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第6話 東京大結界

――彼方たちは、シュトラと浩樹の目撃情報を、東京の地図に印を付けて、足取りを追っていた。


「うーん……色んな所にいるなあ……」

 マークされた地図の範囲には、全く整合性がない。山手線上に現れたと思えば、全く別の、奥多摩方面にいたりする。どうやって移動しているかはさておき、彼方も傍多も、地図を見ながら首をひねるだけだった。


「一番最初に目撃されたのは……捕獲に失敗したこの、原宿なんだけど」

 原宿の一件で、霊能事務所たちは、情報を共有することにした。それだけ、捕まえるのが困難な相手と見たからだ。

「今は東京の範囲内にいるけど、これで東京を出られたら、本気でわからないわね。それこそ全国の霊能事務所に連絡を取らないといけない事態になるわ」


 傍多も、考え込む。

 クロエが、横から地図をのぞき込んで、「ほんっとどこにいるかわからないわね、あのアホは」と毒舌を吐いた。


「……でも、彼方、もし私たちが見つけて捕獲したらどうするの?事務所に突き出すの?」

 クロエは、その銀糸の髪をことりとかしげて聞く。彼方は、うう~んとうなった。


「他の事務所に捕まるよりかはマシだと思うけど……でも、逃がしてあげたい気持ちもあるんだよね……」

「あら。彼方ったら、妙なことを言うのね。あいつらの言ってる『自由』は、自分に都合の良い『自由』だわ。自由というのは、自分の行動に自分で責任を持つことよ。それが嫌だっていって、ぐちぐち文句を垂れるなら、そもそも自由なんて求めなければ良いのよ。大人しく、どこかの組織に属してる方がマシってものね」


 傍多の言葉に、彼方はぐうっと喉の奥で声を上げた。正論過ぎて声が出なかったのだ。


「だから、800万円は私たちのものだわ」

「それが本音かい……」

 きりっと、顔を作ってから言ってのける傍多に、彼方は首を軽く振った。この妹は、性格的には悪魔たちと似ている。


「ルガリとクロエがいれば、もしシュトラくんと戦闘になっても、勝てる?」

 ふと、彼方が、悪魔2人の方に話を振る。2人の悪魔は、少しきょとんとした後、はっきりと、

「俺たちに勝てないものはない」

「ってゆーか、ルガリはともかく、私は超強いわよ!」

 と、自信たっぷりに言ってみせた。


「……でも、なんで未だに東京から出ないんだろうな?シュトラくんは。日本を観光する立場なら、とっくに外に出ても良いはずなのに……」

 彼方がそう呟くと、ルガリが口を開いた。


「『東京大結界』だ」

「東京……?」

「天皇が京都にいた頃から、天皇のいる場所に、国の名僧・陰陽師たちが集まって、大結界を張ることになっている。これは、侵略する側から東京を守ること以外にも、東京から悪い者を出さないという意味もある。彼方、お前も天皇の写真を持ち込んであるだろう」


 彼方は、右胸ポケットを軽く抑えた。そこには、天皇の御写真がしっかりとあるのだった。


「……天皇の写真は、大抵の霊が恐れを成して逃げていくからね……」

「僧侶は当然だが、陰陽師が現代にも姿や名称を変えて国の中心に関わっていることは歴然だからな。お前たちのように、霊能事務所に所属している霊能者も多い。日本は、昔からそういう国だったんだ」


 そこで、彼方は、ふと気付いた。

「無舵さんなら……あの人なら、『千里眼』でシュトラ君たちの今の潜伏場所を知っているはずだ……。どうして無舵さんは、この件を僕らに託したんだろう?本当は、無舵さん自身に来た依頼じゃないのかな……?」

「シュトラを捕まえたくない事情があるのかもな」

 ルガリが、心底嫌そうに答える。そんなにシュトラのことが嫌いか、と彼方は思った。



 すると、電話が鳴り響いた。傍多が番号を確認すると、「彼方、あいつらの番号よ」とささやいた。


「……はい、木崎です」

「あ、あの!俺です!尾花浩樹!ヒロくんです!」


 傍多はそれを聞いて、電話機の声が皆に聞こえるよう、ワイドモードに切り替えた。

「あ、あの、俺たち、ここくらいしか頼るところなくて……!本当に虫の良いお願いだってわかってるんですけど!その……助けて、助けてください!」


 ルガリは、面倒そうに首を鳴らしたり、クロエなどは爪の手入れを始める始末だった。

 しかし、意外にも、傍多が聞き返す。


「シュトラか誰かが怪我をしているのね?」

「はい、すごい怪我で……!俺、どうすれば良いのかわからなくて……!」

「……今、どこにいるの?」

「港区です!あなたたちのマンションの近くまで来ています!」


 彼方は、傍多に「どうする?」という目線を送った。傍多は、それにうなずいて、意志を固めたようだ。


「わかりました。こっちでは大した応急処置もできないかもしれませんが、それで良いなら連れてきてください。必要なら、私たちが迎えに出ます」

「本当ですか!?あ、ありがとうございます!本当に、ありがとうございます!」

「そういうことは助かってから言ってくださいね」


 そう言って、傍多は浩樹たちの今の居場所を聞き出した。

「なにやってんのよ傍多あ!あいつらを助けるなんて!」

 クロエはそう言うが、傍多は不敵な笑みを浮かべていた。


「大丈夫よ。ここで恩を売っておいて損はないわ……!」

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