表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/108

58

 

 馬車から何とか降りた私は、静かに息を吐いた。


「セス様、これ魔法で折りたたんでは?」

「くっくくっ……陛下ならできるよ」

「セス様! 何を笑っているのですか?」

「いつも凛としているローズが、焦っている姿が可愛くて……くくっ……」


 セスの忍び笑いを耳にして、私は急に恥ずかしくなった。

 それをごまかすために私は勢いよく顔をそむけた。


「ローズ。プイッとしているの? 可愛い怒り方だね」

「…………」

「ローズ、謝るからこっちを向いて」


 もう、なんなの、セスの機嫌が良すぎる。

 そもそも、私は怒ってないし……。


 サリが裾を直し、髪飾りを直している。この髪飾りは頭を動かすと揺れて絡まり面倒そう、気を付けないと。


「サリありがとう、馬車では息苦しくてごめんなさい」

「旦那様と繋いだ手でドレスの裾を抑えるお二人の姿は、苦しいどころか微笑ましく感動いたしました」


 えっ、そんな……。


「ローズ、一度王宮に入ろう、ローズ手を」

「はい」

「お嬢様。今日のドレスですが、エスコートの際はいつもより半歩後ろに下がってください」

「はい」

「ローズ、そんなに後ろに行かないでもっと近くに、まだ怒っているの?」


 いやっ、怒っていない、そもそも近い。これ以上は物理的に無理。

 というか、歩くのが大変。サンダルを最後に変更して正解だった。少しだけ慣れたライトブラウン色の10センチヒール、エスコートがないとグラグラかも……。



 陛下の登場が告げられた。


「ラムセス、ココ、頭を上げてくれ。よく来てくれた」

「「本日はお招きいただきありがとうございます」」


 私達は、頭を下げた。あっ、髪飾り……。


「時間までまだ少しある、お茶でもしよう」


 国王陛下は、モスグリーン色と金色を刺し色にした白色基調の騎士服だ。マントの留め具に金色のバラを飾っている。

 セスの騎士服は、モスグリーン色とネイビー色を刺し色にした黒色基調でマントの留め具に青色のバラを飾っている。


 礼装用の騎士服は、何だか複雑な作りのようだ、装飾が美しい。二人ともいかにも西洋刀剣といった感じのロングソードを帯剣している、鞘とグリップをバラ飾りで留めているように見える。抜剣しないのかな? 色々と重そう!


 お揃いの二人にヒースという白銀の騎士が加わって……コスプレイヤーでなくても気分が上がる。少し離れて眺めたい、いやもう……愛でたい。


「ローズ、座れる?」


 座れと言われれば座るけど……。


「ココ、贈ったドレスが似合っている。少し、そのままで……」

「国王陛下、素敵なドレスや装飾品をありがとうございます」

「ああ、似合って良かった」


 陛下が、私のドレス姿を黒目がちに眺めている。

 国王陛下の騎士服がキラキラしている。


「陛下、ローズのドレスの防護魔法を解いていただけますか?」

「ああ、そうだったな。ラムセスとヒースも干渉できるように書き換えよう」


 それからは、難なく座れた。軽く喉を潤した。


「ココ、今回は警備を増やした。物々しいが気にしないでくれ」

「はい」


 王宮に来るまでの間ドレスに気を取られ、馬車から街の様子を見られなかった。


 物々しい雰囲気……?

 ヨーロッパを旅行している時、EU諸国内でテロがあると、テロ当事国でなくても軍関係者がライフルのような長い銃をもって、街や駅構内・電車内を巡回していたのを何度も見た。そんな感じなのかしら?



 シャランシャラン シャランシャラン

 シャランシャラン シャランシャラン


 六頭立ての王家の馬車一台が、四頭立ての馬車三台に前後を挟まれ、近衛騎馬隊に囲まれて王立劇場の正面門をくぐった。歓声が上がっている。

 中央扉から敷かれたレッドカーペット前に馬車が止まった。


 馬車の扉が開き、国王陛下が降りた。歓声はひときわ大きくなった。

 セスが降り、私に手を差し出した。馬車を降りると同時にフワッとドレスが美しく開いた。

 国王陛下が劇場正面の階段を上り中腹を過ぎたとろで、セスと私は階段を上り始める。


「うわ~、新しい公爵様よぉ~」

「あんなに金色のバラを、美しい方ね」

「陛下ではなく、フォード公爵がエスコートしているわ~」

「国王陛下ぁ~」

「フォード公爵様、騎士服が素敵ですぅ~」


 そうそう、本当に美しい騎士姿よね。


 ドンッ!


 私の肩に故意にぶつかった赤いドレスを着た人が、そのまま階段を駆け上る。

 一瞬にして、近衛兵が赤ドレスの人を囲んだ。

 行く手を阻まれた女性は叫び始めた。


「アレキサンダー国王さまぁ~アンジュでございます。来てしまいましたのぉ~」


 あっ、これが……、ミランダ国のアンジュ王女殿下?


 国王陛下は、完無視で正面の階段を上り終え、振り返り笑顔で広場前に集まった人達に手を振っている。


 この歓声で聞こえないのだろうか? そんな筈はない。


「アレキサンダー国王さまぁ~、私をロイヤルボックスにご招待いただけますよねぇ~。私、そのために──」


 国王陛下が側近から何らかの報告を受け、指示を出したように見えた。

 近衛兵が「許可無くして、この階段は使えません」と制した。

 アンジュ王女殿下を囲む緊迫した雰囲気、国王陛下は我関せずと観衆に応える。


 このちぐはぐな不思議な状況に私の思考は迷走した。


 レッドカーペットに赤いドレスは残念だなぁ~。王女殿下には、スタイリストはいなかったのだろうか? 

 劇場内部も赤を使っている。そうかぁ~、私も赤いドレスだと、目立たなかったのね。あっ、緑って赤の補色よね、あ~~私の今日のドレスは目立ってる?

 このドレス……さっき肩にどうやってぶつかったのかしら、追い抜き際に横から? 防護魔法の盲点を突いたということなの。もう故意確定だよ、いや悪意だ! 避けられない自分に呆れるけど、階段から落ちなくて良かった。


「アレキサンダー国王さまぁ~、この国の王妃になるためにまいりました、アンジュです」

「陛下の名前を呼ぶとは、不敬だぞ」


 近衛兵が、アンジュ王女殿下をこの場から引き離し、階段から降ろし始めた。


「離しなさい! 私はミランダ国第一王女よ! 勝手に触れないで、誰の許可を得ているの?」


 いやいや、貴女こそ誰の許可で国王陛下に話しかけているの? ドレス以前にいろいろ残念な方だ。


 アンジュ王女が、私の横を通り過ぎようとした時だった。


「ちょっと……どうしてあなたが金色のバラを付けているの? それは、この私だって、まだ許されないのよ……泥棒! あなたのせいね、なによ異国の小娘が、どきなさいよ! その前に、それを私に返して!」


 アンジュ王女が、私のドレスのバラ飾りに手を伸ばした。

 階段途中で怖いことしないでぇ~、ホントやめてっ。


 セスが無言でアンジュ王女殿下の前に出た。


「ひいっ……、なによ……私は……わ、私……は、……」


 アンジュ王女殿下は、急に狼狽えた。

 ヒースに手を取られ私は数歩横に移動した。

 私にもセスの冷たい表情がみえた、視線だけで人を威嚇し怯えさせる鋭さがあった。


 国王陛下の側近がセスに耳打ちした。


「ミランダ国王女を騙り、数々の不敬、拘束しろ」

「ははっ」


 セスの抑揚のない事務連絡のような拘束命令によって、アンジュ王女殿下は私達の前から消えていった。


 この数十秒程度の小競り合い中も、陛下は笑顔で声援にこたえている。

 私は、階段途中で止まったままだ。


「ローズ、怖かった? 大丈夫だよ」


 セスが、私に笑顔で近寄った。


「きゃ~、フォード公爵様が笑っている」

「きゃ~、冷徹魔術師様が……きゃ~」

「公爵様~、私達にも笑顔をくださぁ~い」

「フォード公爵様ぁ~」


 盛大な黄色い声援で、私は耳が聞こえなくなったかと思った。

 国王陛下までが、こちらを見ている。


 耳がボヤボヤする中、私はセスに手を取られ階段を上り切った。


 国王陛下が、こちらに踏み出した。


「きゃ~、騎士服の二人が、きゃ~」

「陛下、ラムセス様ぁ、並んでくださぁ~い」


 私も強く共感できる、この黄色い声援。

 本当にドキッとする二人なのよ、国王陛下とセスは……。

 それに、ヒースが加わると、キラキラ三乗。マブシイ。

 私も黄色い声の子達に混ざりたい。


 セスと私は国王陛下へ礼をとる。

 国王陛下が、私に声をかけ、手を差し出した。


「ココ、こちらへ」

「陛下、おやめください。ローズは王妃候補ではありません」

「ラムセス、私は後見人だ」

「陛下が、ローズの手を取ればローズは王妃候補の筆頭になってしまいます。今はおやめください」


 国王陛下とセスは終始笑顔だけど、冷気を帯びた刺々した会話……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ