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2話‐1

 俺が万引き事件に巻き込まれてから数週間。

 軽いニュースにはなったがそれだけで、多くの人はそんな事件があった事すら、既に忘れているだろう。

 今は例によって颯花と文と一緒に晩飯を食べている所だ。


「……ご馳走様」


 そう言って文は、箸を置く。

 ……折角作った料理だというのに、全然手をつけた様子が無い。

 いつもなら、残さず食べる筈なんだが。


「どうした? 食欲が無いのか?」


「ああ……今日は同僚の研究員が旅行先のお土産にお菓子を持ってきてくれたんだ。だから、そんなにお腹が空いてないんだよ」


 ……嘘だな。

 今日だけ食欲が無いという話なら今の言い分も通るかもしれないが、ここ最近は食事の量がめっきり減ってしまっている。

 他に何か理由があるのだとは思うが、その理由が何なのかまでは俺にはわからない。

 ……直接問いただした方が、よいのだろうか?


「ここ最近ずっとこの調子じゃないか? 何かあったなら相談に乗るぞ」


「大丈夫だよ。兄さんに心配されるような事なんて、何も無いから」


 ……俺が聞いても駄目だ、話してくれないだろう。

 颯花に目配せをすると、彼女は文には気付かれないように俺に向けて頷く。


「文ちゃん。一成は文ちゃんの事を本当に心配しているし、アタシも力になりたいんだ。だから、何かあったなら話してほしい」


 颯花に諭された文は、少し考え込むような素振りを見せてから口を開いた。


「……颯花ちゃんがそう言うなら、話してもいいかな」


 ……文には昔からこういうところがある。

 俺が何か相談に乗ろうとしても中々話そうとしない癖に、颯花に聞かれたらあっさりと口を割るのだ。

 そりゃ同性の方が話しやすい事なのかもしれないし、颯花のように頼れるヒーローでもなければ文のように天才でもない俺は、頼りないから話してもしょうがないと思われているのはわかる。

 それでも、兄として少し自信が無くなってくるね。


「実は友人が一人、学校に来れなくなったんだよ」


 正直な所、文は少し変わった性格をしている。

 その文に友人ができていたというのがわかったのは嬉しい反面、その友人が学校に来てないとなるとそれは多少なりともショックだろう。


「病気か何かで暫く入院でもするのか?」


「いや、転校……うん、転校しちゃったんだよ」


 今、何故言い淀んだ?

 本当は転校した訳では無いのだろうか?


「それで少しだけ気分が落ち込んでたんだけど、もう大丈夫。二人に聞いてもらったおかげで、楽になったよ」


「それなら良かった。一人で溜め込んでいるよりは、誰かに相談したほうが楽になるもんね」


 ……颯花は気付いてないようだし、根掘り葉掘り聞くのはやめておくか。

 文が話してくれただけでも、今日の所はよしとしよう。


「……颯花ちゃんの言う通りだな。実は、今話した友人の事以外にも心配事があるんだ」


「心配事?」


 まだ何か隠しごとをしていたのか。

 まあ、話してくれるようだし、聞かせてもらおうか。


「実はボクが研究員として勤めている会社に脅迫状が届いていてね。今度の展示会を襲撃すると予告してきて、そこで発表する予定の最新技術を搭載した新製品と、その開発に携わったボクの身柄が狙われているんだ」


「……そういう事はもっと早く言えよ! 大変じゃないか!」


 一瞬呆けてしまうがすぐに正気を取り戻した俺は椅子から立ち上がって叫んでしまう。

 文が狙われているなんて、何でそんな大事な事を教えてくれなかったんだ。

 ……俺に教えても、どうしようもないとわかっているからか。


「気持ちはわかるけど落ち着きなよ、一成。文ちゃん、警察には連絡しているの?」


「勿論。当日は厳重な警備態勢が敷かれるらしいし、連絡がとれるヒーローも何人か護衛に呼んでいるらしい」


 颯花に宥められた俺は椅子に座り、落ち着く為に一度、深呼吸をする。

 ……対策自体はしっかり行っているみたいだが、それよりももっと確実な方法があるのではないか?


「そもそも、その展示会で新製品を発表しなければいいんじゃないか。そうすれば、脅迫してきた奴も手を出せないだろ」


 俺の意見を聞いた文は、首を横に振ってから口を開く。


「兄さんはそう言うと思ったから知らせなかったんだ。それなりにお金をかけているプロジェクトだから中止する訳にもいかないし、詳細は言えないけど黒鉄工業だけじゃ中止にするなんて決められないんだよ。それに、脅迫犯に一度屈してしまえば、これからもずっと脅迫されるし、新技術の開発や発表もできなくなるよ」


「……文ちゃんの言う通りかな。もし発表を中止にしても会社に直接乗り込まれる可能性もあるし、何とかして解決しないと」


 ……ここまでバッサリ否定されるとなにも言えない。

 技術やお金が大事なのもわかるが、自分の身を危険に晒すほどの価値があるというのだろうか。


「という訳で、二人に頼みがあるんだ」


「……頼み?」


 俺が呟くと、文は頷く。


「颯花ちゃんに展示会へ来てほしいんだ。後、ついでに兄さんも」

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