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第112話 覚悟のすすめ

「……んあぁ――」

 

 平日となって目が覚めると、何となく薄暗くも明るい感じと、近くに誰かがいる気配が。

 といっても馴染みの気配で、すぐ隣に顔を向ければすやすやと眠っている神楽の姿が見えた。

 眠る前にお話がしたいということで神楽がベッドにやってきて適当に駄弁ってたが、どうやらお互いに寝落ちしたらしい。

 ベッドのカーテンどころか、部屋の窓のカーテンすら閉めてない。

 が、神楽と話して寝落ちするとだいたい閉め忘れてる気がする。もうちょっとこう、女子寮としての危機意識を改めて持たねば……。 

 当初はきっちり閉めてばかりだったので、これも変化と言えば変化か。

 

 神楽を起こさぬようするりと抜け出す。

 アタシは体を動かすために普段から早めに起床しているので、一緒に寝続けるわけにはいかない。

 音を出さないように動くのは常人より上手いが、訓練した子達に比べるとどうしても粗があるなぁと思い出しつつ、寝かしたままにすることに成功。


「んん……」


 このままだと朝日で可哀想なことになる。

 紫外線カットなんて便利なものはありもしない窓なので、シミやそばかすが万が一にも出来てしまわないよう、ついでに眩しくないようにベッドと窓のカーテンを閉めてから、学生服へと着替えてから剣を手に取って寮を出る。

 この時間帯は静かなものだ。

 誰も居ない洋館の廊下は、魔道具で作られた照明だけがうっすらと照らしている。

 月当たりに見える窓から差し込む日の光はまだ明るくは無い。

 廊下はベージュ調の絨毯が敷いてあり、複雑な模様が繰り返し続いている。


「……何気なく歩いてるけど、絨毯ってこれ……手作業じゃないよね」


 ずぶ、とほんのりだけ沈む絨毯で足を止めかける。

 複雑な模様を工業製品として作っているわけではないはずだ。

 基本的に魔法が使える人間が絡んでいるなら普通よりは生産性が出るが……この学園は基本的にお金持ちが通う(それにしたって命の危険が過ぎるが)学園だし、実は手作業で作られた絨毯です、なんて言われたら、アタシと神楽は気軽にこの廊下を歩けなくなりそうだ。

 何も気にせず歩く学生達は、本当にお金持ち出身といった感じ。

 こういう所で本物のお嬢様感を味わったりする。アタシと神楽には当たり前だが無い物だ。

 個々の部屋には入ったことは無いけれど、アタシや神楽の部屋より高い物が平然と置かれてそうで怖い。

 ウチらの部屋で変なのは基本的に無い。長剣がぽんと置かれていることぐらいだと思う。 

 廊下の絨毯を神楽は気にしたことが無さそうなので教えないであげておこう。でも、ゼン様のお屋敷で見慣れてきたら、案外大丈夫になるとは思うけど。

 

 

 誰かに見られる事も無く自主練を終えて戻ると、早めに行動する学生達が動き始めている。

 エントランスから戻るとき、だいたいすれ違う顔ぶれが同じなので何となく会釈する。

 そのうち何名かはクラスメイトである事もあるため、軽く会話することもある。

 今も、正面から歩いてきたのはクラスメイトの子だ。ぱっと目が合うと嬉しそうに綻ぶ姿は健気感が漂う。


「今日も朝から自主練ですか?」

「はい。ルーチンワークですので、やらないと落ち着かなくて」

「メルベリさんは凄いですね……私は頑張って何かを続けようとしても続けられません……」


 などと軽く会話して別れたりもする。

 室内に戻って起きていた神楽と共に準備し、食堂へと向かう。

 女子生徒達の、やや覇気の欠ける声で賑やかな食堂で朝ご飯。

 まぁ、何時もの流れだった。


「ちょっと緊張する……」

「今日からでしたか、お茶会というのは」

「そんなに気にすることか、ルカ」


 短い休み時間中、悩む神楽に答えるアタシ、そしてゼン様。

 授業合間の短い休み時間でも時折現れるゼン様に、当初は面食らっていたクラスメイトだったが、今となっては落ち着いている。

 むしろ、女子生徒達はちらちらと見ては嬉しそうにしているのでお得である。

 アタシもほくほくではあるが、近距離で見たいわけじゃなくて他のクラスメイトと同じように遠くから見たいのだけれど。

 

 それよりも神楽だ。

 

「休みの日に図書室に出掛けてたみたいだけど……もしかして……」

「はい……お茶会の本ってあるのかな、って……」


 しゅんとした様子で、あるにはありましたけど付け刃にしかなりませんね、と答えた神楽。


「あの図書室にはそういうのもあるのだな」

「ゼン様はあまりご利用されない感じですか?」

「屋敷にある蔵書で事足りるからな」


 暗に図書室並みに本があるという事だなと察する。

 研究所も自前で抱えているゼン様というか、香月院家の事だ。

 図書室を持っているのは極自然に思える。

 

 神楽がお茶会に感じているプレッシャーに関して不思議そうな表情をされているが、ゼン様はそもそも小さい頃から慣れ親しんでいるため、もはや気にしなくてもあらゆる所作が様になっているのだろう。


「気にすることは無いだろう。呼ばれて是非と誘われたのだろう? それにお茶会になれてない事も承知しているという話だ。存分にルカから話を振るがいい」

「むぅ……ゼンさん、そう言われても……」


 ちょっとむっとした表情の神楽が可愛い。

 拗ねたような表情を見せるほどには進展しているらしい。

 ゼン様はやや慌てたように違うんだルカ、と機嫌を取ろうとするのが面白い。


「どっちにしても、出たとこ勝負で行くしか無いというわけですね」

「オリヴィアさぁん……」


 不安そうにきゅっと袖を掴まれ、やや上目遣いになり……。


「一緒に参加されません……?」

「っ!」


 なかなかの破壊力だ。

 ちなみに動揺しているのはゼン様である。アタシは可愛い表情も凄いなぁと感心しているだけだ。

 これをゼン様に向ければ良いのに。そしてその様子を後ろから全力で眺めていたい。

 だいたい、この休み時間の話し合いだってアタシは居ない方が絵になる決まっている。


「招待されたのは貴女なのだから、神楽。私が行ってもしょうがありません。――――腹をくくりなさい、神楽」

「はい……」


 そういってから迎えた放課後。アタシは神楽へ告げた言葉に軽く後悔する羽目になった。

 

次の更新は次の土曜日です。

剣戦シーンを書きたいところです。SEK○ROを参考にしてるから起動しなきゃ!(しない

追記)土曜がお仕事になったので日曜日です。

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