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第111話 感じ取ることが出来ない力

「ま、まぁ! それは置いといてですねっ! オリヴィアさんもすぐに出来るようになりますから! 私もこの学園に来るまで、まさか自分が魔法を使えるとは思ってもいませんでしたし。ほら、私達の学年にも何名かいたじゃないですか」


 何名かいたって言われても片手で足りるぐらいしかいない。

 

「……そんなこと言われてもねぇ」


 そりゃ、元現代人として、そしてこの世界、 『Diamondに恋をする ~ユア・ベスト・パートナー~』にどっぷり浸かっていたのだし、魔法が使えるなら使いたい。


 遺伝魔法がこの身に無い事はわかっている。というか、遺伝魔法はレア過ぎるし強力過ぎる。神楽の遺伝魔法が発動すればそれだけで国の勢力図が変わってしまう。


 それはともかく、基礎魔法でも使えるような気配、その片鱗でもあればいいけれど……。


「ちょっとさ、簡単な魔法を緩く使ってみてよ」

「? はい」


 話題を反らせたと思っている神楽がほっと一息吐いたのち、不思議そうな表情になりながらも魔法を行使してくれる。

 目を閉じて、息を吐き、集中すること数秒。

 小さく、アイス、と呟くと、今度は控えめな氷の柱が出来上がる。

 こんもりとした氷の山が神楽の手のひらに生まれていた。


「こんな感じで良いですか?」

「うん。ありがとう」


 目を開けた神楽は引き続き集中している気配はあるが、部屋に入る時に見かけた時よりかは断然リラックスしている。


「失礼」

「あっ、危険は無いですけどっ! 触りすぎると手が……!」

「そんな長く触らないから大丈夫」

 

 そっと触ると、指先に氷の感触がある。

 山を撫でるように手を進めると、指先が少し濡れたような感触がある。

 つんつんすると、押し固めたような塊感のあるレスポンスが返ってくる。

 これに長く触れることは出来なさそうだ。凍傷になる。

 ひんやりとした空気が手のひらを包んでいるが……。


「神楽は冷たくないの?」

「そんなには。これも、魔法を制御出来れば完全に冷たさは消せる、らしいです。温かくなった頃には重宝しそうですね」


 聞けば穏やかに答えてくれる。

 本当に苦になるような冷たさだと感じていないのだろう。


 指先で凍りの山を弾く。

 この程度の堅さなら、まだ実用的に使えるレベルではないだろう。

 何かを受け止める、あるいは投げつければ壊れる。

 

 そう考えるとやはりゼン様は異常である。

 ゼン様が作り上げる氷の剣は、基本的にはこのアイスの魔法……の延長線上らしいが、工作精度というかなんというか、作りが段違い過ぎる。

 作中では平然と鉄の剣と切り結ぶのだ、ゼン様の氷の剣は。

鉄だけじゃなく、矢だろうが数は少なくとも銃撃だろうが火炎だろうが受け止めるシーンが多々ある。ゼン様にとって、非常に使い慣れたものなのだろう。盾を出すシーンの方が少ないぐらいだ。

 無論、物語後半の巨大な魔獣相手では回避行動をよく取っているので限界値はあるのは違いない。

 その丈夫さに加えて、装備の上からでも相手を切り裂くほどの十分な切れ味を持つのだから、もはや生成しているのは氷とは別次元の何かにしか思えない。切れ味に関しては、実は刃が高速回転しててチェーンソーみたいなことになってないだろうか。

 

 水の延長線上と定義されている氷にて、ゼン様と同じように剣の形にするというのはありふれているのだけれど、何度も物理的な剣と切り結べるレベルじゃないのは確かだ。

 多分、同じく氷を得意とする水の魔法使いがいたとしたら、ゼン様の使い方を見て目玉が零れると思う。

 

 神楽の氷にはまだまだそのような力は無い。

 だが、わかったのは()()()()だ。


「ありがとう、もう大丈夫」

「はい」


 パキン、と小さく音が鳴ると、先ほどと同じように粒子となって砕けて消えた。

 その様をじっと見つめる。

 神楽は、何となく消えた魔法とは別の場所に視線を投げかけた気がする。

 神楽の視線の先に何かがあるかと追いかけたが、何も掴めそうにない。

 

「やっぱり、ダメだね。アタシには魔法の残滓は感じられない。魔法を感じ取るための魔感知力が低いままってことだね。意図的にわかりやすくした先生の魔法でも辛うじてわかるかも……ってぐらいだから、まぁそりゃそうだけど」


 ひらひらと手を振りながら、クエスト帰りの荷物をベッドの上――荷物置き場として使えるようになっている――に置き、替えの服をクローゼットから取り出しつつ答える。出掛ける前に用意していたお風呂セットを机の上に置いて準備する。あれ、バスタオルは?

 

「そう簡単に変わらないとは授業でも先生が言ってましたね」

「こればっかりはねぇ。しかし、基礎魔法で水かぁ」

「ゼンさんも星井さんも、お二人とも得意なのは水ですから」


 ゼン様はわかるが、星井さん……ええっと、保険医のあの人は攻略キャラじゃなかろうに。

 アタシが知らぬ間に何度か会ってそうだ、この感覚だと。

 流石主人公、非攻略キャラでも攻略してしまうのか。

 それはそうと。

 

「ジャイルズからは何か言われてないの?」

「あー……」


 その返答だけで、既に何かがあったことは明白だ。

 眉毛が困ったような表情になっていく。


「休みが明けた後、廊下でゼンさんとお話してたらフィオさんがやってきたんです。そこでお休み中の話になって、流れから魔法の話になって。雷は出来ると使い勝手が良いから、放課後太陽守護の活動部屋に来れば、決闘騒ぎの縁もあるしで教えて上げてもいい、みたいな事は言われたんですが……」


 そこでしょぼん、とした雰囲気を出す。


「既に水魔法について教え始めてるとゼンさんが話したら、『はぁ!? 僕がヨルム王国から居ない間に抜け駆けしてんの!?』みたいな怒られ方をしました……」

「え。何それ」


 ゼン様ルートだと、神楽を意識するライバルキャラとして出てくるフィオレンティーノ・ジャイルズだけれど、この世界でもきっちり意識しているようだ。

 ルートが違うとはいえ、作中のフィオルートでは神楽を意識し始めると同時、長い時間拘束させようとしてか魔法を教えてくれるのだ。

 神楽を恋愛対象として見ているかはともかく、神楽に気を惹かれ始める頃に出る台詞なので、フィオが神楽を特別視し始めているのは確定でいいかな。

 しかしまぁ、廊下でそんな事が……ううむ。


「ゼンさんはフィオさんを無視して良いと言うんですけど……フィオさんはその言葉にまたゼンさんに噛み付きましたし……これ、バスタオルです」

「あ、ありがとう……」


 はぁ、とため息を吐きながら、アタシが探していたバスタオルを差し出してくるのでありがたく受け取る。

 戻ってきたら温かいお茶をご用意しておきますね、というやや落ち込んだ状態の言葉を背に、アタシはそそくさと部屋から出て行く。

 

 板挟みって大変だね。でもその口喧嘩イベントの新スチルは回収したかったな、等とは口が裂けても言えなかった。

次の更新は予定があるので再来週の土曜です。

いつも読んで頂いてありがとうございます。

もっと展開を早くばーっと書けるように頑張ります。

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