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13 第1回公判期日5 証拠書類

裁判長が休廷を宣言すると、裁判官、裁判員、検察官、弁護人が立ち上がり、一礼した。


裁判長はそのまま裁判長席に座ったが、右陪席と左陪席の裁判官は立ったまま、裁判員と補充裁判員に法廷から出るようにうながす。それに従って、法廷から出た。裏通路のエレベーターから評議室に行くと、少しして裁判長も入ってきた。


「お手洗いに行かれる方は、この機会に行っていただいて大丈夫です。その後、次の手続で何をするのか、ご説明します」


5分くらいして、トイレ組も戻ってきた。左陪席の裁判官が説明を始める。


「この後、午前中の残りの時間で証拠書類と証拠物を調べます」

「証拠書類としては、被告人のパスポート情報や、搭乗した飛行機に関する情報、所持品がどのようなものだったか、覚醒剤が発見されたときにどのような状態だったのか、覚醒剤の鑑定結果、証拠物としては、覚醒剤や、それが隠匿されていた下着が取り調べ予定です」

「証拠書類の内容や、写真は、法段のモニターに映写される予定です。また、法廷で取り調べた証拠書類はすぐに裁判所に提出されて、この部屋に持ってくるので、たとえば画面が切り替わってしまった写真を見返したい、といった場合はいつでも確認することができます」


その後、少し時間があったので、質問タイムになった。


「初めて法廷に入ってみてどうでしたか」


裁判長が聞くと、5番の裁判員が口を開いた。


「法廷に入っていくとき、先週のリハーサルとは違って、それぞれの席に人がいて、しかもみんな立って迎え入れるような形で、とても驚きましたし、身が引き締まりました。あれは、全員起立するように呼びかけたりしてるのですか」


裁判長が答える。


「以前は、裁判官が法廷に入るときに、裁判所書記官が『ご起立ください』などと声をかけていたこともあります。今でも、そうしている法廷もあるようです」

「ただ、法令上の根拠がある話ではないので、この裁判所の法廷では、そのような声かけはしていません。それでも、検察官と弁護人は伝統的に起立で裁判官や裁判員を迎え入れるので、傍聴人もつられて立ってしまうのでしょうね」


そうこうしていると、11時になった。トイレタイムの後、法廷に行く。これまでと同じ段取りで法廷に入り、席に着く。


「再開します」


裁判長が宣言した。


「これより、証拠書類を取り調べます。検察官は、採用済みの証拠の内容を説明してください」


検察官が起立する。


「では、これから証拠書類の内容を説明します。お手元のモニターをご覧ください」

「まず、1点目の証拠書類です。これは、被告人のパスポートと、日本の入国管理局が管理している入国記録に関する証拠です」

「被告人のパスポートは、令和4年11月14日にベオボマ国クンタで発行されたものです。今画面に映っているのが、パスポートの被告人の氏名などが記載されているページです。このパスポートはICパスポートであり、正規に発行されたもので、偽造や変造の形跡はありません」

「パスポートには、令和4年11月25日にベオボマ国ドンムヤッタ国際空港で出国したスタンプがあります。今切り替えた画面は、そのページの写真を写したものです。これ以外に、出入国のスタンプやビザはありません」

「日本の出入国在留管理庁が管理している出入国情報によると、被告人が本件までの間に日本に入国した記録はありません」


「次に2点目の証拠書類です」

「今画面に映っているのが、被告人が搭乗した、令和4年11月25日、ベオボマ国ドンムヤッタ国際空港発、成丹国際空港行、サイム・ジェット808便のEチケット控えと、その搭乗半券です。被告人が入国時に所持していたものです」

「この航空券について、警察がサイム・ジェットに問い合わせたところ、令和4年11月20日に、シンガポールの旅行会社で発券されたものであるという返答が得られています」

「また、被告人は、令和4年11月30日、成丹国際空港発、ドンムヤッタ国際空港行のサイム・ジェット809便のEチケット控えを所持していました」

「このEチケットについて、警察がサイム・ジェットに問い合わせたところ、このEチケットに対応する航空券が実際に発券されており、発券場所は行きの航空券と同様、シンガポールの旅行会社であることが判明しています」


「続いて3点目の証拠書類です。逮捕時の被告人の写真です」

「被告人が長袖シャツ姿であったことが写真から分かります。2枚目の写真は背中側からの写真です」


「4点目の証拠書類です。被告人の所持品を写真撮影したものです」

「まず、ショルダーバッグですが、これは預託されたとの情報がなく、被告人が機内に持ち込んでいたものであることが明らかになっています。この鞄を拡大して写真撮影したのが、3枚目の写真です。横幅が約30センチメートル、奥行きが約10センチメートル、高さが約35センチメートルのショルダーバッグです」

「ファスナーを開けた様子が4枚目の写真で、在中物が写っています。バッグの中に入っていた品物を全部出して並べて写真に撮ったのが、5枚目以降です。順番に写真を切り替えていきますのでご覧ください。」


バッグの中には、1日分の着替えや、飲みかけの水のペットボトル、スマホの充電器などが入っているようだった。


「16番枚目の写真以降は、被告人が持ち込んだスーツケースです」

「黒色布製の、いわゆるソフトトロリーと言われるタイプのもので、被告人は搭乗時に預託手荷物としてこのケースを預けています」

「大きさは、横幅が約45センチメートル、奥行きが約20センチメートル、高さが約55センチメートルで、計算上の内容積が約60リットルのものになります。17枚目の写真がファスナーを開けたところ、18枚目以降が、在中物を取り出した写真です。順番に写真を切り替えていきますのでご覧ください」


スーツケースの中には、主に着替えが入っていた。ただ、ケースの大きさの割には中身はスカスカで、コートやジャンパー、パーカーの類いは入っていなかった。日本に持ってきた土産物の類いは特になさそうだ。まぁでも、帰りにいっぱいお土産を買うと考えれば、行きの荷物がこのくらいスカスカなのはあり得るのかもしれない。


「なお、このスーツケースは、押収後に解体検査されていますが、二重底などの細工は発見されず、写真に写っている以外の物が隠されていたりもしませんでした。法律で規制されている物品も、入っていませんでした」

「33番目と34番目の写真は、被告人が所持していた携帯品・別送品申告書です。麻薬、銃砲、爆発物等の日本への持込みが禁止されているものや、他人から預かったものを持っているかとの欄は、いずれも「いいえ」にチェックが入れられています」


「5点目の証拠書類は、本件覚醒剤の発見・押収状況に関するものです」

「これは、被告人が着用していた下着に縫い込まれた覚醒剤の発見状況を明らかにした書類です」

「具体的な検査状況や発見状況は、今日の午後に税関職員の証人尋問で明らかになります。これは、その前提として、下着を順番に解体していく様子を写真撮影したものです」

「1枚目の写真は、もともとの縫い目とは明らかに違う色の糸で当てぬのが縫われている様子、2枚目から5枚目までの写真は、その色の違う糸をほどいていく様子、6枚目から10枚目までの写真は、その当て布の下から、白色の結晶が入ったビニール袋3袋が発見された状況が、それぞれ映っています」

「そして、この3袋の覚醒剤の押収・領置の検察庁での管理番号が、令和4年領第4567号符号1、2、3であることも、併せて記載されています」


「6点目の証拠書類は、白色結晶の鑑定結果です」

「この発見された白色結晶を、科学捜査研究所で鑑定したところ、これらがいずれも、フェニルメチルアミノプロパンの塩酸塩の結晶で、その重量が合計約315.2グラムであることが判明したことを明らかにしています」


「7点目の証拠書類は、被告人が所持していたスマートフォンを解析した結果をまとめたものです」

「ワッツアップやテレグラムといった海外でよく使われているSNSがインストールされていましたが、メッセージのやりとりは確認できませんでした。また、電話帳には、香港のものと思われる電話番号が1件、登録されていましたが、他に登録はありませんでした」


「8点目の証拠書類は、場所の名称をまとめた書類です」

「まず、航空券や予約記録で『DMX』という3文字の略称がありますが、これは、ベオボマ国にあるドンムヤッタ国際空港を表します」

「次に、『NTX』という3文字は、成丹市にある成丹国際空港のことを表しています。この空港は成丹市内にあります」

「そして、成丹国際の到着エリアで、旅行者の荷物を検査する場所の正式名称は『入国旅具検査場』といいます。これらの名称が、この証拠で明らかになっています」


「証拠書類は以上です」

この作品はフィクションです。2023年時点での日本の法制度を前提にはしていますが、登場する国名や地名、会社名などは全て架空のものであり、扱う事件も実在のものではありません。

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