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この問題児たち、危険度SS級につき  作者: AtoRei


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8-2. おにぎり戦争 ―選択は、日常に潜む―



二軒目。

ヘブンイレブンス。


自動ドアが、音もなく滑らかに開いた。

店内は白い。

照明がやけに均質で、床も棚も光を均一に返している。

パンの甘い匂いも、揚げ物の油の匂いも、妙に遠く感じる。


「いらっしゃいませ」


レジに立つ店員が、こちらを見ていた。


笑っている。

口角は正確に上がっている。

だが、まばたきをしない。


潮音の足が一瞬止まった。


「……紅鮭、ありますか」


「在庫、ありません」


返答が速すぎた。確認する素振りすらない。


「塩むすびは?」

「在庫、ありません」

「補充予定は?」

「未定です」


声に抑揚はない。

いや、あるように調整されているのに、感情が宿っていない。

まるで“接客の形”だけを完璧に模倣している。


潮音の背筋に薄い冷気が走った。

棚を見る。

昆布。おかか。ツナマヨ。


そして――


アボカド&パクチー。


またある。


しかもここでも、売れ筋のように面を揃えて綺麗に並んでいる。


「……またお前か」


「おすすめです」


唐突だった。

潮音が振り向く。

気配もなく後ろに立っていた店員は変わらず笑っていた。


「アボカド&パクチー。おすすめです」

「……え?」

「観測上、個体・潮音との親和性が高いと――」


不自然な間。


「予測されます」


心臓が跳ねた。


「……今、何て言った?」

「おすすめです」


笑顔は完璧だ。

だが、その目の奥に“人”がいない。


(なんだ、こいつ……なんで俺の好みを知ってる?)


違和感だけを残して、店員は再び静止した。

潮音は数秒立ち尽くしたが、すぐに歯を食いしばった。


(今は考えるな。カレンの紅鮭が先だ)



店を飛び出し、角を曲がったところで、別の気配に足を止めた。

街路の先に、銀を思わせる整った軍服。

白銀の剣を下げた男が、静かに街並みを見渡している。


ハロルド・グレンフィールド。


光律剣将(こうりつけんしょう)》の異名を持つ国家連合の中将。

そのはずなのに、今はどこか疲れた様子だった。


「……何してんだ?」


潮音が問う。

ハロルドはすぐには答えず、視線を禁足地の方角へ向けた。


「次は何を持っていけば、あいつらが機嫌を損ねずに済むのか……そんなことを考えていた」


心底疲れた声だった。


「で、もうダメそうだと?」


ハロルドは短く息を吐く。


「禁足地の気圧が変わった。お前が戻る前に、何かが決壊するだろう」


そして、潮音を見る。


「急げ」


その一言に、妙な重みがあった。



三軒目は、小さな個人店だった。

古い看板、少し狭い通路。

けれど食品の並びには人の生活の熱があった。


潮音は飛び込むように棚へ向かい――


「あった!!」


紅鮭。

塩むすび。


胸の奥から息が抜けた。


その隣に、当然のように――


アボカド&パクチー。


「……なんなんだお前」


ここでも一番見やすい位置に、美しく前を向いて並んでいる。

緑のラベルが照明を受けて光っている。


(人気なのか?売れ残りなのか?どっちなんだよ……!)


答えは出ないまま、とりあえず、全部確保した。



帰路。

潮音は氷の道を足元に生み出し、一気に加速した。

青白い氷が路面を覆い、靴底が滑るたびに風が裂ける。

街並みが線となって後ろへ流れていく。

その途中、遠くで空気が裂ける音がした。 


(始まった……!!)


「頼む!!間に合ってくれぇぇぇ!!」



邸宅に戻った時、すでに食堂の空気は正常ではなかった。

カーテンが炎のない熱で揺れ、コップの水面が小さく震え、天井近くでは風が渦を巻いている。

真白の結界が、まだ展開されてもいないのに空間を軋ませていた。


「遅い!!」


カレンの声が飛ぶ。


「帰った!!」


潮音は袋を卓上に叩きつけた。

中から一つずつ取り出す。

昆布。紅鮭。塩むすび。おかか。ツナマヨ。


そして最後に、


アボカド&パクチー。


沈黙。 


「……なんでそれだけ、どの店にもあったのよ」


カレンが眉をひそめる。


「……補充、されすぎ」


真白がぽつりと呟く。


「風向き的に、妙に作為を感じるなぁ」


タクトが包装をつまんで光にかざした。

夜翔はそれを一つ手に取り、緑のラベルを無言で見下ろす。


「……異物」

「いや、だからマジでうまいんだって!」


潮音が必死に反論する。

だが返ってくるのは冷たい言葉の嵐だった。

言い合いは一気に熱を帯び、


次の瞬間――

荒野だった。



真白の《結界・(ぜつ)》が空間を切り離す。

空は高く白く、大地だけが終末のような緊張を帯びていた。


夜翔が一歩踏み出す。


「理を乱すものは断つ」


カレンの背に炎が芽吹く。


「美しくない味に価値はないのよ!!」


真白の指先で護符が踊る。


「……ノイズ、排除」


タクトが帽子を押さえ、楽しげに笑う。


「へへっ、風向き最悪だ。でも嫌いじゃない」


ジンの角が蒼く光った。


「みゅ!!」


潮音は袋を抱えたまま半泣きで叫ぶ。


「おにぎりだぞ!?ただの昼飯だぞ!?なんで毎回こうなるんだよ!!」


その叫びは、蒼雷にかき消された。



戦いはいつも通り、誰も死なず、誰も折れず、ただ荒野に新しい傷跡を残して終わった。

そして何事もなかったように、彼らは食卓へ戻る。


包装を剥がす音。

海苔の乾いた匂い。

米のほのかな甘さ。


さっきまで世界を削っていた者たちが、今はただ黙々とおにぎりを頬張っている。


夜翔が昆布を一口噛み、目を細めた。

「……やはり、持続がある」


カレンは紅鮭を頬張り、満足げに笑う。

「この一口よ。これが完成」


真白は塩むすびを見下ろす。

「……再現性、良好」


タクトはおかかを食べて、鼻に抜ける香りに笑った。

「うん。ちゃんと流れる」


潮音はアボカド&パクチーを掲げる。

「だからこれも食ってみろって!!」


「「「「断る」」」」


「なんでだよ!!」


ジンだけが「みゅ?」と首を傾げた。



遠く。


その光景を、別の“目”が見ていた。

人の形をした、観測のための器。


ヘブンイレブンスの店員として配置されたそれは、無機質に記録を上位存在へ送っている。


対象群《問題児》。


接触を確認。


観測体、認識されかける。


反応――違和感。警戒。未看破。



……

あーあ。

接触しちゃったか。

まあ、そりゃするよね。

だってあの子たち、変なところだけ勘がいいんだもん。


……

でも、完全には見抜いてない。

“なんか変”くらいで止まってる。

それは助かる。

まだ、観測は続けられる。


……

しかし、妙だなー。

普通の人類なら、ああいう異物にはもっと鈍感だ。

違和感を飲み込んで、日常に埋めてしまう。

でもあの子たちは――

ちゃんと引っかかった。

しかも、アボカド&パクチーの方にも。


……

なにそれ。

人気商品なのか、売れ残りなのか分からない位置に置いたのに。

そこも拾うの?


……

観測精度、高すぎない?

いや、でも。

そのくせ、本質の一歩手前で、笑って流すんだよね。

気づききらない。

止まりきらない。


……

やっぱり、変。

選択も、味覚も、完成の定義も、全部バラバラなのに。

関係性だけは壊れない。

むしろ、ぶつかるほど強くなる。


……

しかも、観測体と接触した直後に、また食卓に戻る。

普通なら、もっと疑うでしょ。

もっと怖がるでしょ。


……

なのに。

おにぎり、食べてる。

なんで?


……

え、もしかして。

人類って、

“違和感を抱えたまま昼飯を食べられる生物”なの?


……

それ、強くない?

いや、気持ち悪いな……。

でも。

ちょっと、面白い。


……

結論、保留。

問題児群に対する観測、継続。

観測体の追加配置も検討。

今度は、もう少し自然にやろう。


……たぶん。





こんばんわ、アトレイです。


潮音さんの味覚のヤバさ、楽しんでいただけていますでしょうか?

一応、実際に存在している料理を調べているつもりです(調味料による魔改造はありますが)。


作者も料理好きでして、、、


多国籍料理を食べに行っては家で再現する、なんて生活をしています。

ネタが尽きないように、外食頻度増やさなきゃなー…。


引き続き、第9話も執筆中です。

よろしければ【ブックマーク】登録して頂けると嬉しいです。


でわでわ。



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