第109話 あの時の少女
ということで、今日も今日とてクエストをしてきた後だ。
大量発生している魔獣退治ということでランクが低めの人達が一時的なパーティを多く作っていたのでそれに入れさせて貰ったのだ。
前回の長期休み期間中には野良パーティに入ることもしていたので、今回が初というわけではない。
「といっても、辛い戦いだったなぁ……」
とぼとぼと、公衆浴場からの帰り道を歩きながら振り返る。
空を見上げれば、まだ空は明るいままだ。
参加したところは8人パーティ。数に余裕があるのは精神的に楽だ。
とったクエストは近場の魔森林の討伐クエスト。
低ランク勢という事もあり、奥に行くことは出来ない。
無理を言えば行くことは出来るらしいが、当然生きては帰って来られないし、予定した時間に戻ってこない開拓者に対して、安全圏に残された職員が辛い思いをしながら行きよりも軽い馬車で帰る事になるだろう。
今回出てきた魔獣の多くはゴブリン、クラーケンドッグにジェリーフェイカーばかりで、魔獣は持ち帰らず、メインは討伐証明の搾取だった。
未だに手早く殺せるとは言わないが、クラーケンドッグもジェリーフェイカーも手こずる事は少ない。
全員、この程度は対処出来る程度には実力があった。
だが、順調だったのは最初の数時間だけだった。
途中、人魂のような物を見た、という開拓者が出たことで、場に一気に緊張が走った。
全員で索敵をしながら来た道を戻る途中、青色に燃えさかる火の玉が頭上からゆらりと落ちてきた時は、何名もの悲鳴があがった。
アタシは怖さがよく分かっていなかったのでどう斬るか考えていたが、物理があまり効かないと聞いて逃げる一択となった。
エレメント。
人魂のようにふよふよと宙を浮く魔獣であり、火や水といった、単一の属性を持っている。
前は馬車で2時間近く移動する必要がある場所に居たので、これにはかなり慌てることとなった。
誰も魔森林の奥に出るような魔獣と戦った経験者がいない。
幸い、パーティに魔法を使える開拓者がいたので何とかなったけれど、今回はこれで撤退となった。
魔法が使えるといっても数が撃てないという事で、逃走時間を稼ぐような、嫌がらせのような水魔法をぶつけていた。
飲み水を容器ごとぶん投げている人もいたぐらいだ。
足が遅いというが、飛んでくる火の玉は野球ボールもかくやという速度であり、背中に盾を持っているメンバーが構えて逃げなければならなかった。
宙に浮いているのも厄介で、普通に頭上の上から攻撃して来たので卑怯と言いたくもなる。
火のエレメントが周囲の木々を燃やさずに漂う様は妖怪のような奇妙さがあり、たった一体とはいえ、セーフティハウスのある安全地帯(というほど安全地帯ではないが)に戻ってきたときには安堵の息が零れたものだ。
無論、クエスト仲介所に戻った際は報告し、慌ただしく職員が動き始めたところでお金を貰って解散となったが。
公衆浴場に行って既にさっぱりした後ではあるが、思い返すと苦い表情は避けられない。
時間当たりの稼げる金額は8人で行ったとは思えないほど良かったが。
「アタシも遠距離攻撃が欲しい……」
と、そこそこ馴染みのあるお菓子屋の前に、何処かで見かけた少女の後ろ姿が。
男性の店員さんが笑いながら、ショーケースにあるお菓子の説明をしており、食い入るように眺めている。
「ねぇ、キミ――――」
そう声を掛け、振り返った姿は、あの日の少女だった。
「今日はありがとうございます!」
私がお菓子を買って上げると、少女は歓声を上げてくれた。
店員さんもありがとうとお礼を言ってきたのは、きっと彼も少女にお菓子を奢ってあげたかったのだろう。
「ううん、気にしないで。この前は、クエスト仲介所への道案内をしてくれてありがとうね。これはそのお礼だよ」
「道案内ぐらい、お安いご用です! もう道案内は無くても大丈夫ですか?」
「うん。もう何度も通えるようになったよ」
「それは良かったです!」
お店の前に設置されたベンチで足をぷらぷらする少女。
クエスト仲介所の場所を知らなかった時に、街の案内をしてくれた少女だった。
「出会えて良かったよ。あの時のお礼をしたいと思ってたから」
「そうだったんですか? あれから街を歩いていなかったので、ごめんなさい」
「何処か別の場所に出掛けていたの?」
「んー……」
少し考えてから、少しだけ寂しそうな顔で言う。
「実は、私はあまり体が強く無いので、家に籠もってる事が多いんです」
「そう、なんだ。今日は出歩いて大丈夫なの?」
天真爛漫といった見た目の少女なのに体が弱いとは。
一瞬声が詰まる。
「大丈夫な日と大丈夫じゃない日ではっきりとしているので、今日は大丈夫な日です! ……本当は、お世話してもらっているシズエさん敵には家に居て欲しいみたいなんですけど……私は大丈夫だってわかってる日だけしか出ないから、大丈夫なんです、本当に」
しょんぼりした姿と、言い聞かせるような様子は見ていて辛い。
シズエさんという名前は、前にこの子と話した時に一度だけ聞いたような気がする。
もしかして今もどこからか様子を見ているのかもしれないと思ってさっと周囲を見たが、特にこちらを注視している人は見受けられない。
「……大変なんだね」
辛い事があってもアタシじゃ解決出来ないのは辛い。
物理的な、肉体の損傷にはべらぼうに強いこの世界でも、病気に対する扱いはまだ元の世界が圧倒的に上だ。
こればかりは、未だに覆しようが無い。
「でも、お兄ちゃんが、私が元気になるようにきっとしてあげるって言ってるから、そんなに辛くは無いのです!」
何時か、毎日外を駆け走れるようになりますから!
そういった少女の顔には、お兄ちゃんへの信頼に満ちあふれていた。
両親がいない子というのはこの世界では珍しくないが、兄妹の仲はとても良いようなのが救いかもしれない。
この子のために何かしてあげられることはあるだろうかと、自然とそう思った。
短めですが、次の更新は次の土曜です。
難産でした。




