第45話 強くなりたい理由
視点変わって原作ゲーム主人公、神楽ルカです。
side - 神楽ルカ
「ッァ! はぁ、はぁ……」
何度も膝をついた。
数ヶ月前の私は、ここまで自分が戦う事に関して精力的に取り組むことになるとは欠片も思ってもいなかったと思う。
苦しいし、慣れない事をしていると自分でも感じている。それでも立ち上がって行けたのは、決闘相手の月影さんから突きつけられた否定しなければいけない言葉があったこと。そして、朧気ながらも辿り着きたいところがあったからかもしれない。
「神楽、もう休んだ方が良い」
「流石にオーバーワークだよ、ルカちゃん」
ゼンさんとフィオさんが心配そうな声を上げているのはわかるけれど、力をつけないといけない。だから、立ち上がらないと――――!
「いえ、でも……っ! と!」
「これ以上の無理はしないでくれ」
倒れかけたところ、一瞬のうちに走り込んできたゼンさんに片手で抱きすくめられる。
「今日はこれで終わりにするんだ、神楽」
「……はい」
強い言い方では無い。こちらを気遣った声色を聞いてしまえば、これ以上どうすることも出来ない。
ふっと、張り詰めていた緊張の糸がほつれた……と、そう思った途端に、力が抜けてしまう。
「あ、あのすみません、力が……」
「抜けてしまったか。では、こうしようか」
「きゃっ」
ぐっと体が横向きになる感覚。そうして、直ぐに横抱きにされたことに気がついた。
ゼンさんの顔が、何時もよりぐっと近い……!
どうしてかは知らない、けれど何時も優しく声を変えてくれるゼンさんは、どうして私の訓練に付き添ってくれるのだろうと思うぐらいに顔が整っていて、普段から見ていて耐性が出来ていても、不意に近づかれると困ってしまう。
目のやりどころに困るように動かすと、呆れたようにこちらを見ていたフィオさんと視線とぶつかる。すると、本当に呆れているのか、深々とため息を吐いた。
「あのさー。香月院さー。ルカが弱ってるのにつけ込んで色々触ってない? 流石に僕もどうかと思うよ? 今すぐ学園全体に噂をばらまいていい?」
そんなフィオさんの言葉に対して、
「フン……。馬鹿か、お前は。そんな事より神楽が優先だ」
さらっと流した。
「ッハ、嘲笑のし甲斐が無いね、お前は。……あ、ルカちゃん。代わりに道具は片付けておいてあげるよ。もう動けそうにないでしょ?」
「え、あ……! 休んだ後で私が回収するので大丈夫です……!」
「いいっていいって。今日ずっと頑張ってたしね。僕も練習中になってないとか色々と言ったけどさ、ソイツが言ったとおり、無理はしすぎたら意味が無いよ」
「はい……ありがとうございます。では、すみませんがお願いします」
「はい。任された」
フィオさんとの会話が終わるとすぐにゼンさまは動き出した。
私を抱っこしていても全く問題無くくるりと向きを変えると、そのままスタスタと出口まで歩き出してしまう。
周囲の学生達から注目が浴びている事がわかる。
「あ、あああの! 別に横抱きにして頂かなくてもすぐに動けるようになるので……! 床に置いて頂ければ……!」
「疲れているんだろう? 床の上では余計に疲れてしまう。せめて訓練フィールド外の椅子まで君を運ばせてくれ」
恥ずかしく、顔全体がかぁっと赤くなる感覚がする。
わきゃわきゃと手を動かすも、顔に当たってしまいそうでみょうちくりんな動きをして、最後にきゅっと胸の前で収めてしまう。
それに、こういう事をするとゼンさんの方にも悪い噂が広がってしまう。私のが広がるのは構わないけれど、ゼンさんに悪い噂が付くのはダメだ。
「こういうことをすると、その、ゼンさんが、色々と言われてしまうのでは……私としてもそうなってしまうのは心苦しいのですが……」
「いいのさ、言わせておけば。ああいうのは面と向かって言えない弱者のすることだ。付き合うつもりはない」
……運ばれててなんだけれども、ゼンさんは機嫌が良さそうに見える。
女の子としては重くないだろうかと思ってしまう。
それに動き回っているのだし、汗臭いかもしれない。
くん、と鼻を動かせば、普段の自分の香りでは無く、ゼンさんの匂いがして慌てて息を止めてしまった。
不思議そうな顔で見られたので、首をぶんぶん振って何もしてないアピールをするなどしたけれど、アホだと思われてないだろうか。
数分も歩けばすぐに休憩室に辿り着く。
模擬戦神殿の休憩室に連れられて椅子に座ると、もうそれだけで体が動けないぐらいの疲れを感じる。
「ははは、やっぱり頑張り過ぎちゃってたみたいですね……。腕を上げるのも億劫です。眠っちゃいそうです……フィオさんには申し訳無いことを……」
「アイツには勝手にやらせておけばいいのさ。――――これを」
「あ、ありがとうございます……」
ゼンさんからタオルと飲み物を貰うと、一気に飲み干す。
ヨルム王国で流通しているスポーツ飲料は、体に染み渡るように感じた。
練習中にも飲んでいたけれど、今が一番美味しく感じる。
ほっと一息をついた私を見て、ゼンさんが口を開く。
「……神楽、君は戦う事に慣れていないんだ。あまり無理をしてはいけない」
「わかってはいます。でも、私は強くならなくちゃいけないんです」
汗を拭いたタオルに顔を埋める。
「……決闘が怖いのなら、オレが――――「そうじゃないんです」……なら何故、君がここまで力を入れるのか、聞かせてくれないか?」
一瞬躊躇ったものの、尋ねた。
「……オリヴィアさんについて、どう思いますか?」
「ふむ……」
考えるように僅かに間が空いて、返事が来た。
「強い女性だ。凜としていて、誰にも靡かずに人の前に立つような、そんな覚悟を持った女性だと思っている。剣術の腕前だけを見れば、オレよりも上かもしれないと思っている。朝の模擬戦では何故か調子が出ていなかったのが残念だったが……」
「相性と言ってませんでしたか? オリヴィアさんは」
「相性、か。あの腕前で相性も何もあるまい。何か、気後れのようなものを打ち合った瞬間に感じたが、本人が躊躇するような何かがあるのかもしれないな」
「いずれにせよ、凄い人だとは思っているんですね」
「そうだな、それは間違いない。今後この先、彼女はこの国の最前線に立つかもしれないとは思っている」
頷く気配。やっぱり、オリヴィアさんは凄い人なんだ。
ゼンさんは学内でも最高の能力を持っている人で、エンペラーと呼ばれる称号を持っていると聞いているけれど、そんな人でも一目置くほどの人なんだ。
「決闘で勝つ以上に……強くなる理由に、オリヴィア・メルベリが強く関わっていると?」
「そうですね……それ以上は、今はまとまってないので話せる気がしないです。すみません」
「いいさ。こうして触りだけでも話してくれたのは嬉しい。何時だって、何か弱音を吐きたかったら呼んでくれていいんだ、神楽」
「すみません……手伝って貰っているのに」
「何度も謝る必要は無いよ、神楽」
ぐしぐしと頭を撫でられる。
抱きしめられた時から感じて居たけれど、疲れた体に他人の熱を感じると、そこから緊張が抜けていくような気がした。優しい声が精神的にも私を落ち着かせてくれる。
強くなることにこだわっている。辿り着きたいところが見えてきている。ほんの少しだけ具体的に言えば、何かしらの能力を持ちたいという思いが、徐々に私の中から芽生えている。
オリヴィアさんは、本当に凄くなっていく人なのだと、出会って一ヶ月近く経ってから思い知った。
ゼンさんの評価を聞くだけでもそれは間違いが無い。
きっとクラスの誰に聞いても同じような評価だろう。
今はまだ、近くに私がいられる。お互いが笑いって、気軽に接することが出来て、自室にいる時の気の抜けたようなオリヴィアさんと笑い合える。
でも、あの月影さんが告げた言葉を思い出す。
『昨日の戦うお姿も――同盟の者達から聞いて馬を飛ばしました甲斐がありましたわ――まるで戦女神の様子でした。誰も側に居ることの出来ない、孤高の美しさ……。そして理解したのです、真に居るべきは、私のような、あの輝きに見合う高貴な存在……!』
絶対に認める事が出来ない。
あの人は、そこに辿り着いた時にきっと悲しんでしまうような人だ。
あのまま、誰もが憧れるほど凜とした姿を表で見せ続け、何処までも強くなっていくなら――――その先に、その隣に、いったい誰が居るだろうか。
その隣にいたいと願う私は、笑って話し合える存在として、胸を張って横に居られるのだろうか。居ないとしたら、そこには、誰が――――?
ゼンさんが横に座る気配がしたけれど、私はフィオさんが来るまで、ずっと考え込んでいた。
月影さんの言葉に影響されていることに、誰にも気づかれる事も無いまま。
次の更新は土曜です。
相も変わらずギリギリ投稿で、余裕を持って投稿するためにも平日も進めねばと思うのですが……。
ブックマークと評価がぼっちぼっち増えてる! ありがとうございます!




