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悪魔兄妹は、契約する相手を間違えたようです  作者: 龍造寺 塞梅
第3章 ざわめき、そして沈黙。
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第11話 利己的な子宮

 その夜、彼方は一応、夜中まで起きていた。

 新菜のポルターガイストを警戒してのことだったが……。


 ……なんと、新菜は、一回も、ポルターガイストを起こさなかったのである。


――

「んんん~?」


 彼方は、起床して、新菜の部屋をそっと覗く。

 しかし、何度見ても、両親の部屋は、彼方たちが片付けたままで、物が飛んだりした気配は全くなかった。


――


「本当に、お世話になりました」


 新菜が、いつも通り美しく礼をする。彼方たちは総出で玄関に集まっている。新菜を預かる期間が過ぎたのだった。


「彼方君、本当にありがとうございました。……その、傍多さんとクロエさんとルガリさんも」

「私たちは十把一絡げってところかしら?」

「あ、え、えーっと。そんなことはないのですが……」

「冗談よ」


 傍多は、最後に、そう言った。そして、新菜は、来たときと同じように、ガラガラとキャリーケースを押して、遠ざかっていった。



「でも、本当に、何が原因でポルターガイストが起きてたんだろ……?」


 新菜を見送ってから、彼方はルガリに聞く。ルガリは、「さあな」と素っ気ない。

「生理が要因じゃなかったのかな……?うーん?いや、でも……」


 まだぶつぶつと言いながら部屋に戻る。そのまま、時間は過ぎていった。

 ……無舵に、ことの顛末を聞くまでは。



――

「お、彼方、来たな」


 新菜の事件があってから、1週間が経過した。いつも通り、「無道」に出勤した彼方は、無舵に仕事があるかどうか聞こうとした。


 が、無舵に止められる。


「今日はな、彼方の気になってる、新菜ちゃんのその後だ」


 彼方は、「何かわかったんですか!?」と詰め寄った。



「ああ。結論から言うと、新菜ちゃんはもう、ポルターガイストを起こす体質にはなってねーよ」

「……何故?」


 彼方は、無舵の前に椅子を持ってきて、そこに座って「聞く姿勢」をとった。


「新菜ちゃん、あの後、柏木の紹介した婦人科を受診したんだがな……。どうやら、そこで筋腫が見つかったらしい」

「筋腫……!?それって、癌じゃないんですか!?」

「落ち着け。子宮筋腫は、癌じゃねーよ。そもそも、子宮筋腫って病気自体、良性の腫瘍のことを言うんだ。って、これは柏木に全部聞いた話なんだがな」


 彼方は、ひとまず新菜が癌を患ったわけではないことに安堵する。


「筋腫自体は、それほど大きなものでもなかったから、これから通院と薬で治療するらしい。良性っていっても、新菜ちゃんの生理が重かったのは、ほとんどこいつが原因だったらしいからな。……で、新菜ちゃんの初診は、柏木が付き添ったんだが、新菜ちゃんが診察を受けている間、やはり霊的エネルギーのようなものを感じたらしい」

「ダメじゃないですか。それのどこが『ポルターガイストを起こさない体質になった』っていうんです?」

「いや。それがな、霊的エネルギーを確かに感じたことは感じたらしいんだが、ポルターガイストを起こすような、トゲトゲしたものではなくなっていたらしいんだ。包み込むような、母親の胎内のような安心できるエネルギーだったらしい」


 彼方は、そこで、自分の顎に手をやって考えた。


「つまり……新菜さんか、他の何かが、『もうポルターガイストを起こす必要はない』って考えたってことですよね?」

「そういうこったな。で、診察を終えた新菜ちゃんに、柏木はちょっと能力を使ってみたんだ。そうしたら、子宮の辺りから、そういう霊的エネルギーが漏れ出してることに気がついた」


 彼方は、「んん?」と疑問の声を上げる。


「つまり……子宮から何かを感じ取ったと?しかし、新菜ちゃんは生理だったんですよ?子供を身ごもっていたとかは考えられないのですが……」

「ちげーよ。意志を持つのは、胎児だけじゃねえ。つまり――新菜ちゃんに『警告』を与えていたのは、子宮そのものだって説だな」

「子宮が!?」


 彼方は驚きの声を上げたが、無舵は「そんなに驚くようなことでもねーんだ」と続ける。


「筋腫が大きくなっていることに一番早く気付くのは、当の子宮だ。新菜ちゃんの子宮は、ポルターガイストを起こすことによって、こうして誰かが気付くのを待っていたんだな。全く、策士な子宮様だったぜ」


 無舵は眠そうにあくびをするが、彼方は、呆気にとられたままだった。



――

「彼方」


 そう、聞き知った声に、幻聴じゃないかと思いつつ、彼方は振り返った。

 そこには、ピカピカに磨き上げられた、黒い車が停まっている。彼方は、きょろきょろと右を見て、左を見て、道路を横断する。


「ルガリ、教習所はもういいの?やだよ、僕、無免許運転の車に乗るとか……」

「気にするな。免許はもう取った。ほら」


 ルガリは、ピカピカの運転免許証をポケットから出す。彼方は、首をかしげた。

「あれ?免許って、一週間で取れるもんだっけ……?」

「最初からこうすれば良かったな」


 みるみるうちに、彼方の顔色が悪くなる。


「もしかして、偽造免許――!?」

「偽造じゃない。そもそも俺は、元々運転はできるんだ」


 その、訳のわからない理屈に、彼方は頭がくらくらした。


「……事故だけは起こさないでよ……?」

 せめて、それだけ言って、助手席に乗る。ルガリは、「任せろ」と言って、アクセルを踏み込んだ。


 こうして、彼方は、どんどん、自分が悪魔色に染まっていく音が聞こえたような気がしていた。

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