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第71話 寮とお風呂

 寮へと辿り着き、寮内で学生とすれ違うたびに二度見されつつ、部屋へと進む。

 そりゃ全身探索してます装備の人が歩いてたら見るわ。

 汚れてるし、マントで止めているけれどチラ見する服には返り血付いてるし。

 アタシだって関係無い人間だったら見る。完全な不審者だし。一応目があったら慌てて頭を下げて挨拶されたので、恐らくすれ違った人達はアタシの事を知っていたのだろう。

 その中にクラスメイトがいなかったのは幸か不幸か。

 階段を上り、廊下を歩いて見慣れた扉。

 

「ただいまー……って、あれ? 神楽ー?」


 ガチャリと開いて声を出すものの、誰の応答も無い。

 部屋の中はもぬけの空だった。

 一瞬、お手洗いに行ったのだろうかと思いつつきょろきょろと見回した後、朝の光景を思い出した。


「そういえば……朝にゼン様のところの紋章が付いた馬車とすれ違ったから……ゼン様のところに行ってるのかな」


 今頃、神楽はゼン様のおうちに居るのかもしれないと考えると、アタシも見に行きたかった! と眉をゆがめるほど思う。

 作中での説明では巨大な豪邸を持っていると書かれていたし、何名もの家臣や魔道具や魔獣の研究者もいるという話だ。どんな風に過ごしているのか見てみたい。作中ではゼン様にスポットがあたる以上、周辺の情報は薄味なのだ。

 家がでかい設定を持つのは嫌なキャラであるガスト・レナードもそうだ。それに対して、同じくメインの攻略キャラである塔仁義ゴウ先輩とフィオレンティーノ・ジャイルズはそうではない。普通の一軒家に暮らしている描写がある。フィオの方は妹に加えて家には家政婦が居たはずなので更に狭そうだ。


「神楽が居なくてちょっと良かったかな……。臭ったらやだし。それはそれとしてゼン様のおうちとか気になるなーいいなー」


 神楽がいないのならぶつぶつと喋っても問題が無い。

 鞄や剣一式をするすると降ろし、換えの服を手に入れる。

 室内は驚くほど静かだ。一応、まだ時は午後になったばかりで、寝間着に着替えるほどの時間じゃないと思って寝間着はやめる。


「大浴場、もしかしたら貸し切りかな? というか、今は清掃の時間じゃないよね」

 

 ひとまず数少ない私服とタオルセットを小さな籠で持つと寮の大浴場へと向かう。

 それと同時にお腹の空き具合からお昼ご飯にも思いを寄せる。

 みんなは今頃寮内の食堂で食べているんだろうか、と思ったが、基本的にお昼は無いんだった。

 ということは、帰宅した際にすれ違った人達はこれから食べに行く人だったのだろう。

 この学園周辺は魔森林が近い以上、魔獣との接敵が無いわけでは無いので危険な地域ではあるが、学園前のお店然り、何件かはある。

 商魂逞しいものだ。学園の生徒は基本的に金払いがいいので少し高いのが気になるが。

 学園の食堂やカフェテリアは休みの期間中でも空いているのだろうか。

 神楽が居ないのなら、図書室に入れないか見に行くのも良いだろう。

 今日またこの後、時間を潰すために街へと向かうのは面倒極まりない。


 今度は誰ともすれ違う事無く大浴場へと到達し、清掃の時間帯で無い事を確認して観葉植物で飾られた入り口から入る。

 広い脱衣所を見渡す。何時もは列が出来ている洗面台には誰もいない。そして中には人が誰も見当たらない。

 

「やった貸し切り――――というわけにもいかないか」

 

 荷物置き場の籠に、一つだけ荷物が入っている。

 時折置きっぱなしのものもあるけれど、これは今誰かが入っているものだろう。

 服の様子からしてそんな感じがする。


「そううまくは行かないか……」


 ということは、アタシが入るまでは先着の子が貸し切り状態だったのか。それは羨ましい。

 とりあえず彼女の置物とは間を置いて籠を確保したのち、するすると服を脱いでいく。

 脱いだ服は一日で服を綺麗にしてくれるかなり高性能な洗濯機に後ほどぶち込む。

 学生の間では、この洗濯機は学園の研究所で作られたワンオフ機だともっぱらの噂だ。

 お金持ちの子が多いこの学園でそう言われるのだから高い確率で研究成果の一部なんだろう。

 タオルを体に巻き付けた後、中へと向かう。

 扉を開けると同時に熱気の籠もった湯気が流れ出てくる。

 所々に金のシャチホコみたいな(多分魔獣なのかもしれない)意匠のある空間を歩いて洗い場を定める。

 よく自前のシャンプーとかを持ち歩いている学生が目に入るけれど、アタシはそんなものなど無いし、神楽も使うタイプではないので備え付けの物を使わせて貰う。

 街で公衆浴場に入った時にあったのは簡易的な石けんだったのだから、備え付けの物で十分だ。

 というか、明らかに安物じゃないので十分以上でさえある。そもそも光栄宮学園に来るまで使ってなかったのだからあるだけで上等だ。

 

 シャワーを捻れば一度も水が出ること無くお湯が出て、思わず「はぅ」と呟いて力が抜けていく。

 今のアタシは若い体だから、記憶にある肌よりも水の弾き方が全然違うというか、前世の年齢になっても肌の艶とかきっと絶対に違う。こっちの肉体スペックは力以外も前世とは違うのだ。

 水も弾くぷるぷるお肌を維持するべく今のうちに化粧品をやらねば、と思うものの、以前、クラリッサや長月達と出掛けたお店で見かけたものは非常に高かった。少なくとも一般人が日常使い出来るものじゃない。

 ああいうのを気軽に手に取って買おうか悩んでいるクラリッサ達とは財布のレベルが違うのである。


 体も髪の毛も、時間を掛けて改めてしっかりと洗い、街の大浴場から今までの間についてしまった臭いが消えていないのではと執拗に洗い流す頃には、お風呂に入らなくてもいいんじゃないかなと思ったが湯船には絶対に浸かりたい。

 

 ところで、体を洗っている最中に誰かが入ってくる、あるいは出てくる気配は無かったということは、まだ先客がいるという事だ。

 案外、アタシよりちょっとだけ先に入っただけなのかもしれないな、と考えながら、足を湯船へと向けるのだった。

 

次の更新は次の土曜日ですー。

ようやく寮に戻ってきた。

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