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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
18章 MVPの後夜祭
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67話 ここでいいのか?




 部屋の空いたスペースに、ラグマットを敷いてやる。


「はい、松本。どうぞ」


 机の影から這い出してきた彼女は、その上に制服のままうつ伏せになった。


 夏休みの空いた時間はこうして服の上からでも、筋をほぐしてあげるのが日課になっていた。その時のマットはロッカーの中に常備してある。


「肩がずいぶん張ってる。無茶してたな」


「仕方ないです。ここのところ準備で忙しくて。図書館のお仕事が終わると眠くなってしまって……」


「そうだろうな。まだここの筋が張ってる。これで楽になるだろう?」


「うん……。ありがとう……」


 上履きとソックスを脱がせて、例の左足首を動かしてみる。よし、前よりかはスムーズに動くようになってきた。



 あの合宿のあと、俺は松本を連れて自分もよく世話になる整骨院を訪ねた。理由を話して診てもらい、一緒に話を聞いた。


 足の甲のずれてしまった骨は、今のまま痛みがなく激しいスポーツなどをやらない普段の生活ならば様子を見ていてもいい。痛みが出ればその時に治せると。問題の足首は、骨は多少曲がって付いているけど、骨そのものでは致命的にはならない。その代わりにリハビリとトレーニングで足首の筋肉をつけて欲しいと言われ、この負担がなくなれば体の痛みも無くなることを教えてもらい、お互いホッとしながら帰った。


 二人でトレーニングの仕方と普段のマッサージやリハビリのやり方を教えてもらってから、俺が時間をみてこうしてマッサージをしている。花菜が料理を作ってくれた後に帰る時間までマッサージしてあげると、一週間の疲れが取れたとお礼を言って帰っていくほど習慣化されている。


「本当ならな、制服も革靴よりスニーカーとかの方が足にはいいんだろうけどな」


「あのくらい大丈夫ですよ。私も女の子ですし。革靴の方が可愛く見えますから」


「今度は靴も買ってやるから。もう秋冬物がいっぱい出てるだろ? 欲しいものを下見しておいてくれ」


 話を聞いてみると、例え買えなくてもお店を見て回るのは好きなんだそうだ。


 ただ一人で行っても本当に必要なもの以外は買うことも出来ないから、それもやめていたという。


「明日の月曜日は振替で学校は休みだ。図書館も休みだろう?」


「先生は?」


「俺は出勤で授業の準備をしたり、中間試験の問題を作りはじめなくちゃならなくて……。本当ならどこかに連れ出してやりたいけれど、ごめんな」


「実は私もお仕事です。明日は図書館はお休みなんですけれど、蔵書整理を1日します。昨日も今日もお休みをもらってしまいましたから。それより、おかずは大丈夫ですか?」


「花菜の味を知ってしまうと物足りないが、仕何とかするさ……」


 仕方ない。文化祭のために時間を使ってしまったから、この一週間は我慢ということで……。


「……分かりました。蔵書整理は9時から3時までなので、その後で先生のお家でごはん作っておきますね。冷蔵庫をいっぱいにしたら鍵をかけて帰ります」


 まさに胃袋を掴まれたというのはこのことなのだろう。


「悪いな……。ほんと、なんにもしてやれなくて」


「いいえ。本当に、今年は先生が来てくれて、凄く楽しい年になりました。個人的にもいろいろありますけど、でも学校に来るのが楽しくなったのは、先生の力ですよ? それは5組のみんなも同じです」


「そうか。それは嬉しいことを聞いたよ。ありがとうな。松本には本当に何かお礼をしてやらなければならないよ」


「そうですねー。じゃぁ……」


 松本は窓を少し開けた。外から校庭の後夜祭の音が聞こえてくる。


「先生……。一緒に踊ってください……」


「みんな待ってるんじゃないのか?」


 彼女は小さく顔を横に振った。


「ここで、先生と踊らせてください」


「分かった。少し狭いぞ?」


「構いません。大きく動く必要ありませんから」


 部屋の電気を消して、パーティションの奥で松本の手を取る。


「いつも我慢させてごめんな」


「ううん。約束したから大丈夫」


 夏合宿の別れ際、彼女が高校を卒業するとき、二人で歩き始めようとも約束をした。


 だから、心配せずに高校生活を楽しめとも。


「花菜ちゃん、頑張ろう」


「うん」


 曲が止まっても、彼女は俺の胸元からしばらく離れなかった。




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