第44話 見ていた人
街の自警団に引き渡されていく窃盗犯を見てほっと息を付く。
先ほどまで、周囲に居た人達から凄いじゃないかとの声を貰って少々恥ずかしかったものの、誰にも怪我らしい怪我無くて良かった。
フォークを借りた老夫妻、それにレストランの店長には申し訳無いと謝った。ナイフを受け止めたフォークは大きく歪んでおり、もはや使い物にならなかったのだ。暴漢を取り押さえてくれたのだから気に病む必要は無いと言っていただけのは良かった。
鞄を盗まれた被害者の女性も来ていた。
「あの、本当にありがとうございます!」
「いえ、取り返せて本当に良かったです」
こちらもこちらで何度も感謝の言葉を頂いて、ひたすら照れながら対応したものだった。
それと、アタシとしては特に危険は無かったという感じなのだけれど、どうやら学友はそうでも無いらしく、さっきから何度も心配の言葉を頂戴してしまっていた。
「オリヴィアさんに怪我が無くて、本当に良かったです……飛び出していった時、本当にハラハラしたんですよ?」
「メリっちの強さは知ってるけどさ、それでも無手だとね。でも咄嗟に動けなくてゴメンね」
「いえ、出ない方が安全でしたので、気持ちだけ貰いますわ」
ぴたりと左右に居るクラリッサと長月が、アタシを見て心配そうな声を上げる。
が、長月の無手には異議を唱えたいところ。
「無手ではなくて、フォークを持ってました」
その言葉に二人が顔を見合わせ、更に後ろに居るマリアンネへと視線がいく。
「ないない! オリヴィア、アレで無手ではない、じゃ無いでしょ!」
「無手では無いのに……」
マリアンネが渋い表情で手を左右に振り、それに合わせて両隣のクラリッサ達もうんうんと頷かれては、こちらとしてはもうどうしようも無い。
最後にアタシが加えた言葉も尻切れトンボのように消えていく。
ややしょんぼりするとそれを見たクラリッサが笑いながら告げる。
「じゃあ、問題もありましたけど、無事終わりましたし、買い物を再開しましょう――「ちょっといいか?」――はい?」
大人の男の声。
四人で振り向くと、そこには見知らぬ男性が一人居た。歳は……30歳は超えていそうだ。
ソフトモヒカンのような灰色のように白い髪をしていて、こういう感じの男性キャラに見覚えは無い。イケメンとは決して言えず、ガタイの良い人だなぁと思う程度の顔だった。
が、姿を見るとちょっと普通ではない。
平均的な身長、身は引き締まっていて、むき出しの腕は飾りではない筋肉が見える。
身に纏っているのは普段市民が来ているような、ファンタジーチックな市民衣装ではなく、より実践的な防具類を着込んでいる。
防具は一部を簡略化して省いているが、胴や胸に皮のような素材で作られた物を身に纏っている。
それらはほつれや切り傷が幾つかあり、実戦の中でも急所を確実に守り抜ける強度を持つ事を想像させる。
武器を携帯している――――背中に見える細長い棒は、布に覆われているが、長さからして槍かもしれない。荒事をこなした経験のある身のこなしをしているが、人の良さそうな雰囲気もあり、穏やかな雰囲気からして問題のあるような人物には見えなかった。
と思った直後だった。
「あ、琥珀さんじゃん。こんちー」
声を上げたのは、以外にも長月だった。
そして、相手も長月を知っているようだった。
目を丸くして手を上げて挨拶を交わす。
「お? 長月のお嬢ちゃんじゃないか」
「うん。そだよー。何々? どったの?」
「いやな? なんか騒ぎが聞こえて駆けつけようと思ったらな…………」
親しげに挨拶を交わす長月と見知らぬ男性。
ということは、やはり危険な人では無いのだろう。
長月以外の三人で顔を見合わせる。
「長月の知り合いでしたか……他に、誰か知っている人は?」
「私は特には……」
「私も。長月の彼氏だったり?」
「それは、流石に無いんじゃ無いかな……」
マリアンネの言葉にクラリッサが力なく返答する。
まぁ彼氏は無いでしょうに。年齢差がちょっと激しすぎる。
とりあえず、アタシ以外の二人に共通した知り合いでは無いようだ。
そこで、長月が振り返った。
「この人は、琥珀アギトさんだよ。開拓者をやってて、慣れない頃はお世話になってたりもしたよ」
開拓者。
魔森林を率先して開拓していく人達。ならば、その背中の武器も対魔獣用の装備という事だろう。
「琥珀アギトだ。主に魔獣を狩る方のクエストをやっててな。長月の嬢ちゃんとはかれこれ数年の付き合いになる」
「魔獣討伐の熟練者なんだよー」
気さくな笑みで浮かべる琥珀に、アタシ達も名乗りを返した。
最後にアタシが名乗ると同時、琥珀がこちらを見て告げる。
「手練れの、オリヴィアの嬢ちゃんに聞きたい。魔獣討伐に興味はないか?」
それは、思ってもいなかったクエストのお誘いだった。
「クエスト……ですか」
「そうなるな。ここヨルム王国でもっとも重要な魔獣討伐のクエスト。嬢ちゃんなら、十分以上に活躍出来る。何分、人手は幾らあっても足りないぐらいだ。優秀な奴なら一人でも増えて欲しいんでな、技量差があるとは言え、フォーク一本で暴漢を押さえ込むなんてのは聞いたことが無い!」
先ほどの騒動は見られていたようだった。
「魔獣討伐が危険なのは間違いないが……元々、そういうのは理解していそうだな?」
「先ほど見ていたとは思いますが、見ての通り危険な荒事には慣れています。しかし、そうですか……」
「魔獣には興味が無いか?」
「いいえ」
アタシとしては願っても無い話だ。
認定が必要という話を長月から貰っては居たが、省ける物なら省いておいて損は無いだろう。
……しかしまぁ、魔森林の攻略が国を挙げて行う以上、老若男女関係無く、実力があればお誘いが来る辺りに乙女ゲーにあるまじき修羅の国である。普通、学生に声を掛けるか? と思わなくも無い。こういう所は未だに慣れない感覚がある。
「今すぐというわけにはいきませんが、前から興味はありましたので、是非」
「お、ソイツはいいね! じゃ、次の機会があったら是非とも仲介場に来てくれよな。俺の方から仲介人には話を通しておくし、簡単な討伐系クエストをなんか見繕っておくよう伝えておく。多分常駐系の奴があんだろ。あと、一応聞いておくが……光栄宮学園の生徒だな?」
「そうです」
「そだよー。同じクラスだねー」
それなら結構、と頷く琥珀。
「それなら手続きは殆ど学園側に依頼出来るな、よしよっし。じゃあまた会う時はよろしくな!」
「その時は、是非」
「おう!」
去って行く琥珀の背を見ながら、光栄宮学園というだけで身分の保障が出来るというのは本当にありがたいと思う。そして未だ大雑把な管理世界万歳だった。
唐突に現れてはぱっと消えていった人の背中を見ていると、気を取り直すようなクラリッサの声が聞こえた。
「じゃあ、今度こそ本当に買い物に行きましょ?」
「そうね」
「うん!」
「行こう!」
誰からも異論は無かった。
次は次の土曜日です! いつも通りですね!
今回は超難産でした……(遠い目
ぱぱっと、良い感じに展開を切り替えられるようになりたいものです。
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