2話‐2
巨大な展示場の中に、大小様々な機械が並び立つ。
最近色々な意味で話題になっている機械人形や新型の携帯端末といった、テクノロジーに詳しくない俺でも用途がわかる物から何につかうのかさっぱりわからない物まで、様々な機械を大勢の人が立ち止まり、眺めている。
「……周りの人達に怪しまれていないよな? 俺達」
「機械の方に夢中で、私達の事なんて気にも留めてないから大丈夫だと思う……多分」
この場にいる人達は大きく分けて二種類。
まず、会場内を見て回っている見学者。
そして、機械の操作や細かい調整を行っている企業の技術者だ。
俺と颯花は、慣れないスーツを着込んで見学者に扮し、会場内を歩いていた。
……おまけに俺は、荷物の入ったカバンまで持たされている。
「……何で俺が、脅迫犯を探さないといけないんだよ。俺は無力なんだぜ?」
「文ちゃんは、親しい人に近くにいてほしいって思ったんでしょ。それに一成も文句を言いながら結局展示会に来てるじゃん」
文の頼み、それは会場を訪れている人達の中から怪しい奴を見つけてほしいという事だった。
「それにしても、怪しい人見つからないね。むしろ全員怪しく見えてきたから、まとめて吹き飛ばしちゃおうかな?」
「……冗談のつもりだと思うけど、洒落になってないぞ」
颯花に関しては、会場内にこっそり侵入して文以外に誰もその存在を知らない個人的な切り札になってほしいという狙いもあるらしい。
どうやら文は、今の警備体制に若干の不安を感じていたらしい。
……というか、どう考えても颯花に関しての方が本命だろう。
文の奴、俺をついで扱いした挙句、その後に兄さんは来たくないなら来なくても良いとまで言い放ってくれた。
そんな扱いを受けて黙っていられなかったから、俺は今ここにいるんだ。
別に、文の事が心配という訳では……少しは心配だ。
もし何かあった場合は、さっきの冗談を本気で実行してもらうか。
そのことを伝える為に、颯花へ視線を移す。
「颯花、いざとなったら思い切り吹き飛ばして――」
「一成! 前!」
颯花が声を上げると共に、俺は何かに弾き飛ばされて尻もちをついてしまう。
「痛た……」
「……大丈夫か?」
視線を上げると、黒いスーツとサングラスを身に付けた長身の男が身を屈めて俺に手を差し出していた。
どうやら、前方不注意でこの人にぶつかってしまったらしい。
「だ、大丈夫です。こちらこそ、前を見てなくてすいません!!」
謝罪しながら男の手を取ると、もの凄い勢いで引っ張り上げられ立たされる。
「……無事ならいい。気をつけろよ」
男は俺の手を離すと踵を返して立ち去ろうとする。
「あの! 貴方は大丈夫ですか? 怪我をしてたりしませんよね」
颯花に呼び止められた男は、彼女の方を見た途端、驚いたように動きを一瞬止めるも腕時計を確認するとすぐさま再び踵を返して歩き出す。
颯花の知り合い?
……いや、颯花は有名なヒーローだし、一方的に知られていてもおかしくはない。
まさか、颯花の事に気付いて逃げたのか?
「一成、アタシを見て逃げるって、あの人怪しいよね?」
「……ああ、追いかけた方が――」
「聞いた事がある声だと思ったら、風見君じゃないか! 奇遇だね!」
男を追いかけようとした俺達を、聞き憶えのある声が呼び止める。
……何でコイツがいるんだよ。
「し、白金君!?」
「白金、何でこんな所にいるんだよ?」
白いスーツを身に付けた白金望夫が笑顔でこちらに駆け寄ってきていたが、俺の姿を認めると笑顔が消える。
……制服といい、こいつは白が好きなのか?
「やあ、一成君。パパの会社が商品を展示しているから、見に来たのさ。……風見君は装備品に黒鉄工業の物が使われているからその関係だとわかるけど、君は一体どんな理由でここにいるんだい?」
そういえば白金の実家はテクノロジー系の会社だって聞いた事がある、それならここにいるのも納得か。
……しかし、どうしたものか。
俺がここにいる本当の理由は言えないし、どうしたものかな。
颯花の方へと視線を向けてみるが、突然現れた知り合い……しかも、その知り合いが苦手であろう白金である事に動揺しており役に立ちそうにはない。
……仕方ない、適当な理由をでっちあげるか。
「俺の妹が黒鉄工業で働いてるんだよ。今日はその新製品の展示を見に来てほしいって頼まれたから、仕方なく見に来たんだ」
「ハッハッハッ。冗談が上手いね、一成君。君の妹って、確か僕達より一つ年下だろ? そんな子が働いている訳――」
「黒鉄工業には若干十二歳という若さで技術主任に就任し、今日まで幾つかの最新技術を開発したという天才少女がいましたね。記憶が確かなら今年、高校に入学していたと思います」
いつからいたのだろうか?
白金が俺達のクラスに訪れる時、いつもクラスの外で彼の事を待っている男子の制服を着た生徒……今日はスーツを着ているな。
以前、白金に聞いてみたら、自身のお目付け役と答え、流石金持ちと思ったのを覚えている。
……ともかく、お目付け役が白金の台詞を遮る様に、天才少女……文の事を話す。
「僕がまだ喋ってるんだから遮らないでくれよ。……僕もその子の事は聞いたことがある、確か名前は……一成君と、同じ名字? え、一成君、マジ?」
言ってしまった。
妹が天才少女なのに、兄がこんな凡人だなんて比較されたくないから文の事を詳しく説明してこなかったのになあ。
「……マジ。このことはあんまり言いふらしたくないんだよ。他の奴には黙っといてくれ」
白金は驚きながらも頷いた後、何かを思い出したかのように腕時計に目を移す。
「わ、わかった。誰にも言わないと約束しよう。……それよりも、妹さんの作った物を見に来たのならこんな所にいていいのかい? そろそろ黒鉄工業の新製品発表の時間だよ?」
白金の言葉に慌ててスマホを取り出し時間を確認する。
……白金の言う通り、事前に文から聞いた新製品発表まで残り十分ほどになっていた。
「もうこんな時間なのか。助かったよ白金。それじゃあまた学校でな。行くぞ、颯花」
颯花に声をかけ、共に黒鉄工業のブースへと向かう。
「颯花君も行くのかい!? 待ってくれ、僕も行くよ!」
俺達は、振り返る事なく目的地へと急いだ。




