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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
19章 三者面談での誓い
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68話 職員室に鳴った電話




 授業も無い試験採点日の午前中のことだ。


「相変わらずの頑張りだな……」


 職員室の中は同じように中間テストの採点をしている先生たちが出勤していて、紙の上でペン先が走る音があちこちから聞こえてくる。


 俺の採点は他の先生たちより遅めだというのは職員室の中でも恒例になってきたようだ。


 確かに、問題を作る時にある程度の模範解答は用意してある。数学などのようにひとつの問題に必ず答えがある教科と違い、国語は解釈次第では違う答えが出てくることも十分に考えられる。


 空欄で提出されたのは仕方なくとも、何か書かれている場合は、それを読んで本人がどのように解釈しているのか、何か中間点を付けられるものがあればと探しているから時間もかかる。もちろん、時間稼ぎなどではなく、その子の考え方の個性も見えてくるからだ。


「長谷川先生、終わりましたか? お疲れ様です」


「あ、どうも遅くなりすみません」


 他の先生達も俺の採点が終わるのを待っていてくれたのだろう。


「今回の松本さんは何点でした?」


「松本さんですか……? 惜しいですね。98点でしたよ。本人のケアレスミスだと思いますが。それでも5組ではトップです」


 それに答えると、先生たちはすぐに電卓で計算していた。


「合計点では松本さん、ついに学年トップまで来ました。いや、文化祭といい、今回の結果といい、すごい子ですね」


 そりゃな……。どんなに疲れて帰ってからも夜中まで勉強してるんだ。あの子はそれを表に出さないところが他と違う。


「松本さんの人気はさらに上がりそうですね」


「男子は誰が松本さんと付き合うのかというところで持ちきりですし」


「そうですか……」


 それは俺も感じている。花菜はこれまでも誰とも交際をしないというスタンスでいる。それでも彼女と特別な関係になりたいと思う男子は多いと聞く。


「話が松本さんを中心になってしまっていますが、あまり彼女ばかり贔屓(ひいき)するわけには行きませんし。松本さんのプライベートですからね」


「ですが、なんだか『大切な人はいる』という発言があったらしくて、それが誰なんだともっぱら話題になってるみたいですよ?」


「あ、それは聞いたことがあります。だから中学時代も浮いた話ひとつなかったようですね」


 おいおい……。どこまで話が漏れているのやら。特に花菜は成績や素行で職員室の評判がいいこともあるから、問題としてみる教師はいないだろうが……。


 きっと追い詰められて苦し紛れに言ったんだろうな……。可哀想にと心の中で同情する。同時にそれは自分のせいなのだ。後で謝っておかねばと思った。


「でも、もしそれが本当なのであれば、他の女子にとっていいことなのではないでしょうか」


「ほう?」


 いい加減に視線をそらしてやれよ……と思いつつ続ける。


「これまで松本さんばかりが注目されていた中では、同じ女子でも面と向かって本人に言えず、色々な気持ちが渦巻くこともあるでしょう。誰であれ松本さんが意中に思っている人がいると全体に広がれば、これまで見向きもされなかった子も男女ともに同じ土俵に立てますからね」


「さすがお若い先生だ。確かにそういうことにもなりますな」


 どうやらそこで話が終わったようだ。




 そこに職員室の電話が鳴った。


「長谷川先生、噂の2年5組の松本さんから外線です」


「分かりました。松本さんですか?」


 瞬時に嫌な予感がした。彼女は俺のスマホの電話番号だけでなくメッセージアプリのIDも教えてある。普段の話なら帰宅してから使ってくるのに。それをわざわざ学校の代表電話にかけてくるなんて。


「代わりました長谷川です。松本さん、どうしました?」


『先生……』


「松本さん? 何かありましたか? ……どうした!? 松本!!」


 周りの先生たちが驚くのも構わず、俺は受話器に叫んだ。





 3分後、俺は学校を飛び出して通りのタクシーに飛び乗っていた。


「市民病院に急いでお願いします!」


 一刻も早く、彼女のもとに着いてやりたかった。


『お母さんが、倒れました……』


 声だけで情景が目に浮かぶ。今にも泣きそうで、それでも必死に堪えて震えながら受話器を握りしめている姿が。


「そこで待ってろ! すぐに行ってやるから!!」


 叫ぶように電話を切ってから、1分1秒が恐ろしく長く感じる。


 自分の手が白くなるほど、俺は鞄の把手を握りしめていた。



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