第84話 ジェラルの健闘
ジェラルの戦闘は、アタシの戦闘終了から更に5分も続いた。
結局、カイトさんと合流してからアランくんはこちらを一度も見る事はなかった。
どことなくむすっとした感があるが……まぁ昨日からそう態度に変化はないようだ。
カイトさんとアランとで並んでジェラルの戦闘を見学していた。離れた位置に見えるジェラルは必死になってジェリーフェイカーに向かっていっている。
ジェリーフェイカーの触手攻撃は手に持った小柄な盾でうまく裁いてはいたが、それでも何度かは――力が抜けたように――斜めになった盾の上を滑っていった触手がぶつかるなど、厳しい戦いだった。
問題は攻撃力――――ようは筋力だった。
あるいは武器の問題でもある。
相手であるジェリーフェイカーへ接近したものの、コアへとうまく剣が届かなかったらしい。
アタシは特に気にならなかったけれど、見ている中で何度も切りつけては浅く留まり、深く差し込もうとしても手元まで戻された触手を気にして踏み込みできない感じだった。
ジェラルは長袖だったが、振り回された触手によってズタズタになっていた。触手の先端にある小さなトゲトゲの威力である。
クリティカルは無かったけれど、打撃も何度か体に貰っている。
安物であるとはいえ、それでもそう千切れそうな物では無いのだけれど。
最後は剣を差し込んだ後、いったん剣をそのままにして離れて触手を回避、その後に勢いを付けてタックルするように剣にぶつかるという荒技で、タックルを二回繰り返して倒していた。
終わった後には呆然としたジェラルがいた。
汗だくで、露出している箇所のある腕は血やうまく受け止められなかった触手がぶつかったと思われる青あざも見える。
息は完全に上がっている。……すぐに落ち着きそうに見えないな。
気がついたように剣を抜いたジェラルにアギトさんやアタシ達が近づく。
「お疲れさん。よくやった!」
「ありが……とう、ございます……!」
「おっと!」
息を整えようとしてフラつくのをアギトさんが支えた。
戦いの興奮が抜けたのか、動く度に顔が痛そうに歪んだ。
「もうコイツは死んでるから、ゆっくりと息を整えてな」
「はい……すみません……」
ジェラルをその場に座らせると、アギトさんはこちらを見た。
「カイト!」
「はい」
呼ばれる寸前から早足で向かっていたカイトさんがジェラルの元へ着くと、膝立ちで向かい合う。
アタシとアランくんも追いつく。
「派手にやられたな」
「大変だったよ、僕には……」
「ジェラルくん、喋っていても良いですが、あまり動かないように」
カイトさんがそう言って目を閉じ、詠唱を始めると、十秒ほどで水が渦巻くように現れる。それは蛇のようにジェラルの腕へと巻き付いた。
それを見て違和感を覚え、思い出すのは保険医の魔法。
確か、入学式に神楽の腕の傷を治した時は、こうも水っぽい感じはなかった気がする。
見ている前で皮膚に張り付くと、振れた部分の傷や青あざがゆっくりとであるが消えていく。
1分もしないうちに、切り傷の方は無くなった。青あざは小さくなったような気がする。
絡みついた水は肘からぽつりぽつりと垂れて行き、そして地面へと落ちていった。
腕も少し濡れている……覆った水の量からすると、不自然な程濡れている範囲が狭い。
「ここまで直れば痛みは無いはずです。どうでしょう」
魔法を止めたカイトさんが尋ねれば、ジェラルが腕を二三度動かす。
「はい、問題無いと思います」
「それは、良かった」
「ジェラル、よく倒したな」
「さっきも言ったけど、僕には本当に大変だった……」
「それでも、お前は一人で倒した。俺と並んだな。俺も同じくらいに怪我をしたんだぜ――――」
保険医と何かが違うのだろうか。アランとジェラルが友情を深めるような話を始めたのを横目に、じっとカイトさんを見やる。
同じ回復の魔法だと思うのけれど、何が違うのか。
そんな様子が気になったのだろう。
カイトさんが不思議そうな顔をして話し掛けてきた。
「じっと見ていて、何か気になりましたか?」
「……あの、私が知っている回復方法とちょっと違っていたので」
「ほう。それはどのように違いましたか?」
「私が見た魔法は水っぽさは無かったのですが……青い光だけで……」
「前に見たのは、学園にいる先生が行ったものですか?」
「保険医の人でした」
そう告げれば何か納得された。
そして、今の状態でもしっかりと警戒しているらしい。
何となく周囲を見ているような気配がカイトさんから伝わってくる。
ジェラルとアランは完全に気が抜けているが。
「なるほど。……学園の人は腕が良いのですね」
「そうなのですか?」
「えぇ。……魔法を使う事は出来ますか?」
「えっと、出来ないですね……」
「ふむ。魔法は一般的に属性毎の色が滲み出ることはご存じですか?」
「そこは知っています。授業でも見たことがあります」
特に意識的に制御しなければ、属性毎の色が魔法には滲み出る。
この世界では魔法は火、水、雷と風の4つがベースとなり属性魔法と呼ばれている。
そして、属性魔法によって、水なら攻撃以外に回復系も出来るし、雷なら――よく考えるとかなり恐ろしいが――身体能力の向上も出来るらしい。あくまで属性に合わせた補助っぽい魔法という扱いだ。
雷は下手したら感電死しそうで怖い。
無論、この手の補助的な魔法は難しく、シンプルな攻撃で使う魔法よりかは難易度が上がるとは聞く。
少なくとも一年目の授業では組み込まれてなかったと思う。
そしてこの属性魔法は、火がベースなら赤くなり、雷がベースなら黄色くなり……といった感じで色が付く。
少なくとも授業ではそう習っているし、実際に行使されている魔法はそうなっている。
……でも、よくよく思い返せば、補助的な魔法を見たことはほとんど無い。
「魔感知力というのが影響するのですが」
そう前置きを置く。
端的に言うと、魔法をどれくらい認識することが出来るかという物だったはずだ。道具を使えば、自分がどれくらいなのかはある程度わかる。
数値が高ければ、周囲に漂う魔法の検出から、魔法の発動や操作に至るまで、魔法を扱う全般に関して有効に働く。ただ、高いと魔力を使いきった時のデメリットも高い。ベテランになると意図的に能力を抑制する事も可能で、作中ではゼン様が魔力を使いきった際に下げていた描写がある。
「水魔法で回復を行おうとした際、身体を癒やす為に、魔力全てが回復に作用する物に常に変えられるわけではありません。変えられない部分は余計な部分です。制御出来ない箇所となります。この場合、魔法として属性となった物が――――今回の場合は水のようになって現れます。魔力のロスですね。うまく制御出来ていれば、本来は貴女が見たように、ただの青い光としか見えないでしょう」
「そうなんですね……」
学園内の保険医はやはり優秀だったんだ。
というか、ゲーム中でもそんな説明は無かったと思うし、描写も無かった。
やはり、光栄宮学園に居る魔法に携わる大人達はベテランばかりという事か。お金が掛かる場所だけあって優秀な人達が多いと。
「ありがとうございます、勉強になりました」
「いえいえ。魔法の授業があるのですよね。いずれ、知る事となったと思いますよ」
「お前、学園で金払って授業してんのにそんな事も知らねぇのかよ」
話し終わったあたしに、へ、っと笑うように言ったアランくんが絡んでくるのは何でだ。
ジェラルが止めなよと小さく呟いている。
「全てを最初から知っている人はいませんから。私はまだまだ知らない事ばかりなので、これから多くを学んでゆきます。アランやジェラルからも、私が知らない事を色々と教えて頂きたいです」
主人公のイベントを見るためだけに国から逃げ出して学園に飛び込んだとは言わない。お口にチャックである。
「……ッチ、気にくわねぇ奴だ」
こちらが挑発に乗ってこないのを見ると、眉間に皺を寄せたまま、アギトさんの方へと歩いて行ってしまった。
ジェラルも立ち上がりってこちらを心配そうに一瞥した後、それに着いていく。
戦闘前にジェリーフェイカーごっごのように顔を青くしてたのが懐かしい。
それはそれとして。
「私、何かしたんでしょうか」
「まぁ……男としてのプライドを刺激されたのでしょう」
「……はい?」
やれやれ、とカイトさんが苦笑しながら歩き出したが、私にはさっぱり理解出来なかった。
次の更新は引き続き土曜です。
アランくんはジェリーフェイカーに打撲や切り傷を負うぐらい苦戦をしましたが、主人公は変な戦い方でも無傷だったと。




