114話 誰もいない一瞬に渡された…
私たちのコースも順調にポイントを回っていき、残るは二つだけになった。
グラバー園と大浦天主堂を回ればコースは全てクリアしたことになる。
なぜ最後に残したかというと、この二つが坂の多い場所に立地しているのが理由。最初に疲れてしまうと他を回る気力も無くなっちゃうからね。
日本で初めての洋風木造建築史跡とされているグラバー園。もちろん旧グラバー住宅、旧ウォーカー住宅などを含めて建物の歴史的価値などもあるのだけれど、私はその庭からの眺めに見入ってしまった。
もともとの外国人居住地でも一番高台にある場所。その景色は港街・長崎を一望できる。きっと夜景は素敵だろうし、なによりも庭にはバラの花壇も整備されていて、旬の時期に来ればまた違うのだろうと思った。
「さぁあまり時間がありません。そろそろ行きましょうか」
「先生?」
千景ちゃんがお手洗いに行っている間、隣りにいる先生に小声で話しかける。
「はい?」
「また、連れてきてくださいね」
「そうですね。また来ましょう」
何なのだろう。言葉少なく坂を下りて、その麓にある教会を目指す。
大浦天主堂、こちらも国内で現存する最古のキリスト教会建築物で、今は国宝にも指定されている。
階段を上がって、チャペルの中に足を踏み入れると、思わずその幻想的な光に見入ってしまった。
「綺麗です……」
「確かに。このステンドグラスは朝じゃ分からないね」
そう、私たちがここを最後にしたのにはもう一つ理由があって、夕日が差し込んだときのステンドグラスからの光が幻想的だと書いてあったから。
ステンドグラスはその製法上、全く同じものを作ることは出来ない。このチャペルのステンドグラスは、戦災や台風で破損してそのたびに補修されてきているから、今見ている物は4代目ということ。
もう閉館に近い時間帯で、中にいる観光客は私たちだけだった。
「松本さん、こちらへ来てください」
いつの間にか、先生が一番奥の祭壇の前まで進んでいた。
「橘さんも、近くまでどうぞ」
「また面白そうなことするんですね?」
先生は私と向かい合って立っている。上着の内ポケットから小さな箱を取り出した。
「ようやく今日、こっちを正式に渡せるようになった。これからもよろしくな」
「はい……。ずっと一緒にいさせて……?」
クリスマスの時のエンゲージリングのようにリングの外側に石をつけたデザインとは違う。シンプルだけど、ずっとつけていられるように埋め込みで固定してあるプラチナのマリッジリングを私の左手にはめてくれた。もちろん薬指にだよ。
そして、今度の石は同じ透明な物だったけれど、その石言葉は「純愛・永遠の絆」。ダイヤモンドだった。
「花菜ちゃん……」
「前のも今回のも、ずっと大事にするから……。こんな私に……ありがとう……」
ステンドグラスのマリアさまの前。私はようやく手にした安心できる腕の中で涙をこぼしていた。




