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 陛下は、かつての大人のローズを知っている。だからといって、こんなにも妖艶なドレスをローズに贈るなんて……。陛下へ怒りをぶつけることによって、身体の熱を冷ました。


 ヨハンが咳払いをした。


 ローズが憂い顔になっている、劇場に行きたいのだろうか? 劇場に毎日通おうと言いながら、1回しか行っていない。


「ローズ、飲茶カフェに行きたい? 劇場に行きたい?」

「治安が不安定になっているなら無理しなくても、それにこのドレスは少しアレンジしないと私には無理です」


 ローズは、恥じらいながらもはっきりと主張した。

 ダメだ、そんなにも可愛い顔を私以外に向けないでくれ……。


「ローズ、白い布で……大きな白い布で君を包んで──」

「旦那様っ!」


 あ~、これだけは言ってはいけないとヨハンに言われていた。

 ローズを失う訳にいかない、私は言葉を飲み込んだ。


「サリ、ローズのドレスを何とかできないか?」

「旦那様、これだけのバラ飾りが贈られています。胸元にもバラ飾りを施しましょう」


「サリ!」

「お嬢様? いかが致しましたか?」

「サリ、あの箱……まだ開封していないのでは?」


 慌ててメイド達が開封した。


「旦那様、お嬢様、大変失礼いたしました。もう一枚ドレスが……、これだけでもお召しになれますが、どちらかというとアンダードレスでございます。

 アンダードレスとは思えない、豪華なレースのタイトなドレスでございます」


 ローズを中心に、皆が笑顔になった。

 この屋敷にこのような情景が訪れるとは思ってもいなかった。



 もう一度、ドレスを着直したローズは、いつもの可愛いローズに戻った。

 どことなくエキゾチックでドキッとする雰囲気を醸し出していた。


「ローズ、綺麗だよ」

「ありがとうございます、セス様」


 ローズ、本当に綺麗だよ。


 ローズの身体を包んだ上着を私は大事にしよう。



 ※



 ドレス合わせが終わった。 

 アンダードレスがあって良かった。アンダードレスとは思えない総レースのノースリーブドレスは、タフタ素材のドレスよりワントーン明るめのモスグリーン色で浅めのハイネックで品が良いものだった。

 一人で着られないドレスは本当に辛い……。ドレスに振り回される、脱力感も半端ない。


 そして、潮が引いたように周囲は静かになった。常駐メイドしかいない。


 少し前まで、私の部屋には、色々な人が集まっててんやわんやの騒ぎだった。ドレス選びから始まり、いくつもの箱が届き、金色のバラを拾い集め、ドレスを何回も着直して、その後の髪飾りや靴がなんだと……。


 あ~、静かだぁ~。

 で、明日の飲茶カフェはどうなったのかな?


 サリにお願いする次のネイルデザインでも考えようと机に向かった。


 書類机の上に置いたオルゴールに目が留まった。あっ、充電。

 タブレットは、召喚翌日のタブレット教室のあとフル充電したきり、この部屋に置き去りになっていた。絶命しているかもしれない。

 ケータイは、王宮で一回ぐらい中途半端に充電したような……。どうせ使わないから急いで充電することも無いかぁ~。


 私は、メモ用紙を手にして、次のバレエ鑑賞時のネイルを考え始めた。

 単色、雪の結晶ネイル、スノーマンネイル……金のバラの3Dネイル、金のバラは意味深いから避けよう、それに3Dネイルはグローブをはめるから不向きだ。


 グローブで見えないからこそ、シンプルで綺麗にまとめたいなぁ~。

 グローブを取ったときにバングルと合うように青を入れる?

 う~ん。ダブレットに冬ネイルの写真があったような……ゴソゴソ。


 コンコンコン


 書類机の引き出しを開けタブレットを取り出した。恐る恐るタップすると、液晶画面が明るくなった。おお~、かなりの充電が残っている! さすが機内モード。


「ローズ?」

「あっ、セス様?」

「何をしているの?」

「次のネイルデザインを考えていました」

「ローズのネイル、次は僕にやらせて欲しいなぁ」

「えっ……では、是非」


 そう答えたものの、サリにお願いしたい。


 私は、タブレットの写真アプリを起動させ、ほとんど使っていないダイニングチェアへと移動した。セスが角を挟んだ隣に座る。


「セス様、このイメージで……ベースの色をネイビーか青ラメで……」

「爪にこんな繊細な模様を描くの? 凄いね、良く見せて」


 セスは、タブレットをタップし、写真を拡大し始めた。


「はい。ネイリストさんが凄かったんです、シールやパーツやエアブラシや手書とあらゆる手法で魔法のようでした。ミラーネイルやマグネットネイルも好きでした、でも一番上品なのはフレンチネイルらしいです」

「フレンチって?」

「フレンチネイルは、これです。

 私は、スクェアオフで爪先2~3ミリの真っすぐ細フレンチが好きでした」


 私が示した写真をセスが覗き込んだ。


「ローズ、手を貸して」

「はい」


 セスが軽く私の爪をサッと撫でた。


「えっ、わぁ~」

「ローズの思うフレンチネイルのイメージ通りかな?」

「はい! 凄い、セス様! 凄いです」


 サリがやってくれたネイルが一瞬で消えて、透明感のあるブルーサファイア色の細フレンチネイルになった。うるうるとジェルネイル特有の輝きを放っていた。

 ベースとの境目に金ラインが細く入っていた。


「バングルとお揃いですね、凄くきれい~」

「そんなに喜ばなくても、いつでもやってあげるよ」

「ありがとうございます」


 セスが、またとろけるような笑顔を浮かべた。


「ローズには感謝しかないんだ。

 ローズと出会って初めて自分が生きていることを実感できた。視界が色づき、自分にも感情があった事を自覚した。今だってネイルを喜ぶローズを見るだけで、私は幸せになれる。その上、ネイルに喜ぶローズの心を共有しているから、喜びが重なって……ローズ、ありがとう」


 私は、セスの唐突なお礼に驚いた。

 何かの死亡フラグかしら?


 ピピピッ 


「あっ警告音、電源かな?」

「何の警告?」

「タブレットの電源がそろそろ無くなるから充電を訴えている警告です。

 といってもまだ30%残っているから、15%でも再度警告がなる設定なので、そうしたら充電します」

「どうやって、充電するの? ローズ、教えて」


 教えるもなにも数秒で説明は終わった。

 モバイルバッテリーを使い、タブレットの充電をすることになった。


 私とセスは、外が見えるソファーに動いた。


「そうだ、ローズ。明日はどうする?」

「私はこの部屋で静かに過ごしたいです、飲茶カフェの予約は取り消せますか?」

「大丈夫だよ」


 ドレス合わせは疲れる。明日こそ、一日中、ゴロゴロするぞっ。

 とりとめの無いことを考えて、ウダウダと過ごそう。

 久しぶりの廃人もどきへ! あっ、食事とお茶は省略できそうもないかぁ~。


「ローズは、この部屋を気に入ってくれているの?」

「はい、とても……、とても気に入っています。ここにいると苦しくないのです。

 ここのお部屋は、喉にも優しいみたいです」

「ローズ、王宮は苦しかったの?」

「はい、王宮という場所柄なのか、建材の何かに反応したのか、何かの繊維片に反応したのか、換気のせいなのか、偶然にも天候・気圧のせいか不明ですが息苦しかったです」

「すぐに言ってくれれば……」

「このお部屋に戻ってきて、ああやっぱり王宮は息苦しかったと薄っすら思う程度で自覚はできず……。王宮では多くの人に会いました、色々な事がありました、そのせいで精神的にも息苦しかったのかもしれません」


「ローズは、少しもそう感じさせなかったよ」

「でも、セス様は気づいてくれました」


 私は嬉しかった。喘息が発覚してからも変わらないセスの態度と心遣いが……。

 私が自覚できない違和感をすぐに取り除こうとしてくれた。


 だから、私は、丁寧に生きることを続けられている。


「明日は、甘えさせてもらって、羽根を休めます」

「では、僕はローズのためにお茶を運ぶよ」

「ふふっ……それは大変に幸せです」

「ローズ!」


 セスが、私の肩に手をまわし抱き寄せた、いつもより熱を感じる。


 あ~、穏やかな時間が過ぎていく。

 異世界召喚後、こんなに静かで穏やかな時間を過ごせるなんて……。


 きっと私は、この人をもっと好きになってしまう。

 もう好きになることを止められない気がする。


 今は、何も考えず、決断せず、この穏やかな時間を楽しもう。


 夕日で焼けた空を眺め、セスの隣で私は静穏な時間に浸った。



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