表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この問題児たち、危険度SS級につき  作者: AtoRei


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/18

10-2. シュークリーム懐柔作戦 ―包まれし甘味は、和解か混沌か―②



「当然、生クリームよ!」


 カレンが腕を組み、胸を張る。


「軽くて、口に入れた瞬間にほどける。あの一瞬の幸福感こそ完成された美だわ。シュークリームっていうのは、“食べた瞬間にうまい”って言わせるためのものなの」


 夜翔(やと)が静かに目を閉じる。


「……浅い」


「はぁ?」


 カレンの眉が跳ね上がった。


 夜翔は指先で湯呑みをなぞりながら、低く言う。


「生クリームは刹那だ。口溶けは早く、余韻が薄い。味は線でなければならない。持続しない幸福に理はない」


「何その中二病みたいな理屈!?」


「事実だ」


 真白が、ぽつりと口を挟む。


「……カスタードの方が合理的」


 短い一言に、空気が少し冷える。


「卵、乳、糖。構造が明確。再現性が高い。味の輪郭が崩れない」


 ひと呼吸。


「……生クリームは、ただの雰囲気」


「雰囲気って言うな!!」


 カレンが机を叩いた。


「ふわっとしてるからいいのよ! あの軽さが上品なの!」


「……不安定」


「それを美って言うの!!」



……もうすでに、小競り合いは始まっていた。


 私は静かに天を仰いだ。


 やはり始まっていたか、この地獄。


 インターホンを鳴らすべきか考えていると、玄関の向こうで慌ただしい足音がした。


 扉が開き、現れたのは潮音(しおん)だった。


 彼は私の顔を見るなり、心の底から救われたような顔をした。


「うわ!! 助かった!! ハロルドさん!!」


「潮音くん……君だけだ、その反応は」


 私は年甲斐もなく、少し泣きそうになった。


 そのまま、食堂へ通される。


 全員の視線がこちらへ向く。


 痛い。


 物理攻撃ではないのに、視線が痛い。


 カレンが眉をひそめた。


「アンタ、誰?」


 心の奥に何かがグサリと刺さった。


「以前、プリンで来ただろう!」


 思わず声が出た。


 夜翔たちが続く。


夜の書(ノクス・コード)にはお前の記述は残っていない」

「……地味」

「風に流れたねぇ」

「みゅー??」


 私は軍人として、かなりの精神的損傷を受けていた。


 だが、今日の私は違う。


 私の膝は屈しない。


 なぜなら、今回は勝算がある。


 私は静かに箱を差し出した。


「今回は――これだ」


 《月雲堂(つきぐもどう)》特製、Wクリームシュー。


 空気が変わった。


 夜翔が目を細め、真白がじっと箱を見て、カレンが腕を組む。


ーーよし。


 反応は悪くない。


 私は確信した。


「生クリームか、カスタードか。その二項対立は既に超えた。両方を包摂する第三の選択――」


 箱を開き、私は視線を落とす。


 そこにあったのは、黄金色の焼き目。


 ざらりとした表面。

 香ばしいバターの匂い。


……少し、表面が派手だな、とは思った。


 だが、シュークリームであることに違いはない。


 問題はないはずだ。


「……待て」


 夜翔のその低い声を聞いた瞬間、私は本能的に「終わった」と理解した。


 真白が箱を覗き込み、淡々と告げる。


「……クッキーシュー」


 その言葉に、カレンの瞳がすっと細くなる。


 潮音が、終わった、という顔をした。


 私はその全員の反応を見て、ゆっくり理解する。


 ……待て。


 これは、まずいやつか。


 普通のシュークリームでは、ないのか。


 いや、同じだろう。


 中にクリームが入っていて、外がシュー生地で。


 多少、表面が香ばしいだけではないのか。


 なのに、


 なぜそんな顔をする。

 なぜ全員、私を見る。


 嫌な汗が背を伝う。


 ああ……そうか。


 今度はそこなのか。


 中身ではなく、“皮”。


 なぜ甘味は私に、いつも新しい地雷原を用意しているのだ。


 カレンが一歩、前に出た。


「ハロルドとか言ったわね」


「……なんだ」


 炎の気配が、静かに膨らむ。


「……アンタ」


 その声音だけで、胃が痛い。


「なんでそこでクッキーシューなのよ!!」


 喉が、ひどく乾いた。


 遠くで潮音が、もう駄目だ、という顔をしていた。


 私も同意見だった。



観測記録:個体群《問題児》

補助観測対象:《国家連合》中将 ハロルド・グレンフィールド

案件名:シュークリーム懐柔作戦・再試行


結果:失敗。


……うん、知ってた。


今回はけっこう成功率高いと思ったんだけどなぁ。


前回の焼きプリンで、ハロルドくんは少し成長した。

少なくとも、紅茶かコーヒーで人生を壊した男にしては頑張っていた。


だから私は思った。


人は、プリンで強くなれるのではないか、と。


甘かった。


いや、シュークリームだから甘いんだけど。


生クリームか、カスタードか。


その二択に止まり、Wクリームという救済に涙ぐみ、ものすごく勝った顔で禁足地へ向かい、クッキーシューで全部爆発した。


完璧だった。


芸術点が高い。


さすがにちょっと笑っちゃったよね。


いや、観測者としてはよくないんだけど。


でもあれは無理でしょ。


あの顔で行ったんだもん。


それにしても、少し困った。


また、接触してしまった。


私は本来、観測するだけの側だ。


干渉しない。選ばせる。見るだけ。


……のはずなんだけど。


「Wクリームがあります」


って、あれ完全に助けちゃってるよね。


よくない。


すごくよくない。


でもあの顔されたら、言うでしょ。


あんな絶望した顔でショーケースの前に立たれたら、さすがに。


仕方ない。


たぶん仕方ない。


うん、たぶん。


《国家連合》は人類を守ろうとしている。


《ヴィラン連合》は人類を支配しようとしている。


《問題児》たちは、たぶん一生おやつを食べてる。


あと喧嘩してる。


たまに世界が揺れる。


かなり迷惑。


でも、面白い。


この星を任せるには不安すぎるけど、見捨てるには面白すぎる。


……力、与えすぎちゃったかもしれないなぁ。


まあ、いいか。


次はたぶん、クッキーシュー論争かな。


未来が見える。


すごく嫌で、すごく見たい。


ほんと、人類って飽きないなぁ。


さーて、と。


私もシュークリーム食べちゃお。


観測継続っと。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ