第8.5話 2つの寿司屋にて
当日、待ち合わせ場所にいつものことながら、向日葵がリムジンで現れた。
「では、私はお帰りになるまで時間を潰して参ります」
「わかりましたわ」
リムジンを見送ると、先に着いていた竜子のところに駆け足で向かう。
「竜子さーん!」
「あ、向日葵ちゃん!」
竜子も手を振り返す。
「こんばんは、今日は回転寿司をご教授お願いいたしますわ」
「あはは、そんなにかしこまらなくても……あれ、その服どうしたの?」
「ああ、これですか?」
竜子が向日葵のワンピースを指差す。
「以前、新聞部の皆様で渋谷へ行った時に買ったのですわ」
「へえー渋谷かあ、実はあたし、行ったことがないんだ。楽しかった?」
「ええ、先輩方のおかげで存分に楽しませていただきましたわ」
「そっか……あ、そろそろ入れるから、行こ!」
「以外と混んでますわね」
「うーん、あたしが来る時はいつもこんな感じだよ」
「庶民は人混みが好きなのでしょうか……」
それから10分後、2人の番になり、席についた。
「さ、注文しよっか!」
「板前はどう呼ぶのですか?」
「い、板前……?呼ぶ必要はないけど……」
「では、どこに板前が……?」
「作ってる人は、あの裏の厨房にいるよ?あたしたちは、このレーンから流れてくるお寿司を食べればいいの」
「こ、これが回転寿司……!」
驚愕の表情でレーンを流れる寿司を凝視する向日葵。
「とりあえず、何から食べる?」
おしぼりで手を拭きながら尋ねる竜子。
「そうですわね、まずはマグロの大トロから行きましょう、値段は……さ、300円!?」
同じくおしぼりで上品に手を拭いていた向日葵が、メニューを見ながら驚いた。
「うーん、やっぱりトロは高いよね
「逆ですわ!」
机から身を乗り出して叫ぶ向日葵。
「トロは本来、希少部位ですのよ!?過去にわたくしが家族で寿司屋へ行った際も、1貫で1600円はするものですわ!そ、それが300円……?どうなっていますの?どういうルートで回ってきますの?はっ、そうですわ、きっと味などの品質が低いからこの値段ですわね。そうとしか考えられませんわ!」
「ちょ、ちょっと!向日葵ちゃん声が大きい……!」
これ以上は店の失礼になると危惧した竜子が、慌てて止める。
「で、でも味はどれも美味しいから、とりあえず1貫食べてみてよ」
「……そうですわね、まだ完全には低品質が決まったわけではありませんから、まずはこの鯛をいただきましょう」
ちょうど目の前に流れてきた鯛の握りを受け取り、小皿に醤油を垂らし、ネタに少しつけて一口。
(び、美味ですわぁ〜!)
向日葵の口内を、幸せが選挙した。
(なんなんですのこれ……低品質どころか、きちんと人様に出しても申し分ないクオリティ……!これはさすがに300円ぽっちでは手が出ないでしょう!)
「美味でしたわ、ちなみにこれはいくらでしょう?」
「110円だよ」
「んなあーっ!?」
素っ頓狂な声を上げて仰け反る向日葵。
(こんなに美味なのに、300円のトロより安いなんて……!とても正規のルートとは思えませんわ……)
「だ、大丈夫?もしかして、本当に美味しくなかった?」
「……いいえ、逆ですわ、竜子さん。これはとても美味ですわ!」
「そ、そうだよね!?よかった。気に入ってもらえて」
「次は何を食べましょう?」
そこから2人は、さまざまなネタを食べまくった。マグロの赤身、大トロ、中トロ、ビントロ、エビ、サーモン、イクラ、ウニ、えんがわ、イカ、タコ、ハマチ、アナゴ、それから玉子。
「次は何食べるー?」
「一通りは食べたようですが……」
「あっ、ハンバーグが流れてきた!」
「……はい?」
「あたし食べよー!」
(ええっ!?)
困惑する向日葵をよそに、嬉々として皿を取る竜子。
竜子は、デミグラスソースが満遍なくかかったハンバーグ寿司を手に取り、一口で食べた。
「ん〜、美味しい!」
「あ、あのう……」
「どしたの?」
「ここ……回転『寿司』ですわよね?」
「そうだよ?」
「なぜ、ハンバーグがありますの?」
「これもお寿司だからだよ」
「しかし、このような珍妙なネタは、初めて見ましたわ……」
「あたしも、初めて見たときにはびっくりしたけど、食べてみたらすごく美味しかったよ。そうだ!向日葵ちゃんも食べなよ、初めてならさ!」
「そ、そこまで言うなら……いただきますわ」
向日葵も、恐る恐る1つ貰い、食す。
「……び、美味ですわ……!」
「でしょー?美味しいよね、これ!」
「ええ、ですが……なぜですの?」
「ん?どしたの」
「なぜこんなに美味しいネタがあの寿司屋にはありませんでしたの!?」
「……えーと、それは多分、回転寿司限定だからだと思うよ?」
「な、なんてこと!このような素晴らしい料理を、庶民が独占しているなんて!なんたる不公平!あの寿司屋にも今すぐメニューに追加するよう電話しませんと!」
「そ、それはしなくていいよ!というか、しない方がいいよ!」
「なぜですの!?」
「あー、えっと……もしまた食べたくなったら、またここに来ればいいから!ね?」
「……それもそうですわね」
落ち着きを取り戻した向日葵に、それに安堵する竜子。
(ここで「高級店はそんな幼稚なこと出来ないから」なんて言ったら、今度こそつまみ出されちゃうかもしれないから、あえて濁したけど、納得してくれてよかった〜……)
「それじゃあ次は、コーンマヨ軍艦にしよっと!」
「また聞き慣れないネタが!?」
同時刻。
『寿司の東川』と言う寿司屋では、高身長でガタイもしっかりした、ピンクの坊主頭の巨漢がひたすらにタコの握り寿司を食べていた。
「久しぶりね、武君」
「こちらこそです、先輩」
北山武が、目の前の女性に座ったまま一礼する。
「あら、忍さんでいいのよ?」
「それじゃあ忍さん、最近は娘さんの様子はどうですか?」
「竜子なら元気でやってるらしいわよ。高校生になって、友達もできたみたいで」
「そうですか……早いものですね、月日が経つというのは」
「そうねえ、つい最近まであんなに小さくて可愛いかったのに、今じゃ自転車競技部で1年生ながら大会に出場して3位入賞したくらいだもの」
「凄いじゃないですか、将来が楽しみですね」
「そういえば、武君も女子校で体育教師を務めているらしいわね。部活も立ち上げたんですって?」
「はい、総合格闘技部の顧問をやらせてもらっています」
「すごいじゃない、私は学生時代の思い出がほとんどないから、羨ましい限りだわ」
「そうなんですか?何か意外ですね」
「そうかしら?ふふふ」
それから1時間ほど、話に花を咲かせたのち、「ごちそうさまでした、今日はありがとうございました」と言って、武は退店した。
人物紹介:1
名前:夏海リリィ向日葵
性別:女
出身:東京都
生年月日:8/31
血液型:A型
所属:四季宮女学園高等部1年英語科
カップ:F
家族構成:父、母、長女、自分
趣味:写真撮影、愛犬と遊ぶ、庶民の味探訪
特技:柔術
好きなもの:サンドイッチ、愛犬、友達、カメラ、庶民の味、人助け
嫌いなもの:悪人、刃物
好きな色:金
得意科目:英語
苦手科目:家庭科
部活動:新聞部
委員会:学級委員
詳細:夏海財閥の令嬢でとんでもない大金持ち。ひょんなことから新聞部に入部するが、今では居心地がいいと感じている。周りの影響で庶民の常識を知ることが多い。




