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 庭のガゼボは木製か石造りの小さいものと考えていたが、なんか違った。


 壁と天井が水でできている。全面ガラス張りの温室の壁に水を流しているのかと思ったが、ガラスは無い。

 壁は滝のように水が上から下に流れている、裏見の滝?

 落ちる水は音もなく消えていく。壁の幅・形・色は自由に変えられる、壁を全てなくすと空に水盤が浮いている。

 水盤天井はゆらゆらしていて明るい。水中から上を見上げている感じというのが一番近いかも、幻想的だ。

 水壁を細工してミラー効果で、外部から視認されにくくすることも出来るらしい、何だかすごい技術だ。魔力の賜物だ!


 セスが実演している横で水ガゼボにお茶のテーブルセッティングがされていた。


「ローズ、座ってください。お茶は何にしますか?」

「アイスティーを」

「お菓子は?」

「お菓子は……やめておきます」


「ローズ、疲れは? 大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」

「足は? 足は痛くないですか?」


 えっ、この距離で足の心配をされても……。


「はい、大丈夫です」

「ローズの足は靴擦れを知らない足だから、昨日も歩いたし……」

「あっ、そうでしたね。大丈夫です」


 靴擦れも風邪も引いたことの無い身体なんだ。獲得免疫が無い状態だ、危険すぎる。風邪は、治癒魔法で治してもらえるのかな?


「昨日は、いきなり街に連れ出して配慮が足りませんでした」

「私の方こそ眠ってしまい申し訳ございません。メゾンの方も驚いたのでは?」

「長く使っている信頼できるメゾンだから大丈夫です、また行きましょう。次は、靴やバッグも探しましょう」

「はい」


 いや、正直なところ物は要らない。でも、街には行きたい。

 昨日のメゾンの隣のお店のウィンドウも魅力的だった。

 穏やかに生きる目標としては、まずはフラッとカフェで一人お茶かな? そして、次の雪を見ること!


「旦那様、陛下がお見えです」

「サロンで迎えよう」

「いえ、それが、こちらに……」


「ラムセス報告を聞きたい。ローズ嬢と王都に来ていたそうだな」

「はい陛下、もうお耳に届きましたか?」

「フォード家にいる異国の姫との謁見申し込みが王城にきている」

「そうでしたか……」


 また、異国の姫。


 この屋敷に異国の姫が滞在している気配はない。

 昨日、セスは私の事を姫呼びしていた、私のことかな?


 それより、このガゼボも2人の思い出の場所だった? 誰か教えてください。


 私はどうすべき、空気になる? 逃げる? 最適なのは……サリに視線を送った。


「お嬢様、お召替えの時間です」


 サリの素晴らしい機転だった。私は、ナイスアシストという声を抑え、静かに頭を下げ、その場を立ち去ろうとした。


「ローズ嬢も、昼食は一緒にとろう」


 えっ、嫌っ! だけど、何て答えよう? 不敬に繋がらないお断りの仕方って?


「ローズ、食事を一緒にするのは気がすすみませんか?」


 そう、そうです、かなり気がすすみません!

 セス、2人きりにしてあげます任せて! これ、なに目線?


「立場的に私は控えさせていただきたいのですが……」

「ローズ嬢にも関係する話があるので同席を」

「いずれにしても、一度失礼いたします」

「ローズ、あとで迎えに行くから」


 なぜ、来るの? 迎えに……。とにかく離れなくては……。


 私は、サリに付き添われ部屋に戻った。



 ※



 ローズはサリに連れられて、ガゼボを後にした。


「ローズ嬢は、私には冷たいな」

「ローズは、人見知りが激しいですから……」


「王都中は大騒ぎだ。あの冷徹魔術師フォード公爵が笑顔で異国の姫をエスコートしている。その二人の姿は筆舌に尽くしがたい美しさで、王都の時間を止めた。と王城にまで噂が届いた。その話は、後で聞くとしてーー」


 ローズの受け答えはシッカリしている、陛下に媚びることも怯えることもない、しかし陛下との食事に戸惑いをみせた。

 陛下への遠回しの拒絶なのだろうか、陛下がいると私からも遠ざかろうとしているのは気のせいだろうか?


 前回の事が、尾を引いているのか……?


 今朝、ローズは笑ってくれた。あの瞬間、私は多幸感に包まれた。

 あれが初めてのローズの心からの笑顔なのだろう。あの特別な笑顔をいつも浮かべて欲しい。だが、誰にも見せたくない。


 昨日の街歩きでは、人の視線からローズを少しでも守るためにローズのフードを何度も目深にかぶせ直した、そのたびローズはフードのファー越しに黒い瞳で私を見上げた。視線が交わる度に私の心はどうにかなりそうだった。

 途中からは、ローズの瞳見たさに何度もフードをかぶせ直した。


 昼食では、レストラン従業員からローズが見えないように死角を探した。ローズの声も聴かせたくなかった、ローズの名前も知られたくはなかった。


 ローズが、今日の昼食を共にしてくれなかったら、初めて食事を拒絶されることになる。

 急に不安が襲ってくる。


「ラムセスどうした? ラムセス報告を」

「は、はい、陛下?」

「ラムセス、報告を。ローズ嬢に昨日の早朝から今朝にかけて何があった?

 昨日の朝、刀剣が発光しはじめ、その状態が続いていた。今朝、さらに強く発光し刀剣の形は変化し、発光も止まった」

「昨日の早朝、ローズはーー」


 私は、昨日からの出来事を報告し、ローズの変化と刀剣の変化の摺り合わせを陛下と行った。


 針を刺した感覚は、陛下も共有していた。

 昨夜の熱に関しては、陛下も私も何ともなかった。


 スイートエッグトーストを食べて泣いた頃に刀剣は発光を始め、今朝ローズが笑った頃に強く発光し形を変えたようだ。


 陛下と私は、ローズの心境と刀剣が共鳴していると推測した。


 形を変えた刀剣は以前よりも短くなった。しかし刃の鋭さが増し、刀剣としての存在感を強め、今では誰も触れることができないという……。

 陛下は、召喚時に顕現した特徴のない刀剣に、今朝「魂が宿った」と評した。

 ここにきて、刀剣の何がローズの命を示すのか分からなくなった。だが、明らかに刀剣の状態は良くなっていると思われる。


「ローズ嬢に刀剣に触れて欲しく登城を告げにきたのだが、あの黒目黒髪の姫は近寄りがたい雰囲気を醸し出している。今日も無理そうだな」

「ローズが刀剣に馴染めば、ローズの未来は確実になるなら……」

「確約は出来ないが、今は可能性を試すしかない。誰も刀剣に触れられないため、ここに持ってくるのは無理だった。

 ラムセス、ローズ嬢に登城の説得はできるか?」


「その前にローズに今わかっていることを話した方が良いのでは?」

「ローズ嬢が悪意を持ったら……」

「陛下、ローズはこちらの世界に干渉しないようにしています」

「その理由はなんだ?」

「わかりませんが、自暴自棄ということもありませんが、何と言いますか将来を考えていないというか、未来を信じていないような……」


 ローズは、何においても核心に触れないし触れさせない。


「ローズから、召喚に至った経緯や、なぜ自分だったのかといった予想される質問はありません。毒を求めた際に、できないと説明してからは、何も求めません。

 昨日の王都でも服も宝石も欲しがりませんでした、楽しそうに見てはいるのですが……。

 召喚翌日に、ローズは『今までの名前を封印してローズとして生きてみようと思います』と言っていましたが、何かに耐えているというか、何かを静かに待っているという感じです。

 近くにいても、心許なく消えてしまいそうな不安を感じます」


「ローズ嬢を召喚して10日ほどかぁ、もう少し様子を見よう」

「はい、陛下」


「ラムセス、ローズ嬢の身分と後見について何か意見はあるか?」

「私の側から片時もローズを離さない事を条件に、陛下に従います」

「それでは学園に通わせることは難しいな……」

「ローズが通うことを強く希望したら、私は学園の臨時講師になります」

「ははっ臨時講師か、ラムセスにとってローズ嬢は心から大切な存在なのだな」

「はい、大切に守りたい存在です」


 陛下は、ローズに貴族として身分を与え王家かフォード家の後見を考えている。

 私も、同意見だ。


 ローズは何を望むのだろうか……。



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