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悪魔兄妹は、契約する相手を間違えたようです  作者: 龍造寺 塞梅
第4章 それでも貴女に恋をする
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第9話 宮島からの告白

 それから、宮島は、傍多の過去に関することを語った。


「それと――」

「もういいわ」


 それまで、我慢して宮島のセリフを聞いていたクロエは、憤懣やるかたないという表情で、宮島の話を遮った。


「……あんた、何なの?それを、私に聞かせてどうするっていうのよ」

 ぎりっと、クロエの握られた拳に、爪が食い込む音がする。クロエは、本気で、怒っていた。


 しかし、宮島は、意外すぎる発言でクロエを混乱させる。


「……アフターマンさん。……私じゃ、だめかしら?」

「……は?」


 クロエは、思わず顎が地面に付きそうな程、ぽかんと口を開けた。

 じりじりと、宮島は距離を縮めてくる。


「私は、木崎さんみたいに、あなた以外の女性を見たりしない。浮気は絶対にしないわ。まずは、お試しでいいから、一週間、付き合ってみない?」

「……何言ってんの、あんた?」


 クロエは、じりじりと、距離を詰める宮島から離れようとする。

 しかし、宮島の方が、距離を詰めるのが早かった。


 宮島は、クロエを抱きしめるようにクロエの体に腕を回し、クロエの肩口に唇を埋めた。


「……良い匂い。知ってる?異性でも同性でも、体臭を良い匂いだと感じるのって、遺伝子レベルで相性が良いってことなのよ?」


 クロエは、抱き留められたまま、あまりの展開にぽかんとしている。


「アフターマンさん、私と、お付き合いしてください」


 宮島は、そう、クロエに対して告白と言える言葉を放った。

 クロエは、混乱していた。宮島の、柔らかい女の子の体が、自分を抱きしめている。自分は、ライバルだと、傍多を巡る「メス共」の一人だと思っていた、宮島が、クロエのことが好きだということに、混乱していた。


「わ、私は、傍多と……!」

「ええ。知ってるわ。だけど、もう我慢していられないのよ。お願い。アフターマンさん」


 クロエは、一瞬宮島を突き飛ばそうと思ったが……その腕を、下ろした。宮島の体が、震えていることに気付いたのだ。


「……本当に、私のことが好きなの?」

「ええ。大好きよ」


 宮島は、そう言って、一度、自分の体をクロエから離す。


 宮島のつややかな黒髪。ピンクに少し紅が混じっている唇。紅潮した頬。そして、まっすぐにクロエを見つめる瞳。


 クロエは、ため息をついた。


「……あのね。私たちの種族は、『願いごと』をされると、弱いのよ。そして、少しでも、その願いごとで心が揺れてしまったら、その願いごとを叶えるように努力しなくちゃいけないの」

「……?」


 宮島は、そこで、不思議そうな顔をした。クロエの言っていることが、わからないのだろう。そして、クロエも、それに対する説明をわざわざ入れる性格ではない。


「……わかったわ。でもね、私には事情があって、5年間、傍多とは縁が切れないの。つまり、あなたの想いには答えられるけど、現状は二股ってことになるわ。……それでもいいの?それでも、私のことを諦めないって言えるの?」


「…………」


 宮島は、少し考えるようなそぶりをして、視線を泳がせた。おそらく、クロエの言うことが、理解することを拒んでいるようにも見える。


 しかし、宮島は、最終的に、クロエの真っ赤な瞳を、まっすぐに見た。


「……わかったわ。たとえ、二股をされても、私はあなたを諦められない。あなたの言うとおりにするわ、アフターマンさん」


 クロエは、内心、私も悪魔的なことができたんだな、と自分自身に感心してしまった。

 宮島は、おそらく嘘は言っていない。本気で、クロエのことが好きなのだ。


 そして、悪魔である性分としては、「願いごと」をされたら、条件付きでそれを叶える努力をしなくてはならない、という厄介な「決まり事」もあった。


 そう。天使も悪魔も、神々も、元は同じなのだ。ただ、悪魔は「条件」を要求する。その条件を呑んだ者だけが、悪魔の力を借りることができるようになるということだった。


「……木崎さんのことを、悪く言ってしまって、ごめんなさい。でも、どうしても、貴女が欲しかった。貴女に恋をしてから、ずっと」


 そう言って、宮島は、再び、クロエを抱き寄せた。……クロエ自身も、宮島の、どこか紅茶のような、かぐわしい香りが彼女の体臭だと気付いて、頬を赤らめた。

 なるほど、遺伝子的には、宮島とも、そして傍多とも相性は良いのだ。傍多の体臭は、クロエにとっては、どこか直線的な、香りが放射状に広がるような匂いでもあった。


 周りに誰もいないことを良いことに、宮島とクロエはそのまま、抱き合っていた。


 飲食用のテーブルの上には、チョコレートドリンクが1/3ほど残っており、まだ、湯気を立てていた。


「ん……こら。そろそろ離れなさいよ」

 クロエは、そう言って、宮島の背中をぺちぺちと叩く。宮島は、ようやく体を離した。


「じゃあ、今度から、私のことは雪、って呼んでくれないかしら?」

「ん……じゃあ、私も、クロエでいいわ。傍多からは、私が言っておくわね。……まあ、最も、傍多だってあっちこっちの女に手を出してるんだから、叱られる筋合いはないわね」


 すると、宮島は、自分の髪に付けていたリボン付きの髪ゴムを外し、クロエの左手首に通した。


「お守りよ。本当は、もっと立派なものをあげたいんだけど」


 クロエは、傍多が買ってくれた「不思議のメダイ」をとっさに首から提げていたことを思い出したが、宮島の前では、何も言えなかった。

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