのか? 本当に勝てるのか? そもそも奴らは一体何者なのだ? 納得できるようきちんと説明しろ! 貴様ら、偉そうな雁首並べて黙ってるだけでなく何か言ったらどうなのだっ!!」
「「「「「………………」」」」」
まるでゆでだこのように顔を真っ赤に染め上げた崇王の口から、叱責交じりの問いかけが玉座の上からしきりに夏たち軍幹部に向けて降り注いで来るのだが、残念ながらそれに回答を出せる者はその場に誰一人として存在しなかった。
答えられる訳がない。
主の疑問は、同時に自分たちの疑問でもあるのだから。
その疑問に答えが貰えるというのなら、むしろ自分たちが教えて貰いたいくらいだった。
この央京を攻撃しようとしている勢力がある――。
晴天の霹靂。
その知らせは正にそう呼ぶべきものであった。
天竺国攻略部隊からも奥羽国攻略部隊からも、昨日までは確かに順調に攻略が進行中であるという報告が届いていた。それは間違いない。
そればかりか、夏が王に召集されてこの謁見の間に来る直前に最終確認を取った際にも、両戦場からは同様に攻略は順調であるとの報告が返ってきていた。
大雅国の北側は北極海、西側には広大な砂漠が広がっており、そちら側には大きな敵対勢力と呼べる者は存在していない。
海を越えた東側に奥羽国、山脈を越えた南側には天竺国及びそれと同盟を結ぶいくつかの小国が点在しているが、その両者ともに攻略が順調に進んでいて完全征服も最早時間の問題という状況である。
普通に考えて、大雅国周辺にはこの央京に攻め込んでこれるだけの勢力など存在していない。いや、存在していてはいけないはずなのだ。
なのに、なぜか自分たちは今、謎の敵戦力によってこの王都に攻め込まれようとしている。
どう考えてもあり得ない。
何がどうなっているのかさっぱり分からない。
現状でたった一つだけ可能性があるとすれば、それは同じ大雅軍内のいずれかの部隊による裏切り……である。
この世界で最強の装備を誇る大雅軍に対抗できるのは同じ大雅軍だけ。
一概に大雅軍とは言っても、地球から共にこちらの世界に渡ってきた本当の意味での部下、いわば身内と呼んでも差し支えない者たちは、全軍のわずか5%にも満たない。
残りの九割強はここ、すなわち現地で採用または強制的に徴兵した若者たちで、端的に言ってしまえば幾らでも代用の利く体の良い使い捨ての駒だ。
現地採用された兵たちの中に士官以上、いわゆる幹部と呼ばれる者がほとんど存在していないことからもそれは明らかである。
大雅国において真の支配階級である大華出身者の数が軍全体の割合に比して圧倒的少数である以上、反乱防止の意味もあり現地人を易々と命令権のある役職に就けるわけにはいかない……という現実的な理由もそこにはある。
せいぜいが、現地人たちの不満の矛先をかわすため、二、三人ほどが、前線勤務の佐官に据えてあるくらいだろうか。
ごく少数の支配層が大多数を占める現地人を力で抑え込んでいる状態で、末端の兵にまで銃器が行き渡っている現状、彼らに一斉に蜂起されたら夏たちとて勝ち目はない。多少の配慮はやむを得ないということである。
要するに、周辺国家に敵がいなくなっていく今後、最も警戒しなくてはならないのは、味方による謀反になってくるということだ。
特に夏たちの出身である地球の大華の歴史は、それの繰り返しであった。
いわゆる易姓革命である。
その根幹にあるのは大華人の思想の根幹に根付いている強い儒教の影響によるものである。
それは、『王朝が交代するのは以前の王朝の為政者が徳を失ったことにより天によって見放されたから』とする考え方で、徳さえあれば姓(血統)に関わらず新しい王朝を建てることができるとされている。
ではその徳とは一体なんぞやということになるのだが、ぶっちゃけると新たな王朝を建てた者の能力や人格とは全く関係のない、単なる勝ったもの勝ちの精神である。
国が荒れるから謀反が起きるのか、野心があるから謀反が起こるのか、国が荒れたから野心が刺激されたのか。
国が荒れたその原因も、支配者や役人たちの腐敗なのか、増長した配下の謀反なのか、自然災害によるものなのか。
それはそれぞれケースバイケースであろう。
いずれにせよ反乱が起きて国が荒れた時点で為政者の徳は失われたとみなされ、争いの結果新たな支配者が王朝を興こせば、争い自体は終了するのだからしばらくは国が安定する。
民から見れば、新たな為政者に徳があるから荒れた国が治まったようにも見えるのだ。
腐敗によるものだろうが災害によるものだろうが配下の悪意によるものであろうが、いずれにせよ大華では国が荒れるのは為政者の徳が失われたからだとする考えが根底にあるので、謀反を起こして王朝を奪えば易姓革命の概念によって簡単にそれが正当化されてしまう。
特に役人による横領や賄賂が当たり前のように根付いている大華の風土では、新たな王朝が起こった瞬間に易姓革命の時限スイッチが押されるようなものである。
違うのはその時限爆弾が破裂するのが早いのか遅いのかだけである。
どんなに善政を布こうが、大火事、洪水、干ばつ、蝗害、地震、津波、天候不順、台風などの自然災害を防ぐことは出来ない。
しかし、残念ながら易姓革命の概念は、国が荒れる理由を問わない。
古代から現代に至るまで、大華国の支配者層は、この易姓革命の概念による配下の反乱の危険性に多かれ少なかれ常に心の片隅で不安に抱えていたはずだ。
そしてその不安を抱えているのは、元からこの地にあった国家を征服して大雅国を建国した崇王やその側近である夏たちとて同じである。
この央京に攻め込んできた勢力が配下の反乱によるものなのか、あるいは全く未知の勢力によるものなのか。いずれにせよ、一つだけ確かなことがあるとすれば、攻め込んでくる敵勢力に対し適切な対処を行うことができなかった場合、自分たちが心血注いで築き上げてきたこの国が滅びかねないという事実である。
その場合には、王を含めた今この謁見の間にいる者全ての首が間違いなく宙に飛ぶ。
もちろん、比喩などではなく物理的にだ。
それだけは、絶対に許容することはできない。
「陛下、ご心配のは及びません。この央京には我が国の誇る最新鋭の7式戦車が配備されておりますし、近郊の空軍基地からいつでも戦闘機が飛びたてるようになっております。この央京に攻め込んできた愚か者がどこからやってきた何者かは分かりませんが、鎧袖一触でまともな戦いにすらならないでしょう」
崇王の機嫌を取ろうしてか、軍務大臣の宋が得意げな口調でそう言い放った。
自分が戦うわけでもないくせに文官の分際で偉そうに軍事の話に口を突っ込んで来るなと言いたいところだったが、言っている内容自体はおおよそ間違っていない。
こちらの世界では確かに最新鋭で間違いないものの、故国の主力戦車や戦闘機の性能を知っている身としてはかなり頼りなく感じてしまうのは仕方がない。
しかし、それでも宋が言うように、この世界の敵相手と考えるのなら敵を殲滅しておつりがくる性能だろう。
ただ一点のみを除けば、だが……。
「大臣は肝心なことをお忘れではないですか?」
「肝心なこと? なんだそれは。私が見逃していることがあるとでもいうのか?」
「ほう、面白い。夏よ、申してみろ」
崇王に促されて夏は自説を披露する。
「はい。宋大臣が見落とされている点、それは、敵の航空戦力の存在です」
「航空戦力というと、飛竜のことか」
「はい。おそらくこれはここにいる全員の共通認識だと思いますが、我々がかつてこの地に存在したアゼンダ国を征服した際、最も苦戦したのが敵が送り出してきた飛竜部隊の存在でした」
「うむ、そうであったな」
「「「「「確かに…………」」」」」
異論はないようで陛下を含む全員が同意を示してくれる。
「結果は言うまでもなく我が軍の勝利でしたが、ご存じの通り、あの飛竜部隊との戦闘で地球から持ってきた艦隊と本物の戦闘機の貴重な燃料と弾薬をほぼ使い切ってしまいました。幸い燃料の方は油田の発見もあり品質にやや不満はあるものの何とか艦隊と艦載機を運用することは可能になりましたが、弾薬の方は完全に技術力の不足で補充の目途もたっていないのが現状です」
「飛竜部隊に関しては、敵の数がな…………」
「はい。陛下の仰る通り、航空機を含む対空戦闘能力の性能自体はこちらの方が圧倒的に上でした。機銃の弾はともかく誘導弾に関しては今考えればもったいないと悔やむほどにオーバーキルな状態でしたが、それでもああも数の力で圧倒されてはこちらも無傷とはいかない状態でした。なにしろこちらの用意した弾薬が尽きるのが先か敵の飛竜が尽きるのが先かのチキンゲーム状態でしたから…………」
「ですな。幸いギリギリのところでこちらの弾薬の方が勝りましたが、おかげで艦隊も艦載機もほとんど弾薬を使い切った状態で、いざという時の切り札として取っておくだけの事実上の張子の虎となってしまいましたから」
「こちらの世界に渡ってくる際に兵器開発の技術者を連れてこれなかったのが今さらながらに悔やまれるな」
「整備士はそれなりの数いますが、同じ技術畑でも整備と開発では方向性が全く異なりますから…………一部は無理やり開発に回しているのが現状ですが、それとて限界があるでしょう」
「うむ。我々の知るモノとは比べ物にもならぬが、銃器と戦車と航空機が一応形ばかりでもそれらしいものを作り上げたのだ。彼らを責めることは誰にも出来ぬ」
「ですなあ」
崇王の嘆きに夏も同意するように嘆息する。
「とはいえ、幸いなことに我々の感覚ではレトロなレシプロ機とはいえ、飛竜相手であれば互角以上の戦いは十分に可能ですし今回は数も十分に揃っていますから、今回の戦いで最も警戒しなくてはならないのは相手に航空戦力があるのかないのかと、あるとすればその数がどれくらいかという二点だと思われます」
「偵察の結果はまだ分からんのか?」
「はい。何度も偵察の部隊を送っているのですが、残念ながらうまく情報を手に入れて戻ってきた部隊は一つもありません」
「敵の警戒も厳重ということか。だが、偵察兵なら無理でもドローンならいけるのではないのか? この世界の者にあれの存在は理解できまい」
「それが…………」
崇王からの提案に、夏は極力申し訳なさそうな口調で応じる。
「そのドローンについてですが…………こちらが送り出したドローンは敵軍の陣容を捉える前に一機残らず、おそらくは何らかの遠距離攻撃手段によって全て破壊されてしまっている…………というのが現状です。理由は不明ですが、敵は我々がドローンで情報収集できることを知っている、もしくは、あからさまに怪しい物体をとにかく片っ端から撃ち落としているその結果でのことかのいずれかではないかと思われます」
「言われてみれば確かにな。我々はその存在を知っているからそうとは感じぬが、ドローンのあの見た目は知らぬ者たちにとってみれば怪しさこの上ないものではあろう」
「はい。それでですね、地球では電気店で簡単に手に入るようなものでもこちらの世界では数の限られた貴重品ですから、これ以上の損失を許容できるのかできないのか、陛下のご判断をお伺いしてから運用しようと思っておりました」
「ふむ。敵の目を搔い潜れる自信があるのならばともかく、敵側が遮二無二ドローンを落としてくるのであれば、これ以上ドローンを送り出しても破壊されるだけで無駄ではないか?」
「了解いたしました。それでは偵察兵の方を増員することにいたします」
「うむ」
そんな話をしていたところ、噂をすれば影ではないが、たった一人だけだが偵察に出していた兵が命からがら帰還してきたという知らせが入った。
「「「「「本当か?!」」」」
思わぬ朗報に沸き立つ一同であったが、その偵察兵からもたらされた情報によって敵陣の最前列に並んでいるのが日本刀に極めて酷似した剣を腰に差すサムライらしき風貌の剣士たちおよそ1万であるとの報がもたらされると、その場の混乱が否応にも増すことになってしまう。
「さ、サムライだとぉ?」
「…………ということは、敵は奥羽軍ということなのか? それともよく似た別勢力なのか?」
「あんなサムライなぞかの国以外にはおるまいて」
「しかし、かの国には我が軍が進撃中で、敵王を討ち取るのも時間の問題という話ではなかったか?」
「まさか、奥羽侵攻部隊めらが何かしくじったのか?」
「いや、もしかしたらあのサムライどもめは自国の防衛はもはや不可能だとすっぱり諦め、国を捨てて残された全軍で逆にこちらへ撃って出てきたのかもしれぬ」
「乾坤一擲の逆進撃というわけか…………。ふむ。あり得なくはない話だが、だが一体どうやってあの数で海を越えてきたのだ?」
「それが分かっていればこんなに慌ててはおらぬわ」
予想外の敵の正体に、いい年した大雅国の首脳たちが揃いも揃って右往左往してしてしまう。
意外過ぎる敵の正体に混乱しているのは夏も一緒だったが、しかし、どうにか王の目の前で彼らのような醜態を晒さずには済んだ。
どうやら自分以上に混乱して騒ぎ立てる相手が近くにいると、不思議と見ている側の心は落ち着いてくるらしい。
というか、確かに彼らの気持ちも分からないでもないが、それにしても狼狽しすぎではないかとも思う。
「皆の者、少し落ち着かれよ。正体不明だった敵の正体が割れたのだ。朗報ではないか。予想の遥か斜め上の相手であったのは事実だが、サムライたちが相手だと分かればやりようは幾らでもある。違うか?」
「そ、そうだな」
「この央京には敵とほぼ同数の精強なる近衛師団が存在し、戦車と戦闘機の配備もある。更に近郊に配備されている部隊も続々とこの央京へと集結している状況だ。質で優っている上に兵力もこちらの方が上。敵には魔術を使う者もいるようだが、こちらにも現地徴用の術士たちと何より最強の能力者たちがいる。負ける要素などどこにもないではないか」
「そうだ! 夏の言う通りだ」
「一発逆転を狙って直接我らが本拠地を叩きに来たのであろうが、所詮は奥羽攻略軍に蹴散らされた搾りカスよ。そもそも近衛の強さは奥羽へ遣った部隊とは比較にもならん。決着がつくまで一時間もかかるまいて」
幹部の一人が気勢を上げる。
「うむ」
力強く頷く崇王も、正体不明だった敵の正体が単なるサムライ共であったことを知って、かなり気持ちに余裕が出てきたようだった。
「頼もしい限りだ。よいか、我が王都を汚そうとした輩に報いを与えるのだ。一兵たりとも逃がすことはまかりならん。今後二度とこのような不届きな者たちが現れぬよう、処刑場にサムライ共の首を尽く晒して現地人どもへの見せしめにせよ! 我らに勝利を!!」
「「「「「勝利を!」」」」」
崇王の激から程なくして、サムライたちがこの央京を攻略するために進軍を開始した。
幹部の一人が予想していた通り、この戦いは開始から一時間も経たず早期に決着を迎えた。
ただし、その結末が彼の望んでいた通りになったかどうかはまた別の話である。
◆◆◆
明日も投稿します。
次で大雅国との戦争もようやく終わりを迎えます。