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「お嬢様~、大丈夫でいらっしゃいますか?」

「サリ~、今になって怖さをやっと実感しているの、変ね私」


 控室内が落ち着きを取り戻すと近衛隊長がローズの前へ進んだ。


「近衛隊長でございます。

 エティエンヌ公爵、この度はわが隊所属の者が大変失礼いたしました。動機・背後関係を明らかにした後に、責任を取らせていただきます」


「近衛隊長、丁寧にありがとうございます。近衛隊長のおかげで反撃のカードを切れました、感謝しております」


 ローズは、美しい笑顔を浮かべた。


 私の腕の中で震えていたローズの姿はもうどこにもなかった。

 君のその笑顔、特にその目は、美しく挑戦的で高貴だ。


 近衛隊長は、ローズに深々と頭を下げ持ち場に戻った。

 これでローズびいきが一人増えた。

 ローズを閉じ込めておきたい。


「ラムセス、今日の天覧は中止できない、ココは大丈夫そうか?」

「気丈に振る舞っていますが、先ほどは緊張が切れたのか震えてしまい……」

「そうか、上演時間を遅らせる事はできるが……」


「ココ、大丈夫か?」

「はい、皆さんが優秀だから助かりました」

「ココは強いな、このままバレエを鑑賞できそうか?」

「はい、楽しみです」


 ローズの笑顔で、予定時間通りの上演が決まった。



 我々は、陛下に続いて拍手に迎えられ、ロイヤルボックスに入った。

 舞台の幕が上がると、ローズは舞台に夢中になった。


 私は、ローズだけを見ていた。

 踊りと踊りの合間にローズは私の視線に気づき、こちらを向いてくれる。

 何回目かでローズは小声で「セス様。一幕の私のオススメの雪の精の踊りです」と教えてくれた。

 ローズのお気に入りのシーンなら観賞しようと思ったものの、私の目はローズから離れること無く、第一幕が終わった。


 控室に戻り、ローズはサリに連れられパウダールームに消えた。


「ローズは、吸入薬を……」

「ああ、ココは使うだろうな、予定を最良な形でこなすだろう」

「幕間の社交は必要ですか?」

「今回、ココがこの国の女性の頂点にいることを知らしめる必要がある。

 ラムセス、私は諦めていない。必ずココの病気も適合も全て解決させる。それから、ココに正式にバングルを贈ろう」

「陛下!」

「ラムセス、ロングソード一本分だ……」

「陛下?」

「先ほど、私は初めてココの横に並んで立った。私とココの間には、まだロングソード一本分の距離がある。その距離がココを守ると頭では理解している。そして、もどかしかった、ココの手を取れなかったことが……」


 陛下は、挑むような視線を放って言った。


「ラムセス、選ぶのはココだ」

「ですが、陛下っ!」


「ラムセス、私は10年だ、10年間ずっと思い、恋焦がれていた。

 召喚された少女がココに似ているというだけでこの召喚に感謝した、だからこそ壊さないようにラムセスに預けた。会うたびに、ラムセスの報告を目にするたびに、そしてココだと判明してからも、何度も諦めた。

 ローズと呼ばれラムセスと並ぶ姿を壊さないようにしていた。

 だが、犯人を煽るあの強い目を再び見てしまった。ブラックビューティーのバラが似合う、私が恋焦がれたあの時のココだ。私はそんな彼女を諦められない」


 陛下が、ここまで熱く語ることが今まであっただろうか?


「陛下……」

「安心しろ、王命を下すことはない」

「陛下、フォード卿、マイ・レディがお戻りになりました」


 ヒースの声で、陛下との話は途切れた。


「……ローズ、ギャラリーホールに出られそう?」

「はい、私は笑って立っていれば良いのですよね」

「ココ、一切話さなくて良い、声を聞かせるな、笑顔を見せるな、全ては我々が対応する」

「はい、それなら大丈夫です」

「ローズ、手を」

「はい、セス様」


『声を聞かせるな、笑顔を見せるな』かぁ、かつての私と同じだ。

 陛下は本気でローズを奪いに来る。


 だから、その前にローズを白い布で包み連れ去りたい。



 ※



 セスに手を引かれ、幕間の社交のためギャラリーホールへと進んだ。

 ギャラリーホールの装飾は、白基調の金だった。天覧の時だけ使われる空間だとヒースが説明してくれた。

 ギャラリーホールの見学をしたいが、そんな余裕はないらしい。


 爵位授与の儀に立ち会ってくれた高位貴族から挨拶が始まった。

 国王陛下とセスに挟まれ、ドレスのおかげで半歩下がっていたので二人の陰になってちょうど良かった。

 私はシナリオ通りに視線と首を少し動かす以外は直立姿勢を貫いた。


 無事に、ギャラリーホールでの挨拶は終了し控室に戻った。


「ココ、立派だったぞ」

「ありがとうございます」

「ローズ、疲れてないかな?」

「はい、大丈夫です」


 サリからミント水を受け取った、話さなくても喉は乾く。

 あとは第二幕を観て、夜は足エステだ~。ふふっ。


「ローズ、嬉しそうだね」

「はい、第二幕は全てが私のオススメのシーンです」

「ココ、年始のオペラも招待しよう」

「国王陛下、年始の演目は?」

「あ~、演目……?」

「マイ・レディ。年始は薔薇物語でございます」


 薔薇物語って何だろう、オペラ? バレエ? 次こそは予習が必要かな?

 どんなお話かしら? 主人公は、バラを売る少女、バラの姫君、バラの騎士? 悲恋? すれ違い続きのハッピーエンドかな? もしかして薔薇戦争の話かも?


「それは、是非!」


 私は、セスを見た。オペラ鑑賞できるかどうかは、監護者であるセスが決めることだ。


「ローズ、今度こそ毎日でも通おう」

「良いのですね!」

「ああ、もちろんだ」

「お嬢様、今夜から次のドレスを考えましょうね」

「ココのドレスは私が贈ろう」

「陛下、次のドレスはフォード家が総力を挙げて──」


「第二幕の開始時間です、お席へ」と国王陛下の側近が告げた。


 陛下に続いて、ロイヤルボックスへ入った。

 金平糖の精のシーンは見ていて力が入ってしまった。

 パ・ド・ドゥは美しかった。

 主人公クララが目覚め幕が下りはじめた。


 あ~、終わってしまう。

 拍手が湧き会場が沸く直前の一瞬の静寂。


 パァーン ダダダッ

 パァーン パアーン ダダダッ

 ダダッ ダダダッ ダダダダダ


 発砲音とともに火薬と硝煙の匂いが立ち込め、悲鳴が上がった。


 ダダッ ダダダッ ダダダダダ


 私は驚きのあまり、正面を向いて座ったまま肩に力が入って固まった。

 美しい劇場の観客席の数か所から黒煙が上がっている。

 どうして? よく、状況が分からない。


 バッキッ!!


 後方、控室側の扉が破壊されたようだ、固まったままの私は振り向けない。


「ローズ!」


 セスが、私に覆いかぶさった。


 えっ……、襲撃! テロ! 


 銃声は続いている。耳がおかしくなりそう。

 ドラマや映画と違って乾いた音に感じる。


 ロイヤルボックスにいた近衛兵と魔術師が国王陛下の盾となり、控室に向けて攻撃を放っている。


「セス様?」

「ローズ、このまま、伏せたままで……、ヒース」


 私は、ロイヤルボックスの舞台側の床、椅子の陰に身を屈めた。


「ヒース、客席側に結界を」

「了解」


 ヒースも魔法陣をキラキラと展開している。

 セスが私の正面に回り込もうとしている。


 あっ、あのブルネットの髪の人、また魔法陣を展開していない? えっ? 

 今、こちらを向いて笑った。


「セス様、危ない」


 私の正面に回り込もうとしたセスを私は押し退けた。


「うっっっ!!」


 痛いっ!


 私の胸に強い衝撃が走った。太い針で心臓を刺されたような……。痛い、声も出ない、息できるかな? 鎖骨か肋骨が砕けたの? 肺が破れた?


「ローズ? ローズ!」

「セス……さ……ま、ぶ……じ……?」

「ローズ、どうして……君が……ローズっ!」



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