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アンチヒーロー・ディストラクション -成り代わりシリアルキラーは異世界でも愉しみたい-  作者: ゆつみ かける


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第33話 サプラ〜イズⅡ

「ここか……」

 

 最後の屋根から飛び降り、石積みの塀の上から目的の建物を見下ろす。村の中心部から少し離れた粗末な小屋。もともと物置にでも使われていたのか、雑な板張りのあちこちから下品な笑い声と灯りが漏れている。地面に降りて小屋に近づいた。壁に背中を預け、聞き耳を立てる。


「ほら! ほら! 言ったとおりだったろ!? 俺ぁ見たんだよ! 昼間! こいつの瞳を! 嘘じゃなかったろ!?」


「ちっ、本当に魔族が入りこんでたのか……」


「すげ~、俺はじめてサキュバス見た。やっぱ人間離れしてんなぁ」


「なぁ、首のこれなんだ……? 刺青か? 気持ち悪いな」


 昼間。ああ、宿に向かう前に絡んできたあの二人組がいるのか。転んだ拍子にサラヴェリーナの顔を見られていたらしい。ただの欲求不満のモブだと思っていたが、ここまでするとは。雑魚(ザコ)ほど群れると加減を見誤って調子に乗る。

できるだけ大きな隙間を探しだし、膝をつき中の様子を伺う。数本のロウソクだけが灯された室内。四人の男たち。暗くて顔はよく見えない。剣を装備しているのはひとり。後ろ手に縛られ口にロープを噛まされたサラヴェリーナは、床にひざまづいて男たちを見上げている。


「ま、まじでサキュバスなんだよな!? な!? じゃあ、じゃあ、いいんだよな!? 俺ぁもう待てねえよ!」


「こいつらはそのためにいるんだろ。魔族相手になにしたって罪になんねーよ。おいカロ、脱がせろ。さっさと始めるぞ」


「わかってるって。……うわっ、こいつ本当に下になにも着てねえじゃん! さすがサキュバス~」


「んうっ! んーーーー!!」


 カロと呼ばれた男がしゃがんでサラヴェリーナの外套を開いた。体に伸びてきた手を避けようと身をよじる様子を見てニヤついている。うしろで指示を出していた男が舌打ちと共に一歩踏み出し、抵抗をやめようとしないサラヴェリーナの髪を掴む。頬を平手で思いきり打ち、ブーツを履いた足で胸元を蹴りつけた。


「サキュバスの分際で嫌がってんじゃねーよ! 人間様が相手してやるっつってんだろ! 黙って犯られてろ!」

 

 取り巻きから笑いがおこり、こちらに背を向けて倒れこんだサラヴェリーナの肩が震えている。静かに壁から離れて立ち上がった。

 

 「人間様が相手を――」

 「魔族にはなにをしたって――」


 なるほど。このどうしようもない差別思想がこの世界の普通(スタンダード)なら、あいつの置かれている立場の危うさも察せる。

 これがお前の助けようとした村人の正体だよサラヴェリーナ。 いまでもその価値があると思えるか? 片鱗は見えていたのに、俺の言うことさえ聞いていればそんな安い連中に触られず済んだのに。くだらない道徳心に従った結果がこれか。

 腰に差した酒瓶を手にとる。小屋のなかに男は四人だけ。いままさにお楽しみが始まろうとしているのに姿を見せないもう一人は、正面で見張りに立っている。


 

***



 「ひっ……!」


 ぼんやりと星空を眺め、大あくびをかました男の背後に近づいて酒瓶の切っ先を首筋に押し当てた。情けない声をあげながら咄嗟に剣を抜こうとする手を上から握り潰すように押さえつける。

 

 「やめとけ。抜けばもっとひどい目にあう。指を無くしたいか?」


 耳元で囁くと、男は喉元を気にしながら頭だけで何度も頷いた。切っ先を当てたまま襟首をつかみ扉の前まで歩かせる。


「開けさせろ」


「……っ」


 ぶるぶる震える拳がリズミカルに扉をノックした。一回、四回、二回、仲間であることを知らせる合言葉代わりらしい。

 

「ああ!? なんだよ!」


 中から苛立たしげな声。それから素直にこちらへ向かってくる足音。 誘拐と暴行を実行に移す無謀さは備えていても、身の危険を知らせる機転は利かない。こんなマヌケに見張りをさせるくらいなら野良犬でも置いといたほうがマシだ。


「おつかれさん、お別れだ」


「待っ――」


 見張りの男の口を片手で鷲掴みにして塞ぐ。抵抗を抑えこみながら、もう片方の手で酒瓶を頸動脈めがけて捻じこんだ。柔らかな皮膚を裂き、筋肉と血管を引きちぎる振動がガラス越しに伝わってくる。瓶へ流れこんだ血がトポトポと軽快な音をたてて飲み口から足元へ注がれた。

 腕の中で男の体が痙攣し、見開かれた瞳から光が消えていく。ああ、脳を痺れさせるこの充実感。回路が繋がり、ぼやけた世界が色と輝きを取り戻していく。これだ。これがもっと見たい。これがもっと欲しい。

 

「なんだよ、またヤギが逃げてんのか? いまいいとこ――」


 扉が開いたと同時に酒瓶を勢いよく喉元から抜き取る。鮮血が噴きだし、出てきた男の顔を真っ赤に染めた。


「よお、カロ」


 笑顔で挨拶しても、目ん玉まで血に濡れたカロは唖然と見上げてくるだけ。サプライズゲストには慣れてねえみたいだな。


「俺なしでお楽しみを始める気だったのか? 誘ってくれりゃあ、いいのによ!」


 死体の腰に吊るされた剣を引き抜きながら、背を蹴って思いきり小屋の中へと押し込む。

 テーマパークに向かうガキみたいに胸をはずませて会いにきたんだぜ。さあ、俺のために叫んでくれ。俺のために死んでくれ。お前たちの命で俺を生き返らせて、()()()()()()にしてくれよ。

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