アテラ山中腹ーーワイバーン地帯
ーーアテラ山の中腹
ここは小型の竜種が住まう危険地帯。上位の冒険者でさえ、普通は通らない場所だ。
ごく稀に竜の素材が欲しい冒険者などが狩りに来たりするが、大抵の者は小型といえど竜種の大群に叶うはずもなく、喰い殺されるのがオチだ。
そんな危険地帯に、たった30人あまりで挑もうとする山賊達がいた。
ドパァァンッ!
「これで20匹目だぜ!」
魔銃を片手にそう叫んだのは、フリード山賊団屈指の狙撃手、ライルだ。
ライルは私の1個下で、山賊団の中では一番年下だ。だがそれとは裏腹に、体に魔力を宿しており、山賊団で唯一魔銃を扱える者だった。
ゴルダのアジトから盗んできた魔銃が随分と気に入ったようで、さっきから襲ってくる小型の竜、ワイバーンを屠りまくっていた。
「ライルの奴、強いなー」
隣にいたアルラさんが関心気味でそう言った。
ワイバーンは、中位ぐらいの冒険者が1対1でやっと勝てる相手だ。つまり、私達なら1人で2匹ぐらいは狩れるだろう。
だがあくまでも目的は、山頂に住む、人間の言葉が分かる大型の竜種なので、邪魔するワイバーンだけを狩っていた。
ふと、フリードさんが辺りを見回した。
「……数が増えているな」
確かにその通りだった。気がつけばワイバーンの数は、5匹あまりだったのが、今では15匹程度まで増えていた。
たしかにワイバーンは攻撃的だが、それでもある程度の理由がないと、無謀な攻撃はしてこないはず。
考えられる原因はつまりーー
「無駄にワイバーンが襲撃してくる原因はこいつか!」
今もヒャッハーしながら元気にワイバーンを屠りまくっているあの少年、ライルだ。
ライルが背負っているのは、ブレイズドグラの肉であり、ワイバーンはそれを狙っていると考えた。
「ライル、そのブレイズドグラの肉を俺に渡せ!」
「フリードさん了解しましたぁ!!」
ライルはそう言うと、ブレイズドグラの肉をフリードさんめがけて思いっきり投げた!
そう総量20kgのブレイズドグラの肉は、大きな円を描いて飛んでいった。そして、フリードさんの胸元に到着する直前で事件は起きた。
グギャァァアア!!
「「あ」」
大きな円を描いて飛んだブレイズドグラの肉はフリードさんの所に到達する前に、赤色のワイバーンに横取りされてしまった。
赤色のワイバーンは、大きな雄叫びをあげると、どこかへ飛び去ってしまった。
呆然とする山賊団員たち。視線は自然とライルの方へと向いた。
そして、ライルが放った一言はーー
「お、追いかけてきやすっ!!」
皆んながジト目で見つめる中。ライルは、赤色のワイバーンが飛んで行った方向へ走っていってしまった。
ワイバーン達は肉が無くなると、私達に興味がなさそうに飛び去ってしまった。
「はぁ、しょうがねぇ。アルラ、アリア、助太刀に行ってやれ」
「仕方ないか、ライルに渡した俺らも悪かったかもな」
「そうね、1人だと心配だし付いて行ってあげましょ」
呆れた様子のフリードさんは、私とアルラさんに向かって、助太刀するように指示をした。
1人で行かせて死なれても困るので、渋々私とアルラさんはライルの走っていった方へ向かうのだった。
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ドパァァン!ドパァァン!ドパァァン!
「待て待て待てぇ〜!!」
赤色のワイバーンを追いかけて、岩から岩へと飛び移るライルの姿があった。片手で魔銃を乱射しながら、赤色のワイバーンを追いかける様は狩人そのものだった。
赤色のワイバーンの方も華麗な避けで、ライルの精密射撃を避けていた。
「くっそぉ、俺の射撃避けるなんてあいつ絶対普通のワイバーンじゃねぇっ!」
一旦立ち止まり、乱射するのをやめて、さらに精密な射撃をすることにした。
背負っていたもう1つの魔銃、『魔導狙撃銃』でより正確に射撃をする。ライルは肩に魔導狙撃銃を乗せると、弾を装填した。
「ん〜、距離300…風左前2.5………………ここだ!!」
ドパァァン!
放たれた弾は麻痺弾。その計算され尽くした精密な射撃は、直線を描き赤色のワイバーンまで到達する。
グギャァァ!!
「よし、ヒット!」
そのまま赤色のワイバーンとブレイズドグラの肉が落下していくのが見えた。ライルは、その方向へ走って向かった。
向かった先には、予想通り赤色のワイバーンとブレイズドグラの肉が落ちていた。ライルは、赤色のワイバーンに魔銃を向けて、こう言い放った。
「この野郎、手間かけさせやがって」
そして、その引き金を引こうとした時だった。
「!?」
赤色のワイバーンの体が光り始めて、変形を始めた。
突然の出来事に、「進化か!?」とか「第2形態!?」など勝手なことを叫ぶライルにツッコミを入れたのは、予想もしない者だった。
「………勝手に私を強化しないで」
「え?」
ライルの目の前に現れたのは、正確にはそのワイバーンが変身したのは、翼と角が生えた少女ーーつまりは竜人だった。