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 ローズを思う陛下の姿を見ると複雑な心境になる。

 今はローズの回復を優先しなければ。


「陛下。当家専属のダグラス医師に無理をさせ過ぎまして、王宮医の派遣をお願いできますか?」

「もちろんだ。もう一度、ランカスター卿を呼ぶか?」


 王命により、ランカスター卿は一月中旬に辺境へ戻った。

 刀剣様とランカスター卿の約束を気にしたローズが「エリカ様を一人にするべきではない」と強く主張したためだ。


「いえ、それはそれでローズが……」

「そうだな。ラムセスを中心にダグラス医師と王宮医で治療しよう。

 ラムセス、ココは難病を発症したかもしれない」


「私もそう思います」

「いずれにしても今は、ココの熱を下げることが大事だ。

 ラムセス、私もヒースもいる、一人で抱え込むな!」

「はい、全力を尽くします」


「あと、東の帝国の件だが、もう大丈夫だ」

「にわかには信じがたいというか……」

「ああ、東の帝国の諜報活動の隠れ蓑だった飲茶カフェは全店撤退した。ココは自らでその危機を回避したことになる」


 ホテル・フォンテーヌ商業棟に出店予定の飲茶カフェの責任者に対しローズは違和感を持った。そのことを受け、陛下は営業許可を取り消し、再調査を命じた。

 ローズのいう翡翠飾りの人は王都の空に展開した私の魔法陣を見て「機を逸した、再調査さえ無ければ……」と言葉を残し急遽この国を出た。フォンテーヌの飲茶カフェは開店することなく契約解除となり、それを皮切りに国内の飲茶カフェの閉店・撤退が始まった。


 翡翠飾りの人が滞在した部屋には、不自然なほどの大量の焼却紙片があり陛下は速やかに復元魔法を用いた。その結果、戦慄を覚えるほどの東の帝国の陰謀が明らかになった。


 ローズを最初に王都に連れ出した日……フォンテ国に潜入していた東の帝国の皇子は、ローズを街で見初めた。そこから東の帝国は携えていたフォンテ国侵攻作戦にローズの連れ去りを追加していた。

 現在、陛下は復元した資料を基にフォンテ国の脆弱な部分を再検証し、改善に取りかかっている。

 ローズを見初めた皇子と翡翠飾りの人が同一かどうかは不明のままだ。


「ココは飲茶を好んでいたのか?」

「ローズは『懐かしい』と言っていました」

「そうか……東の帝国出身の料理人を探そう」


「ラムセス、少し横になれ」

「陛下、突然、なにを……」

「ココのためにもラムセスはもう少し自身の体をいとえ、そしてココを頼む。

 ココの願いだ、弱い睡眠術をかける、そこのソファーに横になれ」

「陛下、流石に今の私に陛下の睡眠術は……」


 陛下は、私の制止も聞かずに私に睡眠術を放った。

 不覚にも私は、その場で眠りに落ちた。



「ココ、もう目覚めたのか?」

「はい、少し目を閉じたら楽になりました」


「あれは! セス様では?」

「ああ、数分前に睡眠術をかけた、上手くいったぞ」

「やはり、刀剣君は国王陛下に何らかの力を……」

「ああ、ココの願いと対ラムセスという条件が揃うと、その時だけリミッターが外れる」

「リミッター?」

「国王に即位する際、ラナの力に制限がかけられてしまう、それがリミッターだ」


 陛下とローズが楽しそうに話している。


「刀剣君は、国王陛下とセス様とヒースの力を高く評価していました。今回の就任でセス様が強すぎる力を持って困らないように、国王陛下に条件付きで魔力をどうこうと……国王陛下は信頼され、守られていますね」

「ココは、刀剣様と色々な話をしたのか?」

「はい。三書の話とかも、時見の書は国王陛下を、就任の書はセス様を、召喚の書が私を守ると聞きました」


 なんだと! ローズを守る召喚の書を私は消滅させてしまったというのか。

 どうやって、取り返せば良いのだろう……。


「刀剣君はお菓子好きで、よくお茶をしました。私の部屋に遊びに来ることもありました。ただ、セス様とヒースがすぐに気づくから大変で、ハラハラでした」

「ココ、横にならなくて大丈夫か?」

「はい。セス様が、眠っている姿なんてなかなか見られないですし」


「ココ、幸せか?」

「はい!」

「そうか、何よりだ……」


 ローズは迷わず、明るい声で「はい」と言った。

 今すぐ飛び起きて、君を抱きしめたい。

 なんて強い睡眠術だ。


「ココ、そろそろ失礼するよ、あと10分程度でラムセスは目覚める」

「はい、いつも変なお願いばかりで……ありがとうございます」


 陛下が退出する気配が聞こえた。

 ローズがオルゴールで遊んでいる。


 私は10分ほど静かに眠り、寝起きに笑顔のローズの声を聴けるという幸せを堪能した。




 その日の夕方、連日に漏れずローズの熱は上がった。

 今日は少し様子が違う、ローズの意識がどこかに連れ去られそうになっている。


「ローズ、ローズ!!」


 私はローズの手を握り、必死にローズの意識を捜索した。

 白い霧の中に入った。


 これは、いつかの白い霧だ……ローズの気配がする。

 やがて、白い霧は消え、美しい砂浜に出た。


 ローズが、麗しい青年に手を引かれ歩いている。

 私は、必死でローズの名を呼ぶが、ローズには届かない。

 青年が振り返り私に気づいたが、何もなかったようにローズと話しはじめた。


 知らない青年とローズの会話が、私の耳に伝わる。



 ※



『久しぶりだね、ローズ』

「ハク!!」


「あ~、ハクに会えた。ここは、夢かな?」

『ここは、召喚の間でもあり君の無意識領域でもある』

「やだなぁ~、ハク、ちゃんと私に憑依してくれたのね」

『少し違う』


 えっ、召喚魔導書の消滅は失敗だったの? 「終わりにしたい」と言ったハクの思いは叶わなかったの?


『それも違う、召喚魔導書は消滅した』


 ということは、「召喚魔導書は消滅したけど、ハクは消えなかった」ということ……私の願いが叶ったのかな?


 またハクの笑顔をみられた。良かった〜。


『ローズ、こっちだよ』


 ハクが私の手を引く。


「でも、セス様が……」

『大丈夫だよ』


 私はハクに手を引かれ、綺麗な白浜を歩いている。

 夜なのに、明るくて、美しく、視界が滲む。

 こちらの世界に来てから私はすぐに泣くようになってしまった。


『ローズ、泣かないで、歩くのが辛い?』


 ずっとハクに会いたかった……何度も呼んだ。


『そうだね、君が僕を呼び続けるから、ぼくの存在は消えなかった』

「どうしてそれをすぐに知らせてくれないの?」

『僕は自分の今の状態が理解できていない。

 僕は時に神と呼ばれ、自分がなんでも知っていると思っていた。

 だが、今、どうして自分が存在するかを解明できないままだから……』


「それでも良かったのに!」

『今までと違い、君の意識がここに来ているだけだ。この状態をいつまで維持できるかも不明なままだから……』

「ハクはハクよ、それに消えちゃうかもしれないなら余計に……」

『それに、ローズが僕に対して怒りを持ったから』


 えっ、怒り?


『少し前“ハ、ハクぅ〜!! どうして……”って、凄く怒っていた』


 あっ、うん、そんなこともありました……。


「ハク、会いに来てくれてありがとう」

『ローズ、体調は?』

「どうかな? 自分でもわからないの、この症状……」

『ローズ、その不安をどうして、最強のラナに言わないの?』


 えっ、言っても治らないし、心配させたくないし……。


『どうして、フォンテの王には言えるの?』


 そうだ……どうしてだろう? 


『そろそろ、最強のラナと挨拶しようかな?』


 そう言うとハクは、振り向いた。

 えっ、なに? と私も振り向いた。

 そこには、厳しい顔つきのセスがいた。


「セス様、どうやってここに……。あっ、ハクと面識は無かったですよね」

「ローズ、いいからこちらに来て、僕の手を取って」

「はい」


 なんだか、セスは絶賛不機嫌中のようだ。

 私はセスに手を伸ばそうとした。

 その時、ハクが私とセスの間に進み出た。


『やぁ、初めましてかな?』

「刀剣様でございますね」

『そうとも呼ばれる、君も僕を見て驚かないね』

「このたび、筆頭魔術師に就任いたしました、ラムセス・ラナ・フォードでございます」


 麗しい刀剣青年ハクに、美しいセスが礼をとった。美しい絵だ!


「ローズをお返しいただきたい」

『君がいつまでも逡巡を繰り返し、無駄な後悔をするから、遊びに来た』


 おかしい……美しい浜辺なのに、バチバチと火花が散っている?


「お怒りや、叱責でしたら私が承ります。ローズをお返しください」

『君は、ローズを幸せにできるの?』


 うん? ハクも薄っすらと怒っている!

 セスからギリギリと音が聞こえそう。


「ハク……どうしたの? 幸せは人から与えられるものではなく……」

『ローズ、黙って!』


 はい! 貝の気持ちになってみます。ハク、怖いよぉ。



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