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隣の金髪悪魔

「ねぇ、知ってる?」


 隣の席に座る彼女は、白い頬に手を添えながら、小悪魔みたいな笑みを浮かべていた。


「リンゴってさ、虫に食われても、その部分だけ切り落とせば普通に食べられるんだよ?」


 ……また始まった。


 俺は露骨に嫌そうな顔をして、視線を逸らす。


 けれど、この女はそういう反応を見ると余計に楽しそうにするタイプだった。


「でーもー」


 わざとらしく語尾を伸ばしながら、エリヴィアは細めた青い瞳で俺を覗き込んでくる。


 指先で金髪をくるくる弄びながら、心底楽しそうに笑っていた。


「実際は誰も食べないよね? 虫に食われたってだけで気持ち悪いし。みんな新しいリンゴを選ぶもん」


 彼女は机にだらしなく身体を預けながら、下からこちらを見上げてくる。


 吸い込まれそうな蒼い瞳。


 綺麗で、どこか不気味だった。


「別に惜しくないだろ」


 俺は吐き捨てるように言う。


「虫に食われた時点で終わりだ。わざわざリスクのある方を選ぶ奴なんていない」


 もちろん、こいつは本当にリンゴの話をしているわけじゃない。


 腐ったリンゴ。


 つまり、“俺”のことだ。


 本当に性格の悪い女だと思う。


「えぇ~? 絶対もったいないのに~」


 わざとらしく唇を尖らせるエリヴィアを無視して、俺は前を向いた。


「返事しないんだ。私なら普通に食べるけどなぁ。悪いところだけ切ってさ」


 そう言って、彼女は艶のある唇をぺろりと舐める。


 いちいち仕草が扇情的だった。


 たぶん、わざと。


 けど、俺は騙されない。


 女っていうのは、こういうことを平然とやる生き物だ。


 体育の時間にわざと肌を見せたり。

 暑い暑いって言いながらシャツの襟を引っ張ったり。


 男の視線を集めて、その裏で優越感に浸ってる。


 そうやって愛想を振り撒いて、クラスの中で立場を作っていく。


たとえ彼女がどれだけ清楚で可愛らしく見えようと、学校中でアイドルみたいに扱われていようと、俺の心が揺れることはなかった。


――少なくとも、そのはずだった。


 ……だから。


「俺は、そういう女が嫌いなんだよ」


「えっ──もしかして、昔のこと思い出してる?」


 にやにやしながら、エリヴィアは顔を覗き込んでくる。


 しつこい。


 本当にしつこい。


別に、俺が女嫌いなのは陰キャを極めたからってわけじゃない。


 顔だって、自分で言うのもなんだけど中の上くらいはあると思ってる。


 飛び抜けてイケメンってほどじゃない。

 けど、少なくとも「モテない側」ではなかった。


 人間関係だってそうだ。


 あの件で変な噂が広まる前までは、普通に友達もいたし、クラスの連中ともそれなりに話していた。


 今だって、学校全体から嫌われているわけじゃない。


 俺を嫌っているのは、せいぜい一部の固定グループくらいだ。


 逆に、俺のことなんて気にも留めていない奴の方が多い。


 結局のところ。


 今の俺はただ、クラスの空気から少し外れた場所を漂っているだけの存在だった。


「エリヴィア。授業始まってまだ十分しか経ってないんだけど」


「えー? あと三十分もあるってこと?」


「その理解力でよく日本の高校通えてるな」


 俺が呆れて言うと、エリヴィアは楽しそうに笑った。


 エリヴィア・アシュフォード。


 イギリスから来た転校生。


 両親の仕事の都合で日本に引っ越してきたらしい。


 金髪碧眼。

 誰とでもすぐ仲良くなれるコミュ力。

 そしてモデルみたいに整った容姿。


 転校初日からクラスの中心だった。


 ……そんな奴が、なぜか俺の隣に座っている。


 成績順で決まった席替えのせいだ。


 本来なら俺は教師に頼んで一人席にしてもらう。


 けれど転校生のサポート役とかいう理由で、今もこうして隣同士になっていた。


 そして。


 俺はいまだに理解できていない。


 どうしてこいつが、わざわざ俺なんかに絡んでくるのかを。


「だって授業つまんないし~。日本史とか全然わかんないんだもん」


 頬を膨らませるエリヴィアを見ながら、俺は小さくため息を吐いた。


 クラスどころか学年単位で見ても、俺は完全に“関わっちゃいけない奴”扱いされている。


 普通なら、同じクラスになった時点で距離を取る。


 少なくとも、女子ならそうだ。


 実際、女子の落とした財布を拾って渡した時ですら、露骨に嫌そうな顔で「ありがとう」って言われたことがある。


 なのにこいつは、一ヶ月経った今でも平然と俺に話しかけてくる。


 無視しても。

 冷たくしても。

 露骨に嫌な態度を取っても。


 まるで楽しんでるみたいに。


 理解できない。


 本当に、理解できない。


 もしかすると俺は、理解したくないだけなのかもしれない。


 そんなことを考えているうちに、馬鹿らしくなって椅子にもたれかかった。


 ──俺は女が嫌いだ。


 別に女に興味がないわけじゃない。


 むしろ逆だ。


 好きな女ができれば、世界はきっと輝いて見えるんだろう。


 朝は髪を整えて。

 少しでも格好よく見られたくて。

 学校で偶然会えただけで一日中浮かれて。


 LINEで「おやすみ」って送られてきただけで、幸せな気分になって。


 返信が来なかっただけで眠れなくなる。


 ……本当に、馬鹿みたいだ。


 そんなの、おとぎ話と変わらない。


 偶然会えた?


 相手からすればただの通り道だ。


 「おやすみ」?


 気分次第で送ってるだけかもしれない。


 裏では友達と笑いものにしてるかもしれない。


 そういうものを知ってしまったから、俺はもう期待しない。


 女は目的を持って近づいてくる。


 優しくして。

 期待させて。

 気づけば、男を都合のいい存在に変えていく。


 だから俺は、そういうものを最初から信用しない。


 ……自分でも嫌になるくらい、ひねくれてるとは思うけど。


「ん~……今日、暑くない?」


 突然、エリヴィアが間延びした声を出した。


「もう汗だくだよ~……」


 そう言いながら、彼女は制服の袖をまくり、机の下でごそごそ動き始める。


「……何してんの?」


「んー? 暑いからニーハイ脱いでる」


「は?」


 意味がわからない。


 授業中だぞ?


 こいつ、本当に頭おかしいんじゃないか。


 俺が前を見ると、教師は黒板に夢中でこちらに気づいていない。


「ほら、先生見てないし~」


 エリヴィアは悪戯っぽく笑うと、また机の下に潜り込む。


「よいしょ……っと」


 気になって、つい視線が下に向いてしまった。


エリヴィアは机の下で身体をもぞもぞと揺らしながら、ゆっくりとニーハイを下ろしていく。


 細く伸びた脚に張り付いていた黒い布地が、少しずつ肌から剥がれていくたび、白い肌がじわりと露わになっていく。


 膝。

 太腿。

 足首。


 まるで黒に覆われていた何ものが、静かに解放を待つされていくみたいだった。


エリヴィアは腰をくねらせながら、ゆっくり靴下を脱いでいく。


 黒い布地の下から、白い脚が少しずつ現れる。


 やがて足首まで下ろすと、彼女は一気にニーハイを引き抜いた。


 やがてニーハイが足元まで落ちると、エリヴィアは小さく息を吐きながら、それを指先で引き抜く。


「んっ……ふぅ」


 するり、と。


 最後に解放された白い素足が、上履きの上へそっと触れ置いてあった。


 思わず視線が吸い寄せられる。


 小さな足指。

 淡い桜色の爪。

 雨前の薄暗い教室の中で、その白さだけが妙に目立っていた。


「えへへ、見てる見てる」


 俺の視線に気づいたエリヴィアが、悪戯っぽく笑う。


「そんなに気になる? タイツと生足、どっち派?」


「……別に」


 慌てて視線を逸らす。


 別に興味なんてない。


 ただ、視界に入っただけだ。


 ……そう、自分に言い訳するみたいに。


「えへへ、興味ある? 私の生足」


「別に」


 本当にどうでもいい。


 ……いや、嘘だ。


 少しは気になる。


 男だから。


 「はぁ~……涼しい~」


「終わったなら静かにして。君のせいでまた廊下に立たされたくないし」


「ひどっ!? 全部私のせいみたいじゃん!」


「全部お前のせいだよ!」


 思わずツッコむと、エリヴィアは楽しそうに笑った。


「なんか、下脱いだら眠くなってきたぁ……」


「あんた、何しに学校来てるの?」


「んー……じゃ、おやすみぃ」


 本当に自由な女だ。


 散々騒いでおいて、満足したら寝るらしい。


 そして次の瞬間。


 エリヴィアは脱いだニーハイを、俺の制服のポケットに突っ込んできた。


「……は?」


「預かってて」


 意味がわからない。


「頭大丈夫か?」


「えへへ」


 俺は呆れながら、ポケットの中の靴下を取り出した。


 黒いニーハイ。


 女子の私物。

 後、ちょっとだけ彼女の匂いがして脳を刺激してくる。

 普通なら男子高校生が喜ぶ場面なのかもしれない。


 けれど俺は、生理的な反応以外特に何も感じなかった。


「……だからどういうつもりだよ」


 そう呟いて、適当に鞄に突っ込む。


 エリヴィアが隣に来てから、毎日こんな調子だ。


 何も掴めないまま。

 何も理解できないまま。

 何を考えているのかをわからない。


 綺麗な人形みたいな見た目をしているくせに、中身はまるで悪ガキだった。


 けれど。


 時々、ふと思う。


 彼女は本当に、“表側”の人間なのかと。


 俺には時々、彼女が誰とも違う何かに見える瞬間があった。


 ……人間の裏側みたいなもの。


 だからこそ、深入りしたくない。


 知れば知るほど、人間は気持ち悪いから。


 そんなことを考えているうちに、エリヴィアは本当に寝息を立て始めていた。


「……自由すぎる」

もしくはただのおバカさんなのかもしれないな。


 俺は窓の外を見る。


 いつの間にか空は曇っていた。


 灰色の空。


 まるで自分の気分みたいだった。

放課後を告げるチャイムが鳴り響く。


 ようやく一日が終わった。


 窓の外では、いつの間にか空模様が一変していた。


 山の天気みたいに気まぐれな灰色の空。

 黒く濁った雲の奥で、低い雷鳴がごろごろと唸っている。


 その音を聞いた瞬間。


「んぁ……っ、終わった!?」


 さっきまで机に突っ伏して寝ていたエリヴィアが、ばね仕掛けみたいに勢いよく飛び起きた。


 そしてそのまま、「おつかれ~!」なんて声を上げながら友達グループの輪へ突撃していく。


 ……回復早すぎだろ。


 思わず呆れる。


 その後、どれくらい時間が経っただろうか。


 騒がしかった教室からは次第に人が消えていき、気づけば空席だらけになっていた。


 机と椅子だけが残された静かな教室。


 人がいたはずの場所だけが、ぽっかり空いて見える。


 俺も帰るかと思い、席を立ちかけた瞬間だった。


 ──ぱさっ。


 何の前触れもなく、鞄の中から一通の封筒が滑り落ちた。


 水色の封筒。


 それは風に揺られながら、不安定に床へ落ちていく。


 まるで少しでも目を離せば、そのままどこかへ飛ばされてしまいそうだった。


「……なんだこれ」


 昼休みに席を外していた時、誰かが入れたのか。


 そう思いながら拾い上げる。


 封筒には一切シワがなく、丁寧に扱われていたのがすぐにわかった。


 淡い水色。

 小さな花柄のシール。


 いかにも“女の子らしい”手紙だった。


 突然すぎる出来事に、俺は数秒ほど思考を停止させる。


 それから静かに封を開けた。


 中の文字は驚くほど綺麗だった。


 一文字一文字を丁寧に並べたような筆跡。


 紙も汚れていなくて、書いた本人がどれだけ気を遣ったのかが伝わってくる。


 内容は短い。


『一年C組の星晴景彼方へ


 A組の千木花といいます。

 突然ごめんなさい。


 どうしても伝えたいことがあります。


 今日、下校する前に屋上へ来てください。


 待っています』


 ──それだけだった。


 そして。


 それだけで十分だった。


 普通の男子なら、ここで舞い上がるんだろう。


 心臓を跳ね上がらせて。

 「もしかして」なんて期待して。

 勝手に青春を始める。


 でも。


 俺の心の中にあったのは、妙な静けさだけだった。


 ……きっと、恋愛に浮かれた男子なら、こんな想像をする。


 好きな先輩に想いを伝えたくて。

 何度も書き直した手紙を胸に抱えて。

 友達に「なになに?」なんて聞かれて、顔を赤くしながら「ち、違うってば……!」と慌てたりして。


 昼休み、目当ての男子が教室を出た隙にこっそり忍び込んで。


 まだ温もりの残る机をそっと撫でたり。

 使っていた教科書を見て、ひとりで照れたり。


昔の俺じゃないからあくまで友達の話しね。


手紙を握ったまま最後は小走りで教室を出ていく。


 ……そんな、恋愛漫画みたいな光景を。


「馬鹿らしい」


 男っていうのは、本当に想像力だけが上手いのだ。


 たった一通の手紙だけで、都合のいい物語を脳内で完成させる。


 純情な恋。

 恥じらう後輩。

 青春の告白。


 そんなものを勝手に信じて、勝手に期待して、勝手に傷つく。


 甘い砂糖菓子だって、口に詰め込みすぎれば最後には甘さだけ残して気持ち悪くなる。


 だから俺は、最初から期待しない。


 窓の外で雷鳴が轟く。


 荒れ始めた風がガラスを叩き、不快な音を鳴らしていた。


 俺は小さくため息を吐き、手紙を制服のポケットへしまう。


 今日だけで何回ため息を吐いただろう。


 そのうち疲れ切ったサラリーマンみたいになりそうだ。


 そんなことを考えていると、またため息が漏れた。


 外は今にも土砂降りになりそうだった。


 天気予報を確認する習慣をつけておけばよかった、と少し後悔する。


 ……まあ、家では妹が毎晩バラエティ番組ばっか見てるせいで、ニュースなんてまともに見れないんだけど。


 ──嵐が来る。


 そんな予感がした。


 俺は屋上へ続く階段を上っていく。


 曲がりくねった階段。


 誰もいない静かな踊り場。


 そして最後の扉の前で足を止めた。


 もし今、鏡があったなら。


 そこにはどんな顔の俺が映っているんだろう。


 嬉しそうに笑ってるのか。


 ……いや。


 たぶん少し苦そうな顔をしてる。


 ラブレターを貰ったっていうのに、ちっとも嬉しくない。


 それとも、単純に雨が嫌なだけか。


 考えるのも面倒になって、俺はそのまま扉を押し開けた。


 瞬間。


 冷たい風が全身を叩いた。


「っ……」


 思わず肩を震わせる。


 屋上には誰もいなかった。


 あるのは吹き荒れる風と、雨の匂いだけ。


 ……けれど。


 こういう時、“お楽しみ”は大抵最後に現れる。


 ヒーローみたいに。


 まあ今回出てきたのは、ヒーローじゃなくて道化だったけど。


「っ、ははははっ! マジで来たぞこいつ!」


「大藤、お前笑いすぎだって!」


「お前も笑ってんだろーが!」


「いや、私が一番被害者なんだけど!? こんな恥ずかしい手紙書かされるし! こんな綺麗な字、宿題でも書いたことないんだけど!」


「あとでジュース奢るって言ったじゃん、ははは!」


 背後から響く笑い声。


 男女混じりの騒がしい声が、屋上に広がっていく。


 なるほど。


 そういうことか。


 俺は振り返る。


 中心にいた男子──大藤と呼ばれた男が、笑いを堪えながら俺を見た。


「いや~悪い悪い。罰ゲームでさ。この子が負けたから、お前呼び出してみようぜって話になって」


 まったく反省していないだけど。


 むしろ、俺の反応を楽しみにしている目だけど。


 けれど。


 笑いたかったのは、たぶん俺の方だった。


 だって、予想通りすぎたから。


 期待するだけ無駄だって、自分でわかっていたから。


「……笑えない罰ゲームだな」


 それだけ言って、俺は背を向ける。


 怒りはなかった。


 何も感じでいなかった。


 ただ、「早く帰らないと雨が降るな」と、そんなことを考えていた。


「は? おい、帰んの?」


 大藤が肩を掴んでくる。


「せっかく悪戯してやったのにリアクション薄くね? 普通もっとキレるだろ」


 泣き叫ぶ姿でも期待していたのかもしれない。


 けど、そんな馬鹿みたいな真似をする気は全くない。


 肩を掴む手を乱暴にどけて、そのまま歩き出した。


 最初からわかっていた。


 女子が俺なんかにラブレターを書くわけがない。


 いや、この学校の女子全員がそうだ。


 期待しなければ傷つかない。


 ただ、それだけ。


 それが何なのか、俺はいまだによくわからないままだった。


 背後では、まだ連中の笑い声が続いている。


「なんかつまんなかったなー」


「もっと泣いて逃げると思ったのに」


「……そうだね」


 千木花だけが、開いたままの扉をじっと見つめていた。


 その瞬間。


 空が光り、雷鳴が轟いた。


 直後、大粒の雨が降り始める。


「うわっ、やべ! 本降りだ!」


「撤収撤収! 千木花も帰るぞー!」


「送ってやろうか?」


 けれど千木花は少し考えたあと、首を横に振った。


「ううん、大丈夫。じゃあね」


 軽く笑って、大藤の背中を叩く。


 そしてそのまま階段へ消えていった。


 大藤はしばらくその背中を見送ってから、小さく息を吐く。


「……俺も帰るか」


 屋上の喧騒は、激しい雨音の中へ消えていった。


 帰り道。


 妹に頼まれたドーナツとチーズバーガーを買うため、わざわざ遠回りしたせいで、俺はすっかりびしょ濡れになっていた。


「……だから早く帰りたかったんだよ」


 母親が昔、「大雨の日に早く帰りなさい」って言っていた気がする。


 大人の言葉は聞いておくべきだった。


 店先の軒下にしゃがみ込み、雨をぼんやり眺める。


 強くなったり弱くなったりを繰り返す雨粒。


 空の上で無数にぶつかり合いながら、騒がしく踊っていた。


 もし天使がいるなら、雨の日は傘を差すんだろうか。


 羽が濡れたら重そうだし。


 ……そういえば天使も女の子か。


 そんなくだらないことを考えていたうちに、その時だった。


 突然。


 背中に“どんっ”と重みが落ちてくる。


「っ!?」


 視界が塞がれた。


 甘い香り。


 柔らかな感触。


 そして。


「はっけーん♪ みーつけたっ」


 耳元で、聞き慣れた声が笑う。


 視界が戻る。


 そこにいたのは天使なんかじゃない。


 悪戯っぽく笑いながら、俺の背中に乗りかかる金髪の少女。


 ──俺を捕まえに来た悪魔だった。

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