桜餅戦争―変わりゆくもの、変わらぬもの―②
やがて食事が終わり、潮音が箱を取り出した。
「デザートいくぞ。花見といえばこれだろ」
開かれたのは、桜餅。
よい。 実に、よい。
春の下で食うには、これ以上ない。
――だが。
「……ちょっと待ちなさい」
カレンの声が低く落ちた。
「これ……全部、こし餡?」
「え? ああ」
「全部!?」
空気が変わった。
「なんでよ!!粒餡は!?」
「いや普通こし餡だろ!?」
「普通で済ませるな!!」
……おや。 先ほどとは違う。
これは―― 争いの匂いじゃ。
「当然だ」
夜翔が言い放つ。
「桜餅において、こし餡は必然。 滑らかさこそが、この料理の理」
「はぁ!?」
「粒は乱れだ。不要」
「乱れですって!?」
炎が、カレンの瞳に灯る。
「粒があるから“味が生きる”のよ!!小倉トースト見なさいよ!あれが完成形よ!」
「別の料理だ」
「うるさい!!」
「……こし餡が最適解」
真白が淡々と口を挟む。
「舌触り、粘度、甘味分布――すべて均一。 粒はノイズ」
「ノイズじゃないわよ!!」
「……事実」
「風向き荒れてきたなぁ」
タクトが肩をすくめる。
「俺は粒かな。抹茶大福とか、いいだろ?全部溶け合うのに、ちゃんと違いが残る」
「みゅ!」
ジンが元気よく鳴く。
「どら焼き派だってさ」
潮音が訳す。
……なるほどのう。
甘味でここまで熱くなれるとは。
若いというのは、実に眩しい。
――が。
「……全部混ぜればよくない?」
潮音が言った瞬間。
わしは、嫌な予感がした。
◆
「できた」
出てきたのは――なんじゃ、あれは。
氷、豆、白、黄色、黒、桃色。
甘味が層になり、
もはや何が主か分からぬ。
「沖縄ぜんざいベースに――」
説明が耳に入らん。
ただ一つ分かる。
これは――異物じゃ。
「全部美味いんだから足せば最強だろ!」
「……混ぜるな」
夜翔の声が、静かに落ちた。
「秩序が死ぬ」
「……非合理」
「事故よ!!」
「風が……濁ったな……」
「みゅ……」
ジンが、一歩下がった。
……おお。 正気がおった。
安心した。
――その次の瞬間。
ぼっ、と炎が灯った。
「潮音……」
カレンの声が低い。
「燃やされたいの?」
「いやいやいやいや!!」
待て待て待て待て!!
それは、まずい。
炎が、こちらへ向く。
幹が、軋む。
花びらが、揺れる。
「ま、待て待て待て待て待て!!?」
わしは叫んだ。
当然、届かぬ。
――終わる。
ここで終わるのか、わしは。
粒餡かこし餡がきっかけで。
その時。
「よせ」
夜翔は、刀の柄に手をかけた。
親指で、ほんの僅かに鍔を押す。
――“抜ける寸前”。
空気が、張り詰める。
誰も動けない。
彼はそのまま、
刀を抜かずに止めた。
「桜を焼けば、この論争は意味を失う」
ゆっくりと、
柄から手を離す。
それだけで、
炎が止まる。
「……」
カレンが、息を吐く。
「中二病のくせに、正論言うなっての」
炎が、消えた。
……助かった。
本当に、助かった。
◆
「……で、結局どっちなんだよ」
潮音が言う。
「粒もこしも、いずれは散る」
夜翔が桜を見上げる。
「だからこそ――」
「……さっきと矛盾」
「餡が散るって全然意味わかんない!」
「何が言いたい!」
「風も分かってないって言ってる」
「みゅ!」
沈黙。 そして――笑い。
……ほっほ。
よい。 実によい。
◆
やがて、彼らは帰っていった。
風が戻る。
花が静かに落ちる。
わしは、ゆっくりと枝を揺らした。
違いは、争いを生む。
形は変わり、やがて消える。
じゃが――
変わらぬものも、確かにある。
笑い声。
同じ卓を囲むこと。
誰かと“美味い”を分かち合う、その心。
「花は散るが……あの子らは、散らんのう」
形は変われど、あれは残る。
それが――
この世界に許された、
変わらぬものなのかもしれん。
こんばんわ、アトレイです。
今回のテーマは、、、
こし餡かつぶ餡か
でした。
私は断然、こし餡派です。
でもね、、
先日、名古屋に行った時に
美味しい和菓子屋さんを見つけたんですけど、
ここのつぶ餡が美味しいのなんのって…
なんて言うんですか?
やっぱり豆の風味を味わうなら
つぶ餡なんでしょうね。
まぁ、、、
美味しければ何でもいいんですけどね。
同じ羊羹でも、
つぶ餡に適した設計がなされているわけで、
それが調和ってやつなんでしょうね。
知らんけど(おい
そんなこんなで、次回もお楽しみに。
でわでわ。




