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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
33章 電話と浴衣とサンダルと
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128話 血の気が引いた電話




 みんなの頑張りもあって、お昼前にはあらかたの下準備が終わり、あとは暗くなるのを待つだけになった。


 千景ちゃんと一緒にシャワーを使わせて貰おうと一息ついたときだ。


「花菜ちゃん、電話だよ?」


「はーい」


 呼ばれてスマホを手に取ると、見なれない番号が表示されている。


「はい」


「こちらは神奈川県警港北警察署です。長谷川啓太さんの奥様のお電話でよろしいでしょうか?」


「はい……」


 警察署から電話? 一瞬で頭の中が混乱で一杯になる。


「長谷川啓太さんが、先ほど交通事故に遭われまして…………」





 その後のことは正直思い出せない。



 近くで私の突然の異変に気づいた結花先生が電話を代わってくれて、すぐに貴重品だけをまとめてタクシーに押し込んでくれたという。


 もちろん、そんな非常事態だったから、結花先生も一緒について来てくれた。



 長谷川先生が交通事故に巻き込まれて救急車で運ばれたという連絡。


「結花先生、私……、どうしよう……」


「大丈夫。大丈夫だから」


 真っ青な顔で、メイクも何もしていなかったけど、とにかく病院で状況を確かめなくちゃならない。


 お願い……。無事でいて……。


 小さい頃からの約束を守ってくれて、いろいろ苦労も二人で乗り越えて、私が18歳になった誕生日当日に入籍もした。


 せっかく一緒に暮らし始めた。あと半年と少しで高校も卒業する。卒業式が終わったら二人で手を繋いだり、大手を振ってデートや旅行もしよう。恋人時代にやりたかったことを取り戻して、夫婦でいつも一緒にいようって話しているのに。


 それなのに……、また一人にされちゃうの? この歳で未亡人と呼ばれちゃうの? それに、もしお葬式なんてことになれば、お母さんに続いて私が喪主になる。ここまでの苦労も全て消えてしまう。


 もう嫌だよ。


 私のことをあんな子供だった時から想ってくれて、私の全てを包み込んでくれた人は他にいないのに。


 部屋で私が落ち込んでいると、仕事で疲れていてもいつもお布団の中で私が寝てしまうまで抱きしめてくれている。あの温もりに慣れてしまった私。誰も帰ってこない部屋で一人の生活には戻れないよ。


 お母さんの時もそうだったよ。また同じようにみんな私の前から突然いなくなってしまうの?


 今朝は『車に気をつけて』って送り出してくれたのに、皮肉すぎるじゃない……。


 握りしめた両方の拳が真っ白になるほど、私は落ち着きを失っていた。





 救急車で運ばれたという病院に着いて、結花先生が受付に話をしてくれる。


「ほら落ち着いて。あなたは長谷川啓太さんの奥さんなんだからね。しっかりしないと」


 いつもより厳しい言葉をかけてくれた結花先生。


 わざとだってわかってる。これも結花先生の心遣いなんだと。


「はい」


 そのおかげでなんとか気力を振り絞る。まだ泣いちゃいけない!


「長谷川啓太さんの奥さまですね。こちらですよ」


 迎えに来てくれた看護師さんのあとに続いて処置室のドアを入った。



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