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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
26章 クリスマスイブの予約
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100話 冬休みも宿題しに行きますね




 港に戻った船を降り、横浜港のイルミネーションを眺めながら駅まで歩こうと手をつなぐ。


 時間はもう夜9時を過ぎている。それでも特別な夜だからか、まだたくさんの人が思い思いの時間を過ごしている。


「こんなところに二人でいるのを見られたら大変じゃないですか?」


「今日はみんなお互いのことで精いっぱいだ。他の奴のことなんか気にしてない。それに、花菜ちゃんがそんな服でメイクまでしているなんて他の奴でも分からない」


 そう言って昔と同じように笑って手を引いてくれる。


 ううん、昔とは違う。私の左手には銀色の指輪がつけられているんだもの。


「それ、しばらくはお預けで悪いな」


「仕方ないですよ。あの……、これ高かったですよね?」


 クオーツ・クリスタルはダイヤモンドはもちろん他の石と比べても、宝石自体のお値段はそれほどではないけれど、指輪としてアクセサリーになれば別で、高校生でも軽々と手を出せるものじゃないよ?


「給料3カ月分かな」


「え? そんなに高いもの……」


「冗談だ。そんなに高いものじゃない。結婚指輪はダイヤモンドでちゃんと作ってやるから」


 4月の誕生石はダイヤモンドが有名。だけどまだ私には早いと思ってこれにしてくれたみたい。でも、これは偶然にも私の誕生日石でもあるし、石言葉にも「純粋」「無垢」が入っている。パワーストーンとしても「浄化」や「守護」とかが並ぶ最強部類だ。


「もぉ。私にはおもちゃでいいんですよ? 本当に嬉しい……。こんな私にはもったいない……」


 お兄ちゃんは私の頭に手を置いて、顔を横に振った。


「花菜ちゃんはもっと自信を持っていいんだ。今日だって、最初別人かと目を疑ったんだぞ?」


 自分だってここまで変身できてしまうとは思わなかった。


「でもね、それは結花先生とかのおかげですよ」


「正確には少し違うな。ちゃんと花菜ちゃんが大人になってきてるってことなんだ。服も化粧もよく似合ってる。これからは誰にも横取りされないように気をつけておかないとな」


「こんな私、誰も横取りなんかしませんよ」


「違う、逆だ」


 私の手を握る力が強くなる。


「俺も言葉だけじゃなく、ちゃんと《《花菜》》を迎える準備をする。そうしないと花菜をまた悲しませてしまう。もうあんな思いは二度とごめんだ」


 名前を呼び捨てにした私を『迎える』準備。そこまで言ってもらえるところまでようやくたどり着いた。そんな私は幸せ者だよ。


「その気持ちだけで私は充分幸せです。だからちゃんと受け取ってくださいね?」


「約束だ」


 結局、最終のバスには間に合わなくて、仕方なく駅から二人で歩いた。


 誰もいない商店街で手を繋いだまま走ったり、こんなにはしゃいだのは何年ぶりだろう。


「長谷川先生と将来を約束をした。私でいいのかな……。私は先生に迷惑かけないかな」


 あの結花先生ですら旦那さまの足を引っ張らないようにと高卒の資格を取ったりしたんだ。私なんかもっと努力しなきゃならないよね……。


「俺が松本を選んだんだ。そのままでいい。入籍はいつでもいいが、公表は卒業後だろうな」


 入籍……。中学生の頃はあんなに遥か遠くにあった言葉。一度は自分にはもう関係ないとさえ思ったりもしたのに。


「先生、本当にご両親は賛成していただけているんでしょうか?」


「大丈夫。そうだ、今度の年末年始に一緒に帰省しよう。久しぶりに顔を見せておきたいし、花菜を一人でこっちに残して帰省はできないと思っていたところだ」


 珠実園の前に着いて、通用口を開ける。


「今日はありがとうございました。また学校でお願いします」


 冬休み、本当は部活で行く必要もないのだけど、お昼休みまでは冬休みの宿題をやりに行くという名目で部室に行くことを伝えていた。もちろんお弁当の復活も約束した。


「もう遅いから、風邪をひくなよ?」


「はい。先生も気を付けて帰ってくださいね。おやすみなさい」


 私は、門のところから先生が見えなくなるまでいつまでも見送っていた。


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