7、よろこび組へ
「なんということだっ!!」
「ああ、どうしましょう。何かの間違いではないの?」
驚きで問い詰める言葉さえ失ったままの両親と私を置いて、ハリス様はさっさと帰っていった。まるで業務連絡を告げるかのように。
「なんというやつだ! 良い縁談だと有頂天になりすぎて、下調べが足りなかった」
「どういうことですの、あなた」
「実は昨日聞いたのだが、ハリス伯は前妻が亡くなってから今までの間に三人も婚約を破棄していたのだ。だがロザリーだけは大丈夫と思ったのに……」
「そんな……。では最初から破棄するつもりだったの?」
「分からぬが、あまりに条件の良すぎる縁談だった。もっと疑うべきだった」
「ああ、どうしましょう。このままではロザリーはよろこび組に連れていかれるわ」
私よりも両親の方が動揺していた。
私は半分驚いたものの、このままハリス様と結婚しなくて済んだことに少しだけホッとしていた。
両親には心配させるから何も言ってなかったが、きっと結婚しても王宮の闇が待っている。
この予感はきっと正しい。
ハリス様は元々私を愛してなどいなかった。
なにが目的かは分からないけれど、最初からまるで生贄を差し出すように私を王宮の闇の中に放り込むつもりだったんだ。
心変わりをしたのか、最初から婚約破棄するつもりだったのか分からないけれど。
ともかくあの人は田舎貴族の娘などを本気で幸せにしようなんて思っていない。
なにかのゲームのように私を駒の一つとして取り出しただけだ。
そうしてそのちっぽけな駒を気まぐれで王妃様のよろこび組に放り込むことにしたのだ。
ハリス様にとっては、ほんの退屈しのぎの一手として……。
「逃げるのよ、ロザリー!」
母は青ざめた顔で叫んだ。
「そ、そうだ。逃げるんだロザリー。明日には王妃様の馬車が迎えにくる。その前にどこかに身を隠すんだ!」
父も正気を失ったように叫んだ。
「逃げるってどこに? 身を隠してどうなるのですか?」
二人があまりに動揺しているおかげで、私はひどく冷静だった。
「どこか遠縁のお屋敷に匿ってもらいましょう」
「うむ。それがいい。すぐに馬車の手配をしよう」
二人とも私を隠す算段で頭がいっぱいのようだ。でも……。
「私が逃げたらお父様はどうなりますか? このお屋敷は?」
「そ、それは……」
「王妃様の命に背くことになるから……」
二人は急に現実に引き戻された。
「私の代わりにお父様とお母様が牢屋に入ることになるでしょう。そして匿われた私は何者になって生きていくのですか? 町民になって? 農民になって? それとも貧民になってお父様たちを犠牲にした悔恨を抱えて一人で生きていくのですか?」
「それは……」
「ああ、ロザリー……」
母はさめざめと不幸な娘の未来を思って泣き出した。
「泣かないで、お母さま。覚悟は出来ています。これで良かったの。不誠実なハリス様の妻となって地獄に生きるより、ナーナのいるよろこび組に行くわ」
「でもロザリー……」
「入ったら二度と出て来られないと聞くわ。もう私たちはあなたに会えないの?」
母は泣きはらした顔で尋ねた。
「いいえ。きっと出てくるわ。必ずお父様とお母様のところに戻って参ります」
「でもどうやって……」
「誰も出た人はいないのよ。生きているのか死んでいるのかさえ分からないのに」
「ハリス様と結婚しても、私はナーナを助けるためによろこび組を調べるつもりだったの。どうせなら中に入り込んだ方がてっとり早いわ。だからこれで良かったの。心配しないで。中にはナーナもいるし、他の知り合いもいるわ。きっと大丈夫よ。どこかに道はあるはずよ」
「ロザリー……」
「ああ、私の可愛いロザリー」
私は両親に抱きしめられ、最後の夜を過ごした。
そして翌日。
迎えにきたワインレッドの馬車に乗せられ、王宮へと旅立ったのだった。
ここまでお読み下さりブックマーク、評価まで下さった皆様、本当にありがとうございます。
大変申し訳ないのですが、一度ここで閉じてタイトル、その他もろもろ練り直しさせて下さいませ。
「ブス女……」の時もタイトル、あらすじなどをもう少し変えてみてはとアドバイスを頂いておりながら、気に入ったフレーズがあると、どうもそれに固執してしまって他の言葉が思い浮かばず……。
展開も遅いですね。
腹黒王子がまだまともに出てきておりません。
ここまでお付き合い下さった皆様には、腹黒王子はまだか、とお待ちいただいたまま閉じてしまって大変申し訳ございませんm(__)m
もう少し流行を取り入れて練り直します。
こうすればいいんじゃないかというご意見がございましたらご教示くださいませ。
(心が折れない程度の優しめの助言でお願い致します)
中途半端に閉じて、本当に申し訳ございませんm(__)m