164話 今日だからってそれはないよ!
ホームルームが終わって、追い出しのチャイムまでは教室を自由に使って構わないことになっているから、自由参加で残ったメンバーで謝恩会兼卒業パーティーを開くことになっていた。もちろん誰も帰る人なんかいない。
「松本、足はもう大丈夫なのか?」
「ありがとう。あの時に言ってくれたからまた頑張れたよ。正直『またやっちゃった』だね。ちょっと失敗だったかな」
内田くん、本当に彼がいなかったらきっと私はまだ完全にやり尽くすことは出来なかったと思う。
「松本……、あのさ……」
「うん?」
「松本って、誰か付き合っている人いる……?」
「えっ? 突然そっちぃ??」
この期に及んで、みんなの前で公開プロポーズ?
千景ちゃんが顔を真っ赤にして笑いを堪えている。もぉ、千景ちゃんは分かってるじゃん!?
「内田、言っちゃえ! 今日しかないぞ!」
「そうだ、最後のチャンスだぞ!」
もぉ、外野は勝手だよ。絶対にみんなでけしかけたんだよね! 今すぐにでもこの場から逃げたいくらい!
「松本さん、ずっと好きでしたっ! 付き合ってください!」
「おぉー!」「言っちゃった!」
クラスに歓声があがる。あーあ……。当然のように、視線は私に向けられるよね……。
「ねぇねぇ、花菜の返事は?」
「何よ突然!? ……えっと……」
どう答えたらいいのよ! もう話してもいいの? それとも? あぁん! それを教えてくれる人が肝心な時にいないじゃない!
「おぉ、なんだか盛り上がってますね」
そこに長谷川先生がゴミ袋を持って教室に戻ってきた。
「先生! 内田の公開プロポーズ中です!」
「それはまた大胆な。お相手は誰ですか?」
「あーーーっ!」
その質問に答える前に、別の驚きの声が先生の隣からあがった。
「どうした?」
「先生が結婚指輪してる!」
「えーっ!!」
「えっ?」
みんなの驚きと同時に私も顔を上げる。だってあの指輪は学校の時はしないって……。
「先生、結婚おめでとうございます!」
「結婚式いつですか?!」
「女子大生の彼女さんも卒業なんですね?」
話は当然のようにすり替わって、頭をかく先生。もぉ、最後まで黙っておくって校長先生との約束はどうするの?
「これはこれは、5組も盛り上がってますね?」
「校長先生!」
校長先生が笑っている。どうやら、状況を分かっているみたいだ。
「長谷川先生に指輪をつけろといったのは私ですよ。もういいでしょう。ちゃんと約束は守りましたからね。松本さん、橘さん。ちょっと廊下へお願いします」
「は、はい……」
千景ちゃんと二人で外に出ると、大きな箱が廊下に置いてあった。
「これ……?」
「花菜、急いで! 制服全部脱いで!」
「へぇっ!?」
千景ちゃんはそう言いながら、訳が分からない私とその箱を隣の教室に押し込んだんだよ。




