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第148話 思わぬ登場人物


「しつこいっ!」


 飛びかかってきた魔獣をナイフ一本で撃退する。

 相手の勢いと自分の勢い、ナイフの角度をイイ感じに合わせて一瞬で切り裂く。

 これで五体目だ。

 既に2本のナイフがお釈迦になった。

 斬り方に慣れてきたため、3本目のナイフは2本目より長く持ちそうだが、所詮は食器。限度はある。

 

 前を見る。ジェリーフェイカーが二体、こちらを見ている……目はついていないが、見ていると思う。

 反対側をじろりと振り返る。

 こちらも同じくジェリーフェイカーがいる。

 彼らの脇を通り、犬の魔獣が2体飛びかかってくるが、同じ要領で一度に捌いた。

 これで8体目。

 床が魔獣の血だらけで、臭いが酷い。

 ……魔獣を解剖する授業の方が臭いは酷いので、別に問題ない範囲ではある。


 それにしても。

 

「挟まれましたね……」

「そうだね」


 くるくるとナイフをもてあそぶ。

 明らかに意図を持っている。

 そう思わされる配置だ。


「どうして、あのジェリーフェイカーは襲ってこないのでしょうか」

「さぁ。何らかの思惑があるのだろうね。流石に近づいたら襲ってくるんじゃないかな」 

「魔獣に思惑、ですか? 不可解ですわ……」

「……」


 基本的に魔獣をコントロールする事は出来ないが、ユピ神国は希少な魔道具を使う事で実現している。

 そして他の国でこれを実現している国はない。

 ……ユピ神国の誰かが裏を引いているのはわかっても、それだけだ。理由がわからない。誰を標的としているのかわからない。

 

 神楽の安否が少し心配だ。

 ただ、寮は高学年の先輩達もいる為、よほどの規模じゃなければ大丈夫だろう。

 そして、そのよほどの規模ならもっと学園内もドタバタと激しくなるだろう想定があるため、神楽に関する心配は少しだけ、だ。



 睨み合いを続けるさなか、それは急に起こった。


 まるで波が引くように去っていく。

 ゆらゆらと揺れるジェリーフェイカー達が後ずさっては消えていく。


 クラウゼとアタシの息が響くだけの廊下。

 新しい敵が来るのか。

 これは何かの予兆なのか。

 じりじりと息を殺しているその時。


 カツン、カツン、と。

 音が響き始める。

 ヒールが床を叩く音だ。

 誰か来る。

 ジェリーフェイカーが消えた先をじっと見つめ。

 廊下の先に現れたのは……。


「無事だったか」


 スーツ姿をバッチリと着こなし、それでいてイヤリングや背のヒールを履いている、まさに仕事の出来る女性といった風体。

 この場に現れるのは不自然に見えるが……。


「が、学園長!?」


 クラウゼがその声に驚きと安堵を含ませる。

 わ、と不安が解消されたとばかりに学園長に駆け寄っていく。


「あの、私達さっきまで魔獣に襲われて……」


 そう言われた学園長は、わかっているとばかりに頷く。

 

「安心して欲しい。既に警邏チームを組んで鎮圧部隊が動いている。この騒動も、既に終わりに向かっている」

「よ、良かった……」

 

 現れたのは光栄宮学園(こうえいみやがくえん)のトップであり、ヨルム王国の切り札の一人と言われる程の実力者、童子(どうじ)テレンティア学園長だった。

 冷静沈着でキビキビとした言動。男装が似合うような美女であった。


 ……彼女が放つ魔法の威力は、この世界でも類を見ない程強大だ。

 通常、魔法には属性が存在する。この世界では火、水、雷、風という4つの属性が存在していて、これらは基礎魔法と分類されているが、そこから外れた魔法がある。遺伝魔法と呼ばれる魔法だ。

 

 彼女は火の魔法のスペシャリストでありながら、それに加えて遺伝魔法と呼ばれる常識外の能力を持つ。

 

 遺伝魔法。

 基礎魔法とはあまりにかけ離れた魔法行使能力。

 この世界において、個人が魔道具を使わずに引き起こせる、魔法を超えた超常現象は、全てこの遺伝魔法であると言っても過言では無い。

 どのような遺伝魔法があったのか、過去の歴史を紐解いても――盛りに持った内容ではあるが――『島一つを浮上させる力』だとか『同時にあらゆる場所に実体を伴って偏在する』だとか、『目に付く物を全て平らにしてしまう』だとか、『世界を闇で覆う』等々、個人が使う能力としてはあまりに有り余る力だ。

 

 神楽も――今は発現していないが――使える事から身柄を狙われているわけだが……学園長が持つ遺伝魔法はシンプルだ。

 

 魔法の範囲強化。

 シンプルが故に、恐ろしく有効の幅が広い。

 火魔法のスペシャリストである彼女は、やろうと思えば魔森林に国一つが入る程の大穴を開けさせる事ができる……らしい。

 設定資料集ではそう書いてあった。

 シナリオにがっつり絡む事は無く、スチルも立ち絵もないため、全て設定資料上で楽しむだけの情報であった。 

 実際に一人で魔森林から零れだした魔獣の大軍……数百もの魔獣を魔森林ごと焼き払っていたという説明もある。

 一対多の実力は、この世界最強と言える香月院ゼン様さえ優に上回る希有な人材だろう。


 が。

 アタシは、緊張を完全に解くことができなかった。


 彼女は――――元となったゲーム、『Diamondに恋をする ~ユア・ベスト・パートナー~』のシナリオ上の敵の一人である。

 幾らゲーム内で存在感が無かったとしても、ここはゲームではなく現実である。油断して良い理由は無い。

 彼女は……物語が始まる前には、ユピ神国から洗脳を受けていたのは間違いないのだ。 

次の更新は引き続き来週の土曜深夜になります。

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