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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
6章 忘れられない名前
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26話 忘れることのない名前




 誰もいない教室でひとり、黒板に席順を書きながら、担当する生徒の名前が書かれている名簿に目を落とす。


「えっ……!?」


 一人の生徒の名前を見て、俺はチョークを落としそうになった。


 松本(まつもと) 花菜(かな)


 さっきの職員室では「松本さん」だったからその場でさっと流したけれど、フルネームは見たことのある名前だ。


 いや、「頭の中から離れなかった」という方が正しい表現かもしれない。


 ただ、松本もありふれた名字だし、花菜という名前だって、決して奇抜な字を使っているわけではない。同姓同名の別人だということも有り得る。


 あの職員室の会話で引っかかったのは、「体育が苦手」だというところ。彼女はいつも元気に走り回る子だったから。


 ただ一方で、この名前があの「花菜ちゃん」だとしたら、状況に負けず、一生懸命に時間を重ねてくれてきたわけだから、それこそ昔のように頭を撫でて褒めてあげたいくらいだ。もちろん、彼女が昔と同じ感覚で甘えてきたらという前提ではあるけれど。


 本当にあの日に約束を交わした彼女なのか……。確かに年齢を考えれば同じだ。立地や条件にしても、彼女の家から一番近い市内の公立校だから進学先として選ぶことも十分に考えられるだろう。


 それにもし、本当に本人なのだとしたら……。


 今度こそあの約束のことが余計に引っかかる。


 あれだけ酷い別れ方をしてしまった。3年の月日が経っているのだから、忘れていることだって十分に考えられる。


 しかし考えれば考えるほど、反対にあの素直な彼女のことだから覚えている可能性のほうが高いと思う。あれだけ一緒に時間を過ごした経験を思い返すほど、彼女の性格からして、何事もなかったようにきれいさっぱり清算しているとは思えない。




 いや、そもそもの話、自分は教師になったのだから、そういうところはあってはならないことじゃないか。


 同じように教師になった先輩に聞いてみても、生徒から告白されるなんてことはあるかもしれないが、自然に同じ年代の男子を見つけて手離れしていくからと。


 間違っても教え子を相手に過ちだけは犯すんじゃないと。あれはドラマの中の話だと念を押されていたほど。


 それは絶対的に正しいのだけれど、その一方で自分と彼女だけは違うのではないかという自分勝手な考えも頭の中に顔を出す。


 いや、でも、学校というオフィシャルな場でオープンにするべきものではないだろう。


 俺は再び名簿の松本花菜という名前に視線を落とす。


 本当にあの花菜ちゃんかどうか、明日になってみれば分かることだ。その結果でこの先のことは考えればいい。


 黒板を書き終え、用具置き場から各教室分の掃除道具などを運んできたりと作業をしていたら、午後の日差しだった窓の外はいつの間にか夕暮れを迎えつつあった。


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