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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
6章 忘れられない名前
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24話 家庭教師ごっこは役立った




「啓太、この子は花菜ちゃんって言うの。放課後はうちで預かることにしたから、何かあったら相談にのってあげてくれる?」


 あれは長かった冬が過ぎて、少しずつ春の足音が聞こえていた頃の話だったか。


 彼女が初めて家に連れてこられたとき、最初は特に理由も告げられず親から面倒をみることを頼まれた。


 それがよくよく話を聞いてみると、父親を亡くしてしまった訳ありの女の子という印象に変わり、断る理由がなかったというのが正直なところだった。




 それから放課後に毎日接してみると、控え目でなかなか思うことが言えないけれど、根は本当に素直な子だとすぐに気づく。


 6歳という年齢差も、彼女の成長につれて少しずつ感じなくなった。



 本当は年相応に甘えたい盛りにも関わらず、家庭の事情でそれが叶わない。


 いつもどこかで我慢をしていて、誰にも吐き出すことが出来ないと分かってから、少しでも彼女が笑えるように接してきたつもりだ。


 おとなしそうに本を読んでいたけれど、本当は外に出るのが大好きだと分かり、公園やプール、ときどきは小遣いをもらって遊園地にも出かけた。


 あの当時はまだ彼女の家の収入も少なくて、年相応の可愛いアクセサリーなども買うことが出来なかったから、一緒に雑貨店に行ってはヘアゴムなどを買ってあげたこともある。


 いつの間にか「お兄ちゃん」と呼び名が変わり、健気についてくる花菜ちゃんは一人っ子の俺には本当の妹のようにも思えたし、彼女もそう慕ってくれるのは嬉しかった。


 毎年4月の誕生日は春休み中。こういった長期休暇の時は、朝からやってくる。だからこそ、小さかったけれど誕生日ケーキを二人で買いに行き、おやつの時間に一緒に食べたりもした。



 その一方で、同級生の中には俺の付き合いが悪いと言ってきた奴がいなかったわけじゃない。


 だけど、定期試験や受験というものを目前としたとき、「勉強はしていない」「自信がない」というような、お約束の周囲に気を使った発言をしつつ無駄な時間を過ごす必要もない。


 学校が終われば、家に帰って花菜ちゃんの宿題を一緒に考えたり、その横で自分の勉強をしていたほうがどれだけ気楽だったか。


 花菜ちゃんは、俺の定期試験のときは、宿題を済ませてから大人しく本を読んでいて、たとえ俺が居眠りをしていても何も言わなかった。


 そんなときは「頑張ってね」といつもお菓子……と言っても飴玉とか個包装のクッキーなどだが……を置いてくれていたっけ。


 そんな彼女との一緒に時間を過ごせて、勉強を教えるだけでなく、年下の悩みにも乗れるようになっていったことは、後の教職課程に進んだときに大いに役立ったくらいだ。



 だから、本当はそんな大切なことを教えてくれた彼女の傍から離れることは本望ではなかったんだ……。


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