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 先ほどの繊細なレースと刺繍のノースリーブワンピース姿でセスにエスコートされて温室に向かって庭園を歩いた、快適だ。

 通常は建物の中だけが快適な温度に保たれている王宮だが、今日は王家主催のお茶会で屋外も温かい空気で満たしていると説明された。


 外気温って、自由にできるものだったのね。もう、驚くのはやめよう!


「ローズ、大丈夫?」

「はい、大丈夫です」


 高山植物を集めたという温室内は、少しひんやりカラッとしている。

 岩場や湿地に根を張り、小さな花をつける高山植物をいくつも見つけた。人工の滝もいろんな形状で配置され、厳しい環境をあえて作り出し、アトラクションのようだ。結構、楽しめる。


 ここには、高山に生息する鳥とか小動物も生息しているのかしら? 付き添ってくれている王宮学芸員を目で探した。視界に白いものが?


 うん? 白色ドレスの集団がいる。なんの儀式だ?

 セスが「お茶会に招待された令嬢たちが、なぜこんなところに」と呟いた。


 白ドレスを着た青い髪飾りの少女が、扇子の先を私に向けてきた。


「ちょっと、そこのあなた。ここで何をしているの?

 王家のお茶会は、白を基調としたドレスが礼儀よ、場違いよ!」


 おほほ、温室に白ドレスの方が場違いよ! なんて言い返してみたいものだ。


 15歳ぐらいの可愛い少女が、話しかけて? 難癖? 言いがかりをつけてきた。

 その声に、すぐセスが反応し私を背に隠した。ヒースも茂みから姿を出した。

 ヒースの黒子スキルは凄い、白銀の執事は空気になりすぎる。


 セスとヒースの姿を見て少女達は、ビクッと驚いた。


 セスが、無機質な冷たい声で警護官に確認した。


「ここの管理はどうなっている?」

「はっ、申し訳ございません」


 突然現れた少女達、その真ん中の青い髪飾りを付けた可愛い少女が私に毒を吐いたよね?


 よしっ、逃げよう!


 この集団を避ける道を目で探し、そちらに進もうとした時……。


「ローズが、道を譲る必要はないのだよ」

「そうですね、でも無用な争いは……」


 私は、早口で答えたものの、言葉が続かなかった。


 セスの言うことは正しい。セスも私も公爵位だ、国王陛下以外に道を譲ることはあまりない。公爵家の中でもフォード家は家格が高い、エティエンヌ家は王室の血を引くと匂わせているだけあって尊重されるらしい。相手が公爵家当主だとしても、後見人の関係で私は道を譲られる立場だ、そんなことは知っている。ちゃんと本を読んだし、ヨハンやヒースに教えてもらった。

 だからといって変な人達に関わりたくない。

 この白ドレスの少女達の目には、私は単に異国の15歳の少女として映っている、となるとバカにされてもおかしくない状況だ。


「ちょっと、なぜ黙ったままなの? ふ~ん、話せないのね」


 ほら、バカにしてるじゃない。


 ヒースが、前に出た。


「失礼ですが、お嬢様方はこちらへの入室の許可を受けていらっしゃいますか?」

「私達は、いいのよっ!」

「陛下管理下の温室です、許可が無くても良いとされる理由は?」

「えっ、わ、私達は特別だから……私は、ローズ様の友達なんだからぁ」


 あなた誰? まって、あなたの言うローズ様って誰? 


 爵位授与と聞いた日から貴族名鑑を読んだ。上位貴族にローズという方はいらっしゃらなかった。もちろん王族にもいない。


 私は、小声でセスに確認した。


「あの青い髪飾りの方はどなたですか?」

「私も知らない令嬢だ」

「あの方のいうローズ様って誰でしょうね?」

「ネズミがまた……何が、ローズの友達だ……」


 セスの口調が苛立っているような? それに、ネズミ、友達……。


 宰相ラロール卿の言葉を思い出した、とにかく学園とやらに通わずに済んで良かった。

 王立アカデミー長官から『普通部への入学と同時に卒業を認める』と聞いた時は、学園とやらに通わずに済んだことが嬉しくて、声を出して喜びそうになった。それを必死でこらえていたら『専科への進学』とかいう面倒な流れになって、なんとか進学保留になった。どこかのタイミングで進学を辞退しよう。


 ザッザッと多くの警護官が集まってきた。


「ちょっとぉ、警護官がなぜこんなに。下がりなさいよっ、私はそこのフォード公爵の後ろに隠れている非常識な方に聞いているだけよっ、あなた誰よっ?」


 私、貴女に名乗る必要ある? むしろ知らない方が貴女の身のためでは?

 やはり逃げよう。私は、小声でセスに言った。


「セス様、私を非常識という方には関わりたくなので、失礼したいのですが……」

「そうしよう」


「誰の許可を得て入室したか聴取しておけ」


 セスが警護官にそう告げて、私を連れてその場から離れようとした。

 その時、青い髪飾りの少女が警護官の間から抜け出し、私の方へ走り寄った。その少女は、私の腕を爪を立てて掴み、叫んだ。


「名乗りなさいよ!」


「ローズに対して何てことを!」


 セスが青い髪飾りの少女から私を引き離した。

 その少女の強い香水の香りが、私の鼻と喉を刺してきた。

 手も痛いけど、鼻の奥と喉が苦しい……咳がでる。


「痛っ、うっ……ごほっ……ごほっ……」

「ヒース、すぐに医師の手配を、急いでくれ。

 警護官は、この女性達を捕らえて陛下の指示を仰げ」


 セスが淡々と指示を出している、はずなのに……怖いこの人。なんて冷たい目だろう。気温まで下がったような、なおさら咳が止まらない。


「「ははっ!」」

「えっ、ローズって? そんな……」

「気安くローズの名を呼ぶなっ!」

「ひぃっ!」

「エティエンヌ公爵への暴行を確認しました、ご同行ください」

「えっ、そんな。違うのぉ……」

「貴女が、ローズ様と友達というから抜けて来たのに……」


 わらわらと5人の少女たちは、警護官に連れられていく。泣き出す子もいる、可愛い子達なのに……頭が弱すぎる。

 この少女たちの周囲の大人は何をしている? 特権階級なら、なぜ侍女や侍従を連れていない? 王家のお茶会に招かれていながら、こんなところに入り込むこと自体が危険な行為だ。


 腕のヒリヒリより、喉の奥が痛痒い。


「ローズ?」

「……香水が、ごほっ……香りが強すぎて……ごほっ……」

「外に出た方が良いのかな?」

「はい、ごほっ……できれば風通し……の良い……ごほっ……」

「ローズ、話さないで」

「ごほっ、ごほっ……」


 私は、咳をしながら頷いた。

 外に出ると気持ちの良い風が吹き始めた。もしかしてセスの魔術なのかしら?


「ローズに怪我をさせてしまってすまない、医師が来るまで少し我慢できる?」

「こほっ……はぁ~……、セス様、大丈夫です医師の必要はありません」

「いや、その手の傷は証拠だ。ローズもう少し痛みに耐えて」

「あっ服? 服は大丈夫ですよね……こほっ……これお気に入りなので」

「服なんていくらでも替えがあるのに、ローズが傷つけられたことが……」


 セスの顔つきが険しい。

 ヒースが、冷たいミント水を持って医師を連れてきた。

 私はヒースが差し出したミント水を飲んだ。水の冷たさに喉が反応して酷くむせた、でもミントの爽やかさで鼻と喉が少し楽になった気がした。

 医師は、私の脈や呼吸を確認し、腕の傷を記録し始めた。


 記録が終わると、ヒースが水魔術とやらで傷を洗い、セスが治癒魔法を施して傷は消えた。

 温室に戻る気になれず私は自室に向かって庭園を歩いていた、仰々しい警護官に囲まれて……。



「フォード卿! エティエンヌ卿!」


 明らかに呼び止められた。

 今度は、何でしょうか? 切実に部屋に戻りたい、一秒でも早く。

 遠くなりかけた意識を戻すと私の視界は、セスの背中だけだった。


「ラロール卿、トラブルがあったので今は―――」

「1分ほどお時間を、挨拶だけでも娘のイレーヌでござ―――」

「ローズ様、私あなたのお友達になってあげます」


 ラロール卿の娘が変な事を言っているようだ。

 セスの背中越しに白色のドレスの裾が見えている。

 白ドレスには、呪いでもあるのだろうか?


 セスの横から顔を出したイレーヌは、治ったばかりの私の腕を掴んで言った。


「ローズ様! 私達、仲良しになれそうですね」


 無邪気な笑顔でそう言った。

 その瞬間、悪寒が走り私の身体が硬直した。


 気持ちが悪い。



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