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第108話 変わりつつある二人組

 ひとまず一安心してから、クエスト用紙がある広い廊下を歩く。

 本棚と、壁一面に大型のコルクボード。そこに張り出された多くの依頼。

 そしてそれを眺める大人や子供達。

 私服姿の大人や子供は男女両方いるが、狩り装備の人達はほとんど男性ばかりだ。


「まだ朝早いのに、人が多いなぁ……」


 人ゴミ……という事にはなっていないが、反対側の廊下にずらりと並ぶテーブルや椅子は軒並み埋まっていて、騒がしさは休み期間の比ではない。

 立ち専用テーブルが辛うじて空いてるぐらいだ。


「あとどれぐらい運ぶ? 今週は結構運んだと思うけど……」

「今が稼ぎ時じゃん。倒れるまで稼ごうぜ」


 と少年達がわいわいと話し合い、また別の席では、


「何時までコボルトを狩るんだよ」

「終わるまで、だろ? だいぶ最適化されてきたから、接敵してからの狩るペースは過去最速だ」

「あー! 別の魔獣を狩りたい……! 他の魔獣も出てるんだからさ、別にコボルトに絞らなくていいだろ!」

「ここまで来て無駄にリスクを得る必要は無いだろ?」


 と、魔獣を狩る装備を身に付けた大人達が頭を抱えたり、笑ったり、渋い表情をしながら、手元のクエスト用紙をぺしぺしと叩く。

 クエスト仲介所の職員が空いたスペースに新たな用紙を張り付けていき、大量発生した魔獣を狩るクエストは何枚もの紙が重ねてが画鋲止めされている。ちぎれた用紙の数から、結構な数がこなされている事がわかる。


「……個人店の依頼もあるんだ」


 ちらりちらりとクエストを眺めれば、街中で見かけたことのある武器屋の名前や防具専門のお店の名前が幾つもある。

 一つのお店で多数の素材を買い取っているようだ。クエスト仲介所で買い取ったものがこういうお店に流れていくのかと思ったが、別にそうでもないのだろうか。

 それに食事処っぽいお店の名前もあるが……料理……? 魔獣の料理!?


「あ。メルベリだ……こ、こんにちは」


 落ち着いたというより、ややおどおどした声には聞き覚えがある。

 振り向けば、予想通りの二人組……ではなく、一人。

 アタシよりも小柄でさっぱりとした開拓者であるジェラルくんだ。

 ジェリーフェイカー戦ではお互い苦労したため、ジェラルくんからの敵意は感じられない。視線は合わせてくれないけれど。

 ……何だか、ジェラルがアタシに対して投げかける視線が前と違う。何だろう。

 

 それはともかく。

 出会った当初は自分を強く見せようとして不安そうだったが、今は自然体で……不安そうだ。虚勢を張らなくなった分、素直そうな陰キャに見える。

 装備も当初より使い込まれている感が出てきている。

 雰囲気だけなら駆け出しとはもう言われない……と思う。剣の取り扱いに慣れていなかった時の面影は残っていない。

 

 たった三週間程度でここまで変わるのかと思ったけれど、彼は普段から魔獣と相対するお仕事だ。アタシと実戦の練度が違うし、命と生活が掛かっている分、成長速度も速かろう。

 先週までのお休み期間中だって、アタシより彼らの方がクエストの受注回数は多いはずだ。

 しかし……と首を傾げる。


「はい、こんにちは。……あれ?」

「どうしたの?」

「ジェラルだけなの? アランは?」


 きょろきょろと周囲を見渡す。

 突っかかってきた少年……というと自分達と年齢差はそんなにねぇだろ! とアランくんに怒られるかもしれないが、どうしても彼らはまだまだ子供に見えて仕方が無い。

 突っかかれても、はいはいーそうだねーといなせてしまう。アタシにとって思春期の様子は微笑ましい。たぶんここがゲーム設定世界だと内心強く思っているからだろう。

 そう考えるとフィオレンティーノ・ジャイルズは彼らより年下なのに欠片も微笑ましくない。あの腹黒ショタは精神的には同年代に見えなくもない。

 

「う、うん。奥に居るよ。幾つかのクエスト用紙と睨めっこしてる……」

「そうなんだ。……私が顔出したら、やっぱり不機嫌になりそうかな?」

「う、うーん……」


 困ったように眉を下げる様は、ちょっと保護欲をかき立てられる気がする。

 てっきり明確に否定されるかと思ったのに、そうじゃない様子にまたしても首を傾げる。

 と、ジェラルくんの背後から歩いてくる姿。


「なぁ、ジェラル。今日はこっちの依頼を――って、ゲエ、メルベリ!?」


 人を見てゲエっと言われるのは新鮮味がある。

 笑いそうになってしまったが、ここで笑った間違いなくアランくんの機嫌は急転直下だろう。

 アランくんの見た目はジェラルよりも更に鍛えられた感がある。

 ……どうも、最後に見たときより、えらい装備のくたびれ具合が違うような?

 ジェラルも魔獣を狩る日常に慣れている感を出しているが、アランは何か……こう、更に違うような変わり方をしている。

 言葉に悩んでいる間、とりあえず挨拶をする。

 

「こんにちは、アラン」


 一応、軽く微笑んで呼びかける。

 

「……おう」


 ぷいっと顔を背けるが……おう?

 思わず目をぱちくりとする。

 ジェラルが軽く苦笑したようだった。

 敵意を向けてくること自体は変わっていないが……。一応挨拶を返してくれた?


「……なんでこんなとこにいんだよ、テメェ。学園で勉強してんだろ?」

「ええ。ですがまたしばらくは、休日も積極的に来るつもりですよ、私は」

「ふん……俺達はこれから狩りに出掛けるから、お前はあっちいけよ。ジェラル!」


 そういって身を翻して、奥のテーブルへと戻ってしまった。

 ジェラルがしょうがないな、という顔をしているのが印象的だ。


「どうしたの、あの様子……。前回と全然違う……」

「う、うーん。盗賊達を捕まえにいった事件があったよね……」


 魔道具連続窃盗事件の事だろう。

 高価な魔道具を狙って開拓者達から奪ったり殺したりした非道な事件だ。

 ゼン様と共に潜伏先を襲撃した件はまだ記憶に新しい。


「実際に捕まえに行く前、何処に潜伏しているかを、アギトさん達と一緒に調べて……その時襲撃されて」

「あったね、そういえば」


 潜伏しているセーフティハウスを絞って調べている時期だ。

 確かに調べにいったアギトさん達が負傷したと聞いて驚いた記憶がある。

 

「あ、アギトさん達ベテランも何名か負傷してた……でも、実際に盗賊を捕まえにいった時、メルベリは怪我をしていなかった……。帰ってきた様子は、ぜ、全然元気そうで……」

「私は対人がとても強いですから。……魔獣はともかく」


 えへんと胸を張る。

 

「う、うん。だから……ちょっと、アランの中で、その事実をどう消化したらいいのか、悩んでるみたい……。魔獣を相手にしている時、とてもへなちょこだった事と、傷一つ無かった事が、繋がらなくて……」


 元々、アランの敵意は、パッと出の新人が、尊敬する琥珀アギトさんから直接ヘッドハンティングされてきた事に加えて、対魔獣はへなちょこだった事から、その程度の奴になんで目を掛けるのか、という感じだった。

 それが、自分達が苦戦を強いられていた相手に対して無傷で勝利した事実との不一致が大きすぎるのだろう。


「じ、実は一緒にいった人達に、メルベリの事を聞いたんだけど……」

「そうしたら何て?」

「全員、俺達じゃ絶対に勝てないって声を揃えてた」


 まぁそうだろうね。

 正直、あの場所なら、馬車に居た全員と戦っても間違いなく勝てる。ゼン様を除いて。


「だ、だから。アランは今、自分の中での、メルベリに対する認識に悩んでる……ごめんね」

「気にしてないから、いいよ。色々教えてくれてありがとう、ジェラル」

「ううん。……それじゃ、アランが呼んでるから」

「狩り、頑張ってね」

「そ、そっちもね」


 そういって駆けていく背を眺めて息を吐く。

 こんなにジェラルと会話出来るとは思っても無かった。彼も変わったのだろう。

 ジェラルの視線の変化。その理由も何となくわかった。

 あれは対等以上の相手だと認識した目だ。アランよりも早く、ジェラルの中では決着がついたのだろう。


「……実際に模擬戦でもしてみれば、アランからも敵意も無くなるのかな? でも対魔獣はきっとアラン達より下手だしなぁ。変にこじれそうな……」


 頑固そうなアランも変わりつつあるのかと思うと、何となく感慨深い気がした。

 

次の更新は来週の土曜日になります。今週じゃないです。

何かとはいいませんが、クリアしました。

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